44.ダンゴロムシ甲殻防衛戦 その3
【サイン視点】
ああもう!! そりゃあ前線であれだけ派手に爆音響かせて戦ってりゃ、こうなりますよねっ!!
『アーマードアミュー』は、今まで数々の生物兵器をぶち殺してきた機械兵器ナックラーを完全破壊して見せた。
しかし、その激闘の戦闘音がランド平原に響き渡りすぎたのだろう……
俺とアーマードアミューは今、あの気味の悪い生物兵器【アポアポ君】を主とした、生物兵器たちの群れに完全に包囲されていた。
アポアポ君の周囲を固めるのは、あのクソデカい剛腕で機械兵器の装甲を引きちぎった【ギガント】に、ダンゴロムシ並みにカチカチに硬そうな甲殻を持った【ビートルウォーリア】。
まさに、今日このランド平原で出会ったヤバい生物兵器のバーゲンセール状態だ。
アミューがその場で急いで左肩から生成し、発射した【多連装爆雷フレシェットランチャー】の面制圧爆撃のおかげで、辛うじて敵の初撃の足止めだけはできた。そして俺の鼓膜はまた破れたので紫で治療だ。
今回は俺もアミューの戦闘だけに甘えるわけにはいかない。背負っていたハイエンドライフルを手に持ち、パワーアーマーの照準を合わせてひたすらに引き金を撃ちまくる。
……クソッ、マガジンに「爆発弾」をフル装填していたのを完全に忘れていたから、発砲時の爆発音が洞窟内に響いてまた耳がイカれそうだ。――が、流石に生身の人間のテクノロジーの武器じゃ、前線級の化け物ども相手にはほんの一瞬の足止めくらいにしかならない。
「ガアアアアァァァァァァーーーー!!」
しかし、こちらには俺が命名した超かっけぇ『アーマードアミュー』がいる。
アミューはアポアポ君の顔面から生えたキモい4本の変異腕を、ダンゴロムシの甲殻で強化された鋭い爪で一瞬にして切り裂き、さらにギガントの太い剛腕と胴体を、あの【三本の刃付きの最高に格好いい尻尾】のフルスイング一閃で跡形もなく消し飛ばす。ついでにビートルウォーリアの脳天へ向けて、右肩からオートで発射し続けている生体銃の弾丸を次々にめり込ませていく。
ダイナロイドにはスタミナ切れという概念がないのだろうか……アミューはもうずっと、最大出力で戦い続けている。そろそろ安全な場所で休憩させてあげたい。
そんな俺の、親心にも似た心配……という名の切実な願い届いたのか。
俺たちの前に、ランド平原の出口方面の洞窟からズザァーーーーーーー!!と激しい砂煙を上げて、最高の救世主が颯爽と現れた。
俺とアミューは、その人間ではない…しかし確実に俺達の仲間のシルエットに向けて、思わず同時にその名前を叫んでいた。
「「――マリアンヌ!!」」
ドクターが、全体通知を見てすぐに派遣してくれたのだろう。あの一番デカい……ドクターの愛が詰まった、最強の肉人形『マリアンヌ』が、俺たちを援護するために全力で走ってきてくれたのだ。
確かに、物資や余計な装備を持たずにマリアンヌ一人だけを単身で先行させるのであれば、地形を無視して時間もかからずに現着できるのだろうな。ドクターの肉人形は、俺達ウォーカーみたいに弾薬やサバイバル物資の面倒な準備が一切必要ない。
身一つで完結できるその圧倒的な機動力は凄まじいものだな。
その時、アーマードアミューの背面から、不意に勢いよく白い煙が大量に噴き出た。
あれは……【ニンジャマスターの煙玉の煙】か? いつの間に食べたんだ、お前……
アミューは太い尻尾を大きく振って風圧を起こし、その白い煙幕を生物兵器たちの視界へ向けて一気に吹き飛ばした。しかし、前線の化け物ども相手にそんな目潰しをしたところで、一瞬たじろぐだけの時間稼ぎにしか……
「マリアンヌ! これ、使って!」
「……(無言で頷く)」
アミューは自身のダンゴロムシの甲殻をコネコネと液状にして、マリアンヌの両拳にぴったりと適合する形状の「トゲトゲメリケンサック」を瞬時に生成し、装着させた。マリアンヌにもアミューの意図がちゃんと伝わっているのだろう。両手を大人しく差し出して、アミューの作業をじっと待っている。
今の形態のアミューは、全身に灰色の生体外骨格毛を纏って見た目がとんでもない怪物になっているのだが、マリアンヌにもちゃんとアレが「アミュー」だって識別できるんだな……
いや、そもそもアミューは口が無いマリアンヌと以前から、何故か普通に喋れるようだったし、つまりそういうことか。
俺は攻撃の手をやめ、うっかりその光景に見入ってしまった。
「――っ、しまっ、!」
直後、白い煙幕の向こうから、巨大な岩石が、猛スピードで俺目掛けて飛んでくるのが見えた! 反応が完全に遅れた! もう避けられないっ……!
