43.ダンゴロムシ甲殻防衛戦 その2
【サイン視点】
アミューに向かってダンゴロムシの甲殻ブロックを投げ飛ばすたび、アミューの手元で甲殻が一度ドロドロに溶け、彼女の身体へと身を守るように纏わりついていく。その形状は、最初は不定形な液状だったが、段々と戦闘用に最適化されていく。
もちろん、その変異の最中もナックラーの嵐のような超高速の連打は鳴り止まない。最初は必死に避けるだけだったアミューだったが、纏った甲殻を巧みに操り、徐々にその致命的な打撃を強引に斜めへと受け流すようになってきた。
そしておそらく、彼女自身の肉体も……この目の前の敵を力ずくでねじ伏せるために、最適化していっているのだろう。
最終的に変異を終えたアミューの尻尾は、普段の2倍以上の太さと長さへと膨れ上がり、その尾の先端には大型ナイフのような鋭利な生体尾刃が3本、凶悪なクロー状に生え揃っていた。四肢の爪は、ダンゴロムシの甲殻をそのまま上から被せるようにして長く、鋭く、頑丈にコーティングされ、全身を、ダンゴロムシの甲殻を極細の毛のようにしなやかに変化させた強靭な『生体外骨格毛』がびっしりと覆い尽くした。
顔だけは露出しているが、その口元には凶暴な牙の刻印が入った、黒いマスクを装着している。
そのシルエットは、外じゃ誰もが死を思う「二足歩行型の凶悪な獣形生物兵器」そのものと言っても過言ではない。
ダンゴロムシの無機質な灰色を纏った獰猛な獣の姿――そこから覗く、アミューの最大のチャームポイントとも言えるあの爬虫類のような鮮やかな黄色い双眸が、洞窟という暗い閉鎖空間の中で怪しく爛々と輝いている。
戦場の中心に君臨したその圧倒的な兵器を見た俺は……今まで前線でどんなとんでもないレア武器や、超高額の優良素材を見つけた時以上に、男としてのロマンに魂を激しく揺さぶられて感動していた。
「やべぇ……超かっけぇ……!!」
【アミュー視点】
ナックラーの拳に少し触れるだけでも、私の手に纏ったダンゴロムシの甲殻があまりの威力に耐えきれず、バリバリと派手に弾け飛ぶ。でも、衝撃の軌道を横に逸らすことができるようになったおかげで、相手の嵐のような連打の合間に、こちらが反撃するための僅かな時間を生み出せるようになってきた。
私は自分の身体を……この目の前の頑丈な機械を壊すためだけの形に、内側から作り変えていく。本当なら、前に戦ったあの大きなワームの時のように全身を巨大化させれば、こんな人形なんて上からプチッと一瞬で踏み潰せるだろう。
でも、それなりに広い空間とはいえ、ここは洞窟の中。私がここで完全に巨大化して暴れたら、後ろにいるサインまで岩盤に潰されてプチッとなってしまうかもしれない。
だから私は、全体のサイズは人間の大きさのままに据え置き、その代わりに肉体の筋肉の密度だけを極限まで跳ね上げていく。特に尻尾には力を込めた……私のこの長い尾こそが、この狭い空間における戦闘の最重要の要になってくるはずだから。
そして、後ろからサインが必死になって投げ続けてくれるダンゴロムシの甲殻ブロックを、ステップを踏みながら的確にキャッチし続け、それで自分の身体の表面をリアルタイムで補強していく。これを自分の『鱗』と同化させて変異させるのは絶対にダメだ。目の前の敵は、そもそもとしてこの甲殻を力任せに破壊できる異常な攻撃力を持っている。
だから私は、ダンゴロムシの甲殻をあえて細い毛のようなクッション状に変化させ、殴られた時の衝撃を少しでも殺して外へ受け流せるように、外付けの『身代わりの鎧』として肉体の上に優しく纏わせる。
でも、頭は、絶対に覆ったらダメ。頭を装甲で隠してしまうと、勘が鈍って敵のパンチを避けられなくなる。
そしてついに完成した、この私の新しい姿――サイン達みたいな…人間味を捨て、獰猛な野生の獣のような姿へ変貌した。それを見たサインが、呆然と零した一言が、戦音の隙間を縫って私の耳にハッキリと届いた。
「やべぇ……超かっけぇ……!」
サインの、心の底から感嘆するような独り言。それは、こんな恐ろしい化け物の姿に変貌してしまった私を怖がるわけでも、気味悪がるわけでもなく、純粋に褒めてくれている……心の底から「格好いい」と思ってくれているのが、その声を通じて伝わってきた。
私は、すっごく嬉しかった……
正直なところ、勝率は半々くらいだろう。でも、その五分五分の確率を、サインのために全力で100%の圧勝へと持っていくことを、私はこの瞬間に決意した。
【サイン視点】
アミューが【アーマード形態(俺命名)】へと換装を遂げてからは、戦いの戦況は劇的に変化した。
