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アルティメイト ~最凶な世界でもエンジョイライフ~  作者: ちょばい


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42.ダンゴロムシ甲殻防衛戦 その1

【サイン視点】

「んあ……おはよー、サイン……」


「ああ、よく休めたか?」


アミューが起きた……やっと起きてくれたか。


完全に真っ暗な夜だけど……前線のど真ん中、おまけに安全地帯でもないこの吹き晒しの場所で、よくもまああんなに爆睡できたもんだ。いや、目が覚めたときに夜明けを通り越して次の日の朝になっていなかっただけ、マシだと思っておくことにしよう。そんなハラハラした気持ちを表に出さないように気を付けつつ、俺は努めていつも通りに取り繕う。


「ほら、果物缶だ。腹減ったろ」


「うん、食べる!」


アミューに大好物の果物の缶詰パックを渡す。


するとアミューは、いつもの可愛い口を耳元まで大きく……それこそ生体的に裂けるようにカパッと開き、缶詰をパッケージごと丸ごと一飲みにした。


なるほどね、そうやって一口で丸呑みにしてたのね……。


「さて、腹も膨れたところで、アミューの知覚範囲に何かヤバいのはいないか?」


「………………うん、大丈夫だよ。今は近くに何もいないよ、サイン」


「そうか……! じゃあ、お待ちかねのコレを持って帰るぞ」


「わかった!」


いよいよ、今日の本命である【ダンゴロムシの甲殻】の剥ぎ取り作業の開始だ! いやぁ、本当に長かったね。主にアミューの睡眠待ちの時間だけど……。放置しすぎて、中身の生体組織がちょっと腐って酸っぱい匂いがしてきてますが、甲殻が目的なら問題ない。


ここで、前線に詳しくないウォーカーのために、ダンゴロムシという生物兵器について説明をしておこう。


【生物兵器:ダンゴロムシ】


最前線エリアでよく見かけられる、重装甲・突撃型の生物兵器。


最大の特徴は、文字通り物理の常識を置き去りにした「頑丈すぎる外部甲殻」にある。並の兵器が撃つ生半可な大口径の銃弾はすべて火花を散らして弾き、レーザー兵器すらも表面の生体コーティングで霧散してしまう。さらに、自身の意志で形状を変化させることができ、全身から鋭い生体棘を突き出させた『モーニングスター』のような凶悪なトゲトゲ球体の形状に変形して、超高速で前線を転がって突撃してくることが多い。


球体になって転がっていなくても、移動速度は格段に落ちるが、肉体から複数の「生体銃」を生成することができ、捕食した周囲の土や金属ジャンクと、体内の【特殊な分泌液】を合成した強力な炸裂弾をガトリングのように連射してくるため、遠近・攻守共にまったく隙が無い。……普通の人間では、到底太刀打ちできないおっかない兵器だ。実際、アミューの超怪力をもってしても、その甲殻を割ることはできなかったしな。


殺すにはそのあまりにも頑丈な甲殻を破壊できる火力が必要だ。


さて……。


「とはいえ、こんな高さ数メートルもあるおっきい甲殻の破片のままだと、俺のカゴじゃ物理的に持ち帰れない。だから、周囲にバラバラに散らばってる、ちっちゃい破片だけを選別して集めるぞ」


アミューですら割れない頑丈なものを、人間が使うツールで細かくカットすることなどできるわけもない。なので、目の前にある大部分の極上素材は諦めてここに置いていくしかない。……ああ、もったいねぇ。


「なんで? サイン、おっきい殻はいらないの?」


「いや、欲しいんだけどさ。この殻、俺のナイフじゃ絶対に割れないし、アミューのパワーでも割れない。なら、俺の背負ってるカゴの規格に入る大きさの破片を集めるしかないだろ……」


「あ、そういうことなら大丈夫だよ! 見てて、サイン」


? アミューが不思議そうに首を傾げながら、目の前にある巨大なダンゴロムシの甲殻に、その小さな手でそっと触れる。……すると。


――ウニョニョニョニョニョニョ……。


うわっ、キモッッ!!