ドゴォーーーーーーーン!!!!
だが、俺が潰される前に、マリアンヌ渾身のトゲトゲメリケンパンチが、巨大な岩石を木っ端微塵に粉砕してくれた……本当に助かりました。
マリアンヌは、新調されたメリケンサックの具合を確かめるように、生体筋肉の手の平を開いたり握ったりしている。
そして……煙の向こうで蠢く生物兵器たちがいる方向に向けて、ボクサーのように低く拳を構えた。アミューもその横に並び立ち、獣のように構える。
「……」
「うん! やるよ!」
あまりにも絵面が最高すぎたので、俺はすかさず情報端末でその二人のコンビのツーショット写真を激写し録画ボタンを押した。生きて無事に帰れたら、ドクターに後で送りつけてあげよう。
そこからの、マリアンヌとアーマードアミューのコンビネーションはまさに圧巻だった。
アミュー1人じゃどうしても処理の速度が間に合わなかった生物兵器の群れが、見る見るうちに解体されていく。マリアンヌのメリケン拳は、あのカチカチに硬いビートルウォーリアの甲殻をも容易に貫通し、白い血と内臓が甲殻と共に飛び散る。
…あれはダンゴロムシの甲殻とどっちが硬いんだろうか。
そしてマリアンヌの豪快な背負い投げの威力が凄まじい。あの巨大なギガントの剛腕を真正面から両手で無理やり握りつぶして持ち上げ、そのまま背負って地面や、他の生物兵器の頭上へと直撃で叩きつけるのだ。
そのたびに、洞窟の地面が地震のように激しく揺れ、天井の岩盤からハラハラと不穏な砂ぼこりが落ちてくる。……あの、そのカッコいい大技、普通に天井が崩落して俺が生き埋めになりそうなんで、できればやめてほしいです……
しかし、俺は2人の超次元バトルの邪魔にならないように、ダンゴロムシの死骸の影で震えながら見てることしかできないんですけどね……
激闘中の二人に、そんなチキンな要望を出すことすら、気が引けてしまって声が出ない。
ライフル弾の残弾ももうほとんど残ってないし、俺にできることと言えば……目の前にあるダンゴロムシの巨大な死骸の影に必死に隠れて、2人の奮闘っぷりを端末でカメラ撮影し続けることくらいだ。
そして戦況はこちらの完全な優勢かと思われたが、洞窟の奥から、またしても不穏な音が響き渡る。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ………………。
あーもう、音だけで完璧にわかるよ。これ、死骸じゃなくて「完全に生きてる本物」の個体も、戦闘音に釣られて来ちゃったんですよねぇ!!!!
初めてミツガレと会った時に彼女が言っていた、【欲張るとろくな事がない】っていう金言を、もれなく自分で完璧に体現してしまったな!