最初は防戦一方で避けるだけだったアミューが、あの凶悪な速度で空間を削りながら襲い来るナックラーの拳に対して、自身の強靭に肥大化させた尻尾を真っ向からぶち当て、先端のナイフのような3本の尾刃で、敵の強固な腕部装甲にガリガリと深い傷を付け始めたのだ。
お互いの質量が超高速で激突するたびに、アミューの尻尾の表面からは、身代わりとなって砕け散ったダンゴロムシの甲殻の破片が、散弾銃の弾丸のような恐ろしい速度で周囲に飛び散る。その余波の破片の直撃を、俺のパワーアーマーの電磁バリアがパチパチと青い火花を散らしながら弾き続ける。
さらにアミューは、リーチの伸びた強靭な爪と足を使って、ナックラーの胴体の基幹パーツにも容赦のない波状攻撃を加え始めた。飛びつき、むしり、強引に削る――アミューの野生的な猛攻によって、ナックラーの誇る強固な装甲プレートが、火花と共に少しずつ、確実に剥がれ落ちていく。
もちろん、最前線級機械兵器であるナックラーも、そのまま無様にやられっぱなしで終わるようなタマではない。
背面の大型ブースターの駆動音が、これまでの『ゴォォォ……』という連続音から、『ドゴォン! ドゴォン!』という、耳を裂くような断続的な推進剤の爆発音へと変化し始めた。
三次元的に素早く動き回るアミューの速度に無理やり追いつくため、あえてブースターを内部で瞬間暴発させ、その爆圧による超加速の急ブレーキと急発進を切り替えまくり、無理やり手数を数倍に増やして格闘戦を仕掛けてきたのだ。
凄い機械兵器だな……並の金属素材じゃ、あんな急加速の暴発をさせただけで、反動に耐えきれずに全部品が四方に飛び散るだろうに……一体何の超合金でできてるんだ、あの装甲プレートは。
流石のアミューも、爆発の推進力でデタラメに加速したナックラーの不可視の拳は完全には避けられなかったようで、鋭いストレートがアミューに当たった。
俺の目だと正確な軌道は追えないけれど、おそらくアミューの肩をかすめた。拳がかすめた瞬間に、アミューの身体から身代わりの装甲だったダンゴロムシの甲殻毛が派手に飛び散り、アミュー自身がキリモミ状に超速回転しながら、後方へと大きく飛び退いて岩盤に着地した。
そして着地と同時に――アミューの右肩から、ウニョニョと無骨な銃身が生えてきた。アレは生体銃だ。今までに俺が彼女に食べさせて体内に貯めさせた、どの武器でもない。アミュー自身が、この局面を打破するために生成した固有の生体銃……初めて見るな。
その肩の銃から、ジャラジャラとダンゴロムシの甲殻で作ったと思われる、マシンガンのような『弾帯』が有機的に伸びてアミューの体に取り付き、弾薬が薬室へと給弾されていく。
そして肩の生体銃から凄まじいマズルフラッシュと共に射出された大口径の弾丸は、確実にあのナックラーの肉体に致命的なダメージを与えていた。弾丸が、直撃の爆音と共に敵の割れた装甲プレートの奥深くへと次々にめり込み、あの頑強な装甲をボコボコにしていく。
ナックラーには、こちらに対抗できる遠距離の飛び道具が実装されていないのだろう。そのまま決死の距離を取ったアミューに対して、ブースターの爆発音を洞窟内に虚しく響かせながら、なおも拳を突き出して不格好に殴りかかろうとした。だが、その足取りはすでにガタガタだった。
そして、凄まじい死闘が始まってから数十分後――。
――プシュー……バチバチ、バチッ……。
全身が文字通り穴だらけの傷だらけになったナックラーが、機体から黒煙と激しい火花を放電させながら、ついにその場にガクリと片膝をついた。そして、中心にある光るセンサー部分の電源がフゥンと落ち、完全に機能停止した。自慢のブースター部分も、度重なる内部暴発の負荷に耐えきれず完全に壊れてしまったようで、金属の噴出口がまるで不恰好な花びらのように無残に裂けて開いていた。アミューの、完全な大勝利だ。
「アミュー!!」
「サイン!!」
俺達はたまらず、お互いに駆け寄って戦場の真ん中で強く抱き合った! パワーアーマーのフレームが彼女の怪力でまたミシミシと悲鳴を上げているけれど、そんな細かいことは気にしない!
「凄いぞ! 本当に凄いぞ、アミュー!! めちゃくちゃ、信じられないくらい格好良かった!!」
「えへへ、私頑張ったよ! サインが後ろでずっと私のこと『格好いい』って褒めてくれるから、頑張れたんだよ!」
俺達は顔を見合わせ、お互いに無事だったこととアミューの勝利を、最高の笑顔で喜び合った。
――だが、この外において、戦い直後の油断した歓喜ほど最悪な「死亡フラグ」になるものは無い。
それを証明するかのように、俺達の背後の暗闇から、このランド平原に来てからもう何度も聞いてきた、あの面倒な生物兵器の声が響いてきた。
ア………………ポ…………………………




