41.確定していた未来
【ゴザル視点】
「お優しいことです、ゴザルさん。あの個体、立派な賞金兵器でしたよ? しかも討伐賞金は『1億エルン』。人間の領域では、このお金というデータにも莫大な力があるのでしょう? 容赦なく狩りとってしまっても良かったのでは?」
拙者の身体から静かに離脱した、先ほどまでの合体形態でメインの『刀』を構成していた青髪のアンドロイド――【イチノハ】が、不思議そうに話しかけてきた。
それを合図にするように、他の機械兵器の彼女たちも、拙者の五体からどんどんと分離して元の少女の姿へと戻っていく。
「殺す? 殺さない?」
合体時は白いラウンドシールドになって拙者の左腕を守っていた、【ニノハ】。
「でも、そんなゴザルさんの甘いくらいの優しさに、私達も惹かれてここまでついてきてるんでしょ?」
合体時は赤い面になって拙者の知覚を強化していた、【コノハ】。
「っすよー。ついでに、圧倒的なカッコよさも追加っす!」
……悪ふざけの【サンノハ】。
「……(こくりと無言で頷いている)」
合体時は右脚の緑色の高速ブースターになっていた、物静かな【ヨンノハ】。
ふぅ……本当に、全員そのまま拙者についてきてしまったでござるな……。
でもまぁ、拙者が「機械兵器側の陣営(修行)を辞める」と宣言したとき、実は内心、彼女たちとの戦友としての関係もこれで終わりかと少し寂しく思っていたでござるから。こうして自主的に付いてきてくれて、拙者、ちょっぴりだけ嬉しかったりするのでござる。
「ふぅ……何はともあれ、拙者も久しぶりの我が家でござるな……。あの懐かしい畳の感触を……久しぶりに、生身の肌で味わうでござ……」
「ゴザルさんの家、どんな場所か楽しみ」
「行く? 行かない?」
「男子の部屋っすからねー、エッチな本とか絶対どこかに隠してありそうっすよね! みんなで一斉にガサ入れして探すっす!」
「そんなものは一冊も無いでござるよっ!!」
それから徒歩で移動すること1時間ほどで、ようやく久しぶりの拙者の隠れ家へと到着した。……が、何故かドアの電子鍵のセキュリティが、最初から綺麗に解除されている。
「……待って、室内の生体レーダーに、不審な反応があるわよ」
「何か中に潜んでいるっすねー」
「拙者のアジトに、泥棒の侵入者でござるか?」
……いや、そもそも拙者の家なんて、訓練道具と刀のメンテ用品ばかりで、他のウォーカーが略奪するような金目の物など何一つ無いはずでござるが……。
警戒しながら勢いよくドアを開ける。そこには、見慣れたクソ野郎が、拙者のお気に入りの極上畳の上に寝転がり、大量の涎を垂らして半開きのウザい目でこちらを見ながら大爆睡していやがったでござ……!!
「おい!! トラッパー!! 人の家で一体何をしているでござるか!!」
「……んあ? むにゃ……おお! ゴザル、修行からやっと帰ったか!」
「『帰ったか』じゃねぇでござる! ああ!! 拙者の大事な畳の上に、取り返しのつかない涎の跡が……!! もぉぉーーーー!! 拙者、この上で寝るの嫌でござぁーーーー!!」
「おっ? 後ろにいる機械兵器の可愛い子ちゃんたちが、ゴザルの新しい仲間か! よろしくな! 俺はゴザルの友達のトラッパーだぜ!」
トラッパーの野郎、気楽に手を上げ、拙者の後ろに控える機械兵器の少女たちに不敵な笑みで声をかける。……って、ちょ、ちょっと待つでござる!
「なんで彼女たちの存在を知っているでござるか!? 拙者、この彼女たちの件はまだ誰にも紹介していないはずでござるがっ!?」
「いやぁ……それがな? さっき、仲間内の全体チャットのタイムラインにさ。お前にだけ通知のアラートが行かないように、お前以外の全員に『@メンション』を一個一個丁寧に付けて、サインがお前の合体動画をアップしたんだよ。最高にしょーもない嫌がらせだろ? どんだけ暇人んだよアイツって思ったけど、まあ、動画の質は良くてな……いい仕事するぜ」
トラッパーがニヤニヤしながら見せてきた情報端末の画面には、拙者とみんなが戦場でガキィンとド派手に合体する瞬間の映像が、バッチリ録画されて再生されていた……。
「な……なんで、そんな……」
「そして俺は今まさにその動画の拡散を知って『絶望的なマヌケ面』をして固まっているお前の顔写真を直に激写して、サインに送りつけるっていう、現場の最重要タスクを任されたわけだ。別に頼まれたわけじゃないけどな。おいゴザル、俺の機動力にありがたく思えよ?」
「お前ら二人揃って、ただの最悪な暇人でござーーーる!! ぶっ!?」
叫んだ瞬間、拙者の顔面に、空間に仕掛けられていた透明な高粘度粘着ラップ罠がベチャッと吸い付くように絡みついた……!!