その地鳴りのような回転音の正体は一瞬で姿を現し、通路にいた他の邪魔な生物兵器の肉体を強引にすり潰しながら、猛スピードで突っ込んできた。――当然、本物の生きた『ダンゴロムシ』のだ。
マリアンヌとアミューが素早く2人並んで前に立ち、そのダンゴロムシのデタラメな突撃の制動力を肉体で受け止めようとする。
――ド……プッ、………………キーーーーン……。
次の瞬間、世界からまた全ての音が完全に消えた。
頭の芯が急激に痛くなって気持ちが悪い。三半規管がバグって目がグルグルと回る……あまりの至近距離での超質量衝突の爆音に、生身の鼓膜が耐えきれずにまたまた完全に破れたようだ。
俺は慌てて、救急ポーチから紫の注射器を取り出し、パワーアーマーの隙間から首へと強引に突き刺して治療する。……くそ、このままだと本物の薬中になっちまうよ。俺、今日だけで一体何本の紫を使ってるんだ……
耳鳴りとグルグルの視界で頑張って見ると、マリアンヌとアミューの2人は、ダンゴロムシの肉体をしっかりと受け止めていた。棘による肉体損壊を避けるため、モーニングスターのような尖ったトゲトゲの部分を紙一重でかわし、装甲の平坦な部分を4本の腕で全力で押し込んでいる。だが、衝突の衝撃を完全には抑えきれなかったのか、2人の足元は洞窟の地面を何メートルも激しく滑って削り取っていた。
受け止められるかどうか――そんな心配をする頃には、もう衝突してしまったな。
完全に回転が止まったダンゴロムシが、自身の巨体を身じろぎのように動かし、地面の岩盤に深く固定し……次の瞬間、機体の各所からおぞましい数の「生体銃」をニュキニョキと生成し始めるのが見えた。
それを確認した瞬間、俺はダンゴロムシの死骸の影へと頭を引っ込めて隠れた。
きっと、こいつ自身の殻(死骸)なら、あの生きた個体が放つヤバい炸裂生体銃弾だって弾き返せるだろ! 俺程度にあんなの避けられるわけがない!
紫の修復効果が効いてきたのか、俺の耳に少しずつ音が戻ってくる……
「――おいおい、こりゃあ一体どういうことだよ、サインの野郎ッ!」
「詐欺だ! 詐欺だろこんなもんっ! 生きてるダンゴロムシを自力で殺せりゃ、そりゃ素材も取り放題だろうよ!」
「アミューちゃん!今すぐ援護するよ!」
「っべー、深夜の寝起き一番のガチ前線戦闘は、マジで心臓に悪いって……」
「ケケケ……まぁ、マリアンヌもここにいるなら、戦力的には余裕だろ」
絶望の弾幕が始まる寸前、俺の……いや、俺達の仲間たちが、ついにこの座標へと現着した。
【アミュー視点】
殺して、壊して、削って、殺して……。
襲い来る敵をバラバラに解体していくうちに、私の脳の奥で、段々と「殺戮することそのもの」が心地良くなってくるのを感じていた。
でも、私は知っている。この心地いい感情に身を委ねて完全に呑み込まれてしまうと、私は二度と「みんなのアミュー」には戻れなくなる。戻れないところに行ってしまう……サインや、みんながいる大好きな場所へ、帰れなくなっちゃう。
そんなの、絶対に、絶対に嫌だっ……!!
私は、この程度のチープな快楽に、自分の自我を左右されたりしない!
私は戦いの合間に、お腹にこっそり保存していた、大好きな【サインに貰ったメロンの缶詰】を体内で一気に潰し、その甘い中身の栄養をぶちまける。
身体全体の細胞に染み渡る、あの最高に優しくて美味しい味……おかげで、私の心が、すうっと穏やかに落ち着いていく。
よし……! 大丈夫っ……! 私はまだ、私のままで戦えるよ、サイン!
