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アルティメイト ~最凶な世界でもエンジョイライフ~  作者: ちょばい


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2.普通のおっちゃんの普通じゃないお話

【リプレ視点】

「ほら、降りるぞ。あんまり車の中でモタモタしてると、何事かって思われるぞ」

「待って……少しだけ待って……」


両手で顔を覆ったまま、私は蚊の鳴くような声で返した。

顔が真っ赤になっているのが自分でもよく分かる。せめてこの熱が冷めるまで待ってほしかった。


「ったくなぁ……遅いからもう迎えに来ちまったぞ、あいつら」

「えっ!?」


顔を上げ、慌ててフロントガラスの先を見る。

さっきまで生物兵器の大群だと思い込んでいた、あの異形パワーアーマーの隙間から、二人の人影が歩み出てくるところだった。


あの男が、ヴィクトールさんの言っていた『サイン』で……。

その横にくっついている小柄で可愛い女の子が、あの生物兵器の『アミュー』なのだろうか。


緑がかった黒髪に鮮烈な赤メッシュが混ざった彼女は、およそ兵器という言葉からは程遠い可憐さに見えた。けれど、その腰からは頑強な尻尾が不気味に伸びて、床をピシャリと叩いている。なるほど、アレが生物兵器…


ヴィクトールさんが溜息混じりに車から先に降りた。私も慌てて助手席のドアを開ける。


「よぉ、サイン」

「ヴィクトール、もう1週間経ってたんだな。作業に没頭してて全然気づかなかったぜ」


二人が親しげに握手を交わす。

その間、アミューと呼ばれた少女の切れ上がった瞳は、車から降りた私をじっと、値踏みするように捉えて離さなかった。あまりの視線の鋭さに、背筋に冷たいものが走る。


すると、アミューがサインの袖をツンツンと引っ張り、ひそひそ声で何かを囁いた。その声が、静かな地下アジトにうっすらと響く。


「あの子……思ったより、……………そう」

「……マジ?」

「……ほう」


サインが片眉を上げ、ヴィクトールさんが驚いたように声を漏らす。

なんて言ったんだろう。肝心な部分が聞き取れなくて、胸がざわついた。


私は小さく咳払いをし、意を決して一歩前に出る。


「どうも……リプレです」

「よろしくな。俺はサインだ」

「アミューだよ!」


アミューはさっきの鋭い視線が嘘のように、人懐っこい笑みを浮かべて手を振った。

お互いの自己紹介を軽く済ませ――その直後だった。サインが、何でもない世間話のようなトーンでいきなり特大の爆弾をぶっこんできたのは。


「あ、後々のトラブルに繋がると厄介だから先に言っとくわ。俺達、ロウの仲間だから」

「おいっ、サイン!」

「……………」


ヴィクトールさんが慌てて制止の声を上げる。

私は……耐えた。奥歯がガチガチと鳴るのを必死に抑え込んで、拳を握りしめた。もし、さっきの突入時の恥ずかしさで脳が麻痺していなかったら、間違いなくその場で銃を抜いてしまっていただろう。

ヴィクトールさんもこの流れは聞いていなかったらしく、サインのあまりにも唐突なカミングアウトに、形相を変えて驚いていた。


「いきなり言う奴があるか、このバカッ!」

「どうせ後でバレるだろ? だったら先に言っとくのが一番お互いのためだと思ったんだよ。……しかし、よく耐えたな、リプレ」

「……私が、その場で耐えられないと思って言ったの?」


怒りを限界まで抑え込んでいるせいで、声が低く、歪んで震えてしまった。


「別に? 耐えられても耐えられなくても、どっちでもいいとは正直思ってた。あ、一応言っとくけど、お前がロウさんへの復讐を考えてるとしても、俺は止めねぇよ。やりたきゃやればいい……十中八九、返り討ちにあって一瞬で死ぬだろうけどな」