「ひゃはははは! 今の罠に引っかかった最高の間抜け面もバッチリ撮ったからなぁ〜〜 ヘッヘッヘ、じゃあな、ゴザル!!」
「本当に何しに拙者の家に来たのでござーーーる!?」
トラッパーの野郎は、いつの間にか拙者の背後を取って、窓から外へと脱兎のごとく逃げていった……本当に、この嫌がらせの撮影のためだけに侵入ってきたのでござるか、あの爆弾魔は……。
「凄いわ……。アレが、武者も言っていた噂のトラッパーね」
「っす、ゴザルさんに、罠をクリーンヒットさせるなんて、ある意味とんでもない実力者っす」
「凄い? 凄くない」
「……(静かに感心して頷いている)」
コノハ達は、逃げていったトラッパーの残したプロの技術(罠)の話題で、妙に盛り上がってらっしゃるでござる……。
お願いだから、拙者をダシにしたそんな話題で盛り上がらないで欲しいでござる……というか、誰も逃げるトラッパーを捕まえようとは一切しなかったでござるな……拙者の味方としてついてきてくれたはずなのに……
「……で、それにしても、ゴザルさんの家は……なんというか、その……」
「私達がデータから推測してたイメージと、中身が全然違うっすよね……」
「面白い? 面白くない」
「……」
……はい? 拙者の部屋は至って質素で、変なものなんて一切置いてないでござるが……!!
トラッパーの涎に気を取られて、今の今まで全く気づかなかった。部屋の壁という壁の全域に、生前のマリアンヌさんの、妖艶な裸のポージングのグラビアポスターが、隙間なくびっしりと貼られまくっている。――トラッパーめ!! 悪ふざけにも程があるでござる!!
故人に対して最高に失礼でござるよ!! ドクターに怒られろ!!
……よく見ると、一番大きいポスターの右隅が、目立つように意図的にめくれている。……チ、チラリと恐怖を覚えながらめくってみる。
『こういう、生前のマリアンヌのボディーラインを、その【合体形態】のパーツ構成で表現できませんか? ――ドクターより』
ドクター……かぁ……本人……かぁ……トラッパーじゃなくて、近親者の仕業でござるかぁ……。
そりゃそうでござるよね……どれも拙者の見たことない、明らかに秘蔵の写真ってやつでござるぅ〜。
きっと、ドクターがわざわざ印刷して持ってきたのだろう……もぉー!! 拙者のアジトは、ドクターの趣味の展示場ではないでござる!
拙者の休息所でござる!!
ドクターのマリアンヌポスターを急いで剥がそうと躍起になっていると、最悪なタイミングで玄関から次のお客様がまた来たでござ……
「おい!! ゴザル!! 遠征から帰ったんだってな!! 早速、動画で見たあの合体ロボ形態と、俺様の超重パワーアーマーといっちょ模擬戦でバトらせてくれよ!!」
「へ、へぇ……。これがあの噂の……ゴザルさんの……家? ……って、えっ!? 壁のこれ、何ですか……!?」
仲間の武闘派筆頭……ヘビィと……小さな少年が、すんごい最悪なタイミングの悪さで部屋にドカドカと入ってきた……。
「なんで!! みんなして!! 拙者の隠れ家にノーアポで押し寄せるのでござーーーーーーーーー!!」
「お前、なんでマリアンヌの写真壁に貼ってんだよ」
「……ふふ、流石はゴザルさんの仲間達ね。全員、相当な実力者揃いだわ」
「っす、トラッパーもヘビィも、かなりキレてるっす!」
「強い? 強くない」
「……」
「ええ。となると、情報端末のデータを調べる限り、あの『サイン』という男がどうも不思議よ……なんであんなに生身の戦闘能力が最弱で低スペックなのに、ゴザルさんの仲間に……」
機械兵器の彼女たちの、サインに対する純粋な疑問が、静かに部屋に響いた。
【サイン視点】
トラッパーから、2枚のプライベート写真が送られてきた。
俺に合体動画をチャットで勝手に拡散されて驚愕しているゴザルの絶望の表情。
そして、トラッパーの仕掛けた透明ラップに綺麗に引っかかって、顔面を潰されているゴザルのマヌケな表情。
どれも保存ボタンを押すくらいに最高に面白い。さっきまで最前線で生物兵器の軍勢を相手にバリバリに無双して戦ってた男とは、到底思えないほど締まりのない顔だ。
なんで前線の戦場で、こんな手の込んだ嫌がらせの工作をしてるかって?
……暇だからだよ。
アミューが戦場のど真ん中だというのに爆睡し始め、現在進行形で俺の身体にガッシリ抱きついたまま離さないせいで、俺は身動きが全くできない状態なのだ。
最初は俺も、ハラハラドキドキしながら周囲を警戒してたんだが、冷静に考えて……どうせ俺の索敵技術などたかが知れている。
実際に敵に襲われるようなヤバい時は、俺が気づく前に、寝てるアミューが野生の勘で勝手に飛び起きて一瞬でワンパンするだろう。
そう開き直ってからは、完全にやることがなくなったので、情報端末をカチカチ弄ってゴザルの合体動画を軽く編集し、ゴザル以外の全員にメンション付きでこっそり拡散する、最高に不健全なチャット遊びをしていたわけだ。
案の定、暇しているメンバーがこれに連動して素晴らしいエンタメになったようで、俺は最高に満足したよ。……さて。
写真も見終わったし、また完全にやることがなくなったな?
アミューが目を覚ましたのは、それから数時間後……周囲の空間が、完全に真っ暗な夜になってからだった。
俺は……一睡もしてないな。