『アミューさん! 前方の通路から、ダンゴロムシの突撃が来ます!』
脳内に直接、援護に回ってくれたマリアンヌの言葉が響く。
「わかった、マリアンヌ! 私たちの力で、2人並んで止められるかな?」
『――止めてやりましょう!』
そして、凄まじい地鳴りと共に転がってきた超質量のダンゴロムシを、私たちは横に並び、4本の腕の全力の出力で正面からがっちりと受け止めて止めた。流石に純粋な怪力スペックはマリアンヌの方が私よりも強いみたいで、等身大の私では少しだけ踏ん張りきれずに、足元がズズッと数センチ後ろに下がってしまった。
動きの止まったダンゴロムシの球体が大きく開き、身体の各所から不気味な生体銃が飛び出る。銃口のセンサーは、すでに至近距離の私たちを完全にロックオンしている。……でも、サインは後ろの頑丈な死骸の陰に上手に隠れてるから、あそこに弾は届かない。大丈夫!
そして……私たちがずっと待ちわびていた、最高な奴らが来た!
通路の向こうから、サインの発信した全体通知を見た仲間達が一斉に現れた!
あの強いみんなと、隣にいるマリアンヌさんになら、この場の戦線を数分間だけ任せられる!
私は、仲間達に向けて声を張り上げた。
「みんな! 3分間だけ、敵の攻撃を耐えてっ!」
「「「おうよ!!」」」「「「任せろ!!」」」
たったそれだけの短い言葉だけで、私の意図が…作戦が瞬時に正確にみんなに伝わる。
仲間達が盾になってくれている間に、私は自身の肉体を、さらに次の攻撃の形へと変異させていく。
念のために周囲のみんなの戦い方を見る。もし危ないところがあったら、少しは援護できるように……
でも、それは私の一方的な不要な心配に過ぎなかった。
「がはは! こんなへなちょこ弾避けるだけならなぁ! 余裕なんだよ!」
「おいおいおい炸裂弾の威力がパネェって!! しっかり射線を予測して避けねぇと普通に死ぬ死ぬ死ぬ!!」
「俺粘着弾あるぞ! 生体銃の銃口は俺が減らす!」
「ケケケ……流石にあのダンゴロムシの本体の殻は、俺の鎌じゃ斬れねぇか。おっ? でも、生えてる生体銃の根元なら、普通にサクサク斬れんじゃん?」
仲間達が奮闘し、ダンゴロムシの放つ生体銃の銃身が次々に斬り落とされ、粘着液で塞がれ、力任せに根元からボキボキと折られていく。
自由に戦い、自由に勝つ。やっぱり、サインの仲間達は最高に格好いい!
そして……約束の3分が経過し、私の変異が完全に完了した。
私が今からダンゴロムシを仕留めるために使う、最大出力の武器は…
【GENESIS】
かつて、サインの隠れ家で、私が一番最初に齧った武器だ、すっごく思い入れのある、あの始まりの武器。
今の等身大のままで、巨大化もせずにあの規格外の超反動に耐えきることは、私の肉体スペックじゃ不可能だ。
だから私は、地面の岩盤に自分の肉体を強固に固定し、発射時の衝撃をすべて吸収するため、自身の右腕に多数の生体バネを生成、ダンゴロムシの甲殻で特殊関節を、右腕の周囲に展開し、ガチィンと固定した。
私の右腕は今の私の、あの大きな尻尾よりも何倍も太く、禍々しく巨大に変貌してしまっていた。その異形化した手の平の先から、【GENESIS】の銃身を真っ直ぐに作り出す。
照準を合わせ、正面でみんなに囲まれているダンゴロムシの胴体へと狙いを定める。
「みんな!!5秒後! 耳を塞いでっ!!!!」
仲間達が素早く全力でダンゴロムシから離れる。
そして、5秒後、固定砲台と化した右腕から、ダンゴロムシに向けて【GENESIS】の超超高圧弾を、容赦なくぶっ放した。