アミューが触れた瞬間、あの大口径弾すら弾き返すほどカチカチだったダンゴロムシの甲殻が、まるで熱した液体プラスチックみたいにドロドロに柔らかくなり、アミューの意志に合わせて、四角い建材レンガのような綺麗なブロックの形状にスウッと変化した。


「私ね、このダンゴロムシの素材と『しなじー?』があるの! 前にサインの家で、コレクションの殻を触った時からなんとなく気づいてたんだよね! だから、私の好きなように硬さを変えて、自由な形にコネコネできるんだ!」


「なるほどな……天才か? さすがはアミューだ」


「えへへ、サインに褒められた♪」


できれば、その便利な能力を、もっと、もっと早い段階で言ってほしかったな…俺、その甲殻をどうやって加工するか……今日までずっと悩んでたんだけど……


アミューが四角く加工してくれた、ダンゴロムシの甲殻ブロックを試しに生身の手で持ってみる。


――超軽い……。なのに、超硬い……すげー。えっ? これ、防具の素材にしたらとんでもない神クオリティのレア素材じゃねぇか?


「アミュー、そこにある甲殻、片っ端から全部ブロックの形に整形してくれ! これで俺の回収カゴを限界まで一杯にして持ち帰ろう!」


「うん!」


ランド平原の入り口の岩陰に隠してきた、あの最初の機械兵器のちんけな装甲プレートなんて、目じゃねぇよ。あんなゴミみたいな鉄クズはもういらねぇ。今日はこのブロックとレンから貰った一億で、俺はこの探索の完全な大勝利を収める!


……くっ、アミューの分のカゴも持ってきておけば……この軽さならカゴ2個分丸ごと持って帰れたのになぁ……。なんでこんなチャンスの時に限って、お一人様分のカゴしか持ってきてねぇんだよ。


まあ、アミューは今回、「付き添い」の予定だったからなぁ……


俺はアミューが手際よくブロック化してくれたダンゴロムシの甲殻を、組み立て式の回収カゴの中に丁寧に……隙間なく詰め込んでいく。気分は完全にパズルゲームだ。俺は今、1グラムでも多くこの神素材を持ち帰らなければならない。デッドスペース(隙間)は絶対に作らないように慎重に……。


「あっ、サイン、ちょっと待って。私が……」


アミューが俺の詰め方に気づいて、カゴの中にそっと手を入れる。すると……詰め込まれていたダンゴロムシの甲殻ブロックが一度ゆるく溶け、カゴの内側の隙間を1ミリの狂いもなく完全に埋める形に変形して再凝固した。


そうでしたね、自由に形を変えれるなら、そういうこともできますよね。100点だ…テストとか俺はやったことないけど。


カゴがダンゴロムシの甲殻でいっぱいになった時、とある天才的な名案を思い付いてしまった。


俺のカゴを限界まで一杯にしても、ここにはまだ大量の甲殻が転がっている。そして、その甲殻はアミューの「シナジー」さえあれば、人手カゴが増えれば増えるほど持ち帰り放題になる。


現在の座標的に、ここはランド平原の出口エリアにかなり近い……。


「ふふふ……いいねぇ……」


俺は再び個人情報端末(端末)に手を伸ばす。さっきゴザルを弄った時のような軽い身内チャットではなく、俺達の『群れ全体』に向けて、緊急のシステム依頼を送信する。


おふざけで使ったら、ガチでメンバー全員からキレられるレベルの【緊急アラート機能】をあえて作動させ、カゴ一杯に詰まったダンゴロムシの甲殻の写真と、アミューが加工した実物のダンゴロムシブロックの画像を添付し、メッセージを群れ全体に発信した。見出しのタイトルはこうだ。


【緊急:最高品質・ダンゴロムシの甲殻、今だけ現地で取り放題!】


この極上の優良素材を、俺一人だけで独占するなど勿体ねぇ。みんなも今すぐ拾いに来いよ! 場所はランド平原の出口の付近の座標だ、急げ!


アラートを発信した直後、端末の画面には、普段じゃあり得ない速度で、たくさんの仲間から【俺今から行くわ】の通知スタンプが怒涛の勢いで返ってきた。よしよし、みんな来い来い、拾え拾え……。


――と完全に思い付きで行動してしまった結果。


メッセージを送信し終えた直後、俺はとある「致命的な問題」が新たに発生してしまったことに気づいて、顔面が引きつった。


仲間達が、この座標に到着するまでには、どう足掻いても時間がかかる。


「……つまり、その応援が来るまでの数時間、俺達だけで……」


「サイン……!! ――あの、機械の殴って大暴れしてたヤバいやつが、こっちに来た!!」


そして最悪なタイミングで……このお宝の前の簡単には逃げられない最悪のタイミングで……いや、逃げても、みんな「命が一番だからしゃあない」って笑って許してくれるだろうけど。