「ッ! ……そんなこと、理解してるわよ」


冷徹に現実を突きつけられ、私が悔しさに唇を噛んだ、その時。


「……すごいね、リプレ!」


突然、横からアミュー……さん?がパッと顔を輝かせて私を褒めちぎってきた。

あまりに無邪気な声に、毒気を抜かれて「え?」と間抜けな声が出そうになる。


「怒ってるのに、もう頭の中が怒りでいっぱいなはずなのに、ちゃんと現実を見て、考えて、冷静な判断ができてる。普通ならそんなことできないよ」

「……っ。私はね、自分の感情に左右されたりしないの。ちゃんと現実を見てるのよ!」


アミューの真っ直ぐな瞳に気圧されながらも、私はフンと鼻を鳴らして胸を張った。

本当は、さっきの大勘違いの恥ずかしさがストッパーになっていただけなんだけれど……せっかくの誤解だし、ここはプロっぽく見せるために乗っかっておくことにした。


ふと横を見ると、ヴィクトールさんの顔が妙な形に歪んでいる。あれは、必死に笑いを堪えている時の顔だ。……絶対にバレてる。後で脛を蹴ろう。


「まぁ何はともあれ、俺にいきなり銃を向けたりしないってんなら、話を進めても大丈夫そうだな」

サインは肩の力を抜くと、丸テーブルの方へと一同を促した。


「ああ。それで、今日はどこに行くんだ? またあのミートゾーンか?」


ヴィクトールさんがパイプ椅子に腰掛けながら尋ねる。すると、サインは少し言いにくそうな、躊躇うような空気を見せ――


「……いや。タイミングが悪いことに、今日はな……どこにも行けないんだわ」














「なるほど。要するに、どこもかしこも探索するには危険すぎて、やめとこうって話だな」

「そういうこと」


サイン、ヴィクトールさん、アミューさん、そして私。

4人が丸い簡易テーブルを囲むように座り、現状の整理をしていた。


サインの口から語られた前線の状況は最悪だった。


まず、ミートゾーンは【ブレイカー教神父】と【賞金兵器:ブラックブレイク】による肉弾戦が激化しすぎて、生物兵器の生息域ごと消し飛ぶレベルの騒ぎになっていて近寄れない。


ハイガル戦地は、そもそも私のような新米が足を踏み入れるには、敵と環境が厳しすぎる。


ランド平原は、最前線級の凶悪な兵器達が大挙しており、今入るのは自殺志願者と同義。


「もっと遠くのエリアとなると、完全に泊まりがけの遠征になるからなぁ。泊まりの探索は流石に無理だろ?」

「そうだな。秘密の外出だからなこっちも。あんまりにも長く不在だと怪しまれる」

ヴィクトールさんが腕を組んで頷く。


「というわけでな、即興で代替案を考えてみたんだが……今日は『座学』ってのはどうだ?」


座学。外の世界について、知識が圧倒的に足りていない私にとっては、確かにこれ以上ないほどありがたい提案かもしれない。……けれど。


「私が、あなたの言うその『座学』とやらを、素直に信用できると思っているの?」

ジロリと睨みつける私に、サインは苦笑しながら言った。


「その警戒は間違っちゃいない。別に信用なんてしなくていい。俺個人の主観も山盛りだし、間違ってるところだってあると思う。ただ、俺はこの件を仕事として請け負ってるんだ。報酬をきっちり貰うために、仕事分の役目は果たすつもりだよ」


そう言って、サインは真っ直ぐにこちらの目を見つめて真面目に話してきた。その真摯な態度を見る限り、そこは嘘偽りのない言葉なのだろう。


「……その報酬って、何なの?」

気になって尋ねると、サインは隣のアミューの頭をポンポンと叩いた。

「『アミューの、イツボシシェルター入場券』だ」


……えっ? 思わず声が出そうになった。


「お前……そんな報酬で、うちの引率を買って出たのか? 俺も初耳だぞ」

ヴィクトールさんも呆れたように目を見張る。


「そうだぞ? アミューは美味いもんが大好きなんだ。だから、美味いもん天国のイツボシシェルターにどうしても連れて行ってやりたくてさ。なぁ、アミュー」

「うん!」


アミューさんは嬉しそうに頷いた。

なんというか……私の思い描いていた、冷酷で強欲な『外のウォーカー』のイメージと決定的に違う。この邪気のない温かいやり取りを見ていると、胸の奥がチクリと痛む。昔の、今は亡き父との何気ない日常を思い出してしまった。