このダンゴロムシを、その圧倒的な超加速の鉄拳でぶち殺した張本人(機械兵器)――【ナックラー】が、光るセンサーをこちらに向けて、俺達の目の前に立ち塞がってしまった。


さてさて、どうする……


「アミュー……。もしアミューが勝つのが無理そうなら、素材は全部ここに置いて今すぐ逃げるぞ?」


「…………ううん、大丈夫。――多分、勝てる!」


アミューが戦闘鱗を全身から逆立たせ、ナックラーの前に堂々と立ち塞がった。


アミューが「勝てる」と断言するなら、間違いなく勝つのだろう。……が、俺は何もできないので、見守ることしかできない。アミューが傷つかないことを、脳の処理能力を全開にして祈りながら……


――ゴォォォォォ……ッ!!!


ナックラーの背面にマウントされた大型ブースターが激しく点火し、センサーの照準をアミューへと完全にロックオンする。そして――。


――ブォンッッ!!!


超加速を伴ったナックラーの巨大な鉄拳が、コンマ数秒の瞬間的な速度でアミューの顔面に迫る!


しかし、アミューは野生の勘で、紙一重でその直撃を横へとスライドして避けていた。


そしてアミューは、避けた勢いのカウンター気味に、自身の強靭な尻尾を激しくスイングしてナックラーの腕を下から力任せにカチ上げる! ――が、敵の装甲値が高すぎるのか、有効なダメージは無さそうだ。


「っ! ……この機械、思ったよりすごく硬い……!」


――ブォン! ブォン! ブォン!


ナックラーがブースターを連続点火させ、デタラメな速度の拳を何度も叩きつけてくる。アミューは完全に防戦一方に追い込まれていく……マズイな、これは。


今はアミューの天性の勘で全て避けられているが、一発でもあの質量攻撃にうっかりかすって当たったら、アミューの頑丈な肉体でだって最悪死んでしまうかもしれない……。


考えろ……俺に、今この瞬間、何ができる……。


――、これだ……!!


俺は声を出さず無言で、手元にあったアミューの加工済みの【ダンゴロムシの甲殻ブロック】を掴み取り、ナックラーの猛攻の隙間に向けて、アミューの背中へ全力で投げつけた。


アミューは後ろを振り返ることなく、ナックラーの拳をステップで避けながらそのブロックを的確に手で受け取った。


次の瞬間、アミューの手の中でダンゴロムシの甲殻が瞬時に液体のように溶け、アミューの全身の戦闘鱗の隙間を埋めるようにしてガチガチにまとわりつき――。


「――さすがサイン! 私の欲しいものがわかってる!」


全身にダンゴロムシの生体防具を纏った、【アーマードアミュー】が爆誕した。










【ダンゴロムシとダイナロイドのシナジー効果】

最前線エリアに生息する生物兵器『ダンゴロムシ』の死骸は、同じく最前線エリアに生息する生物兵器『ダイナロイド』が、その遺産を有効に生体活用できるようにあらかじめ遺伝子コードが調整されている。


死んだダンゴロムシの個体を野生のダイナロイドが発見した際、その強固な甲殻の遺伝子を取り込んで自身に纏わせ、さらに過酷な死地へと赴くための『次なる進化の身体』を遂げるシステムになっている。


しかし……今回アミューが見せたそれは、通常のダイナロイドの「同化」とは、根本的に異なっていた。


アミューはダンゴロムシの甲殻を、人間の着る「外付けの防具」のようにして自分の肉体の上に装備したが、本来の野生のダイナロイドは、その甲殻を【自身の細胞と完全に一体化】させるプロセスを辿る。


つまり、自身の生身の肌そのものにダンゴロムシの遺伝子を取り込み、自分の肉体そのものをダンゴロムシと同じ硬さの性質へと、文字通り「作り変えてしまう」のだ。


アミューは人間の世界でサイン達と長く暮らし、あまりにもその温かい日常に馴染みすぎてしまったが故なのだろう。


自分の身体の仕組みが変わってしまう「生物兵器としての同化(取り込み)」を、本能的、かつ無意識に避けてしまった。実際にダンゴロムシの甲殻を取り込んでしまった場合、あの【87番】のように感情の喪失が少なからずあっただろう。


もちろん、肉体そのものを変異させる本来のシナジーに比べれば、外付けの防具として纏うだけのアミューのやり方は、兵器としての絶対的な防御力の質は数段落ちる。


――しかしこの違いが、アミューの未来において「全てが悪い結果」に繋がるというわけでは、決してなかった。

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