「さて、じゃあ早速座学といくか。リプレ、何から聞きたい?」

サインがこちらを見て聞いてくる。私は小さく息を吐き、思考を切り替えた。


「……あなたから見て『ウォーカー』っていう、外の人間はどういう存在なの?」

「ほとんどがゴミだな」


即答だった。あまりに迷いのない言葉に、私は少し目を見張る。なるほど、確かにこれはヴィクトールさんの言っていた『スカベンジズとウォーカーの距離感』そのものだ。


「まず、前線に命懸けで行こうともしねぇウォーカーはダメだ。生きてるくせに死んでやがる。その癖、他人を陥れたり騙そうとする小悪党だらけだ。大半の奴は、関わるだけ人生の時間の無駄だと思うぜ」

「なるほど……この形式でいいわ。じゃあ、私の質問にどんどん答えてくれる?」

「ああ、いいぞ。何でも来い」


この一問一答の形式なら、私の知りたい外の情報が効率よく、時間の無駄なく引き出せる。ヴィクトールさんもアミューも、静かに私たちの会話に耳を傾けていた。


「あなたはどうやってこの外の世界で生きているの?」

「普通に前線に行って、売れそうな物資を集めて、帰ってそれを売って飯を買う。それだけだ」


「この隠れ家の壁一面にかかっている、物騒な武器の数々もあなたが集めたの?」

「そうだな。俺が頑張って集めてきた、努力の結晶だ」


「……じゃあ、あそこにある灰色の、人間の形をやめた異形のやつは一体何?」

「ああ、あれはアミュー用のパワーアーマーだ。大半が俺がロマンを詰め込んで設計したやつだな。まだ前線探索で使ってないからどれも新品だ」


あ……あれを本当に着るんだ。っていうか着れるの……? 明らかに四足歩行のトカゲみたいな形をしたやつまであるけれど……。


「前線って……具体的にどんなところなの?」

「おっ、ちょうどいい質問だ。この間、ランド平原に行った時に会ったゴザルの仲間から、ゴザルの前線の戦いの映像を貰ったんだよ。パワーアーマー作りが忙しくて後回しにしてたけど、一緒に見るか?」

「……は?」

「おいサイン! お前のとこ、あの【ゴザル】も所属してんのかっ!?」


ヴィクトールさんが今日一番の大声を上げて椅子を鳴らした。ヴィクトールさんも知らなかったのね。


あの【人類最強の剣豪】は、誰ともパーティーを組まない孤高のソロウォーカーだと誰もが信じて疑わなかった。それは、他人と行動している姿など一度も目撃されたことがないからだ。


シェルターで上映されている映画でもそうだった。ゴザルはいつだって一人で戦っていた。しかし――。


「え? 普通に仲間だが? 弄るとリアクションが面白くてさ、いつも『ござーーーっ!』って叫ぶんだよ。ほら、この間送られてきた画像」


サインが笑いながら差し出してきた端末の画面を、私とヴィクトールさんは恐る恐る覗き込んだ。

そこに映っていたのは――何かの事故によって、顔面に食品用ラップフィルムを限界までピッチリと押しつけられ、鼻も口も無残に押し潰されて苦悶の表情を浮かべている、映画の面影が一切ない『人類最強の剣豪』の、最高に哀れでシュールな顔写真だった。

「っていうかよう、ヴィクトールとミートゾーンで使ったあの、地面に擬態した休暇所を作ったのもゴザルだぞ?言わなかったっけ?」

「…言ってないな」


そして…アミューさんが持ってきてくれたモニターでゴザルの前線の戦闘の鑑賞会が始まった。

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