魔王爆弾魔ン
地面に横たわり、塹壕の底に沈み、魔法少女たちは動かない。何処かで見ている筈の無患子躯枢柩も、動かない。
上半身だけで近付いてきた梅鉢千代古に、魔法少女なりきりセットを引き裂かれる。仕込んだ電熱線と示温塗料によって黄色に発色させていた無患子のなりきりセットは、熱源を失い徐々に、元の地味な墨色へと戻っていくだろう。
「いいざまだよねチョコちゃん干次は朕を摘出してくれるかな」
千代古の下半身を操作して近付いてくる龍帝。上半身だけの千代古によって、果実をもぎ取る様に引きずり出さる。美しい少年の形をとる上半身に、タコ足の様な侵襲と寄生を目的とした下半身。
「具合が良さそーじゃん☆名は体を表すんだねぇ」
心配は無い。例え魔法少女たちが動かなくても、大侠客無患子が動かなくても、あの人は動くだろうから。僕の故郷三途河国にて祖父様を下し、今までもこれからも世直しのために各地を放浪する魔法少女。今だってこの巨悪を滅ぼさないのは、将来虐殺者になる予定の僕と融合させてから一網打尽にする腹積もりかもしれないし。
「……いま気づいたッ干最悪っ干卑猥な名前じゃないやいッ」
「やーいやーいカミサマ気取りのクセに非生産的な名前☆無産階級☆でも赤ちゃん産めそうな腰つき☆不経済で不敬罪」
「生きたまま捥いで食ってやるッ」
「やーん、どこを捥ぐ捥ぐするのぉー∞」
「手足だよッ」
自分がここで終わる事は仕方ない。が、可能ならば、家族を失った梅チーや、きっと狂ってしまった桔梗、この黒龍の人々、笹々パークの少年労働者たち、どうしようもない理不尽に苦しむあの人たちを、可能ならば僕の手で救えたなら、どんなにか良かったろう。憧れたあの人の様に。それだけが心残りだった。
ーブチブチッビチャー
「がッ……ぐぇ」
「隙を見せたな、騙り」
梅鉢千代古が、掴んでいた龍帝を引きちぎった。少年体の上半身と、捌かれたイカの様な下半身。ならば墨袋でも破れたのか真っ黒な液体を撒き散らす龍帝。
「権限戻ったらおめえなんかの言うこと聞くわけねぇだろよくも陛下の臣民を俺に殺させてくれたな?ええ?騙り野郎」
「え’語り……騙りだとッ始祖たる朕をッ龍帝をッ」
「知らない。誰だおめえ。俺が愛したのは血でも地位でもねえ。あの御方だ。おめえごときが龍帝陛下を騙るな不敬罪」
僕を背後から拘束していた桔梗が、入れ替わるように前にでて利き腕を展開、未完成の珊瑚銃を千代古に突きつける。
「千代古どの、使われよ」
「お、相変わらず気が利くな桔梗」
辺りを見渡せば、制圧されていたはずの魔法少女たちは機敏に動き、属性魔法や召喚魔法による共同作業で何かを組み立てていた。
「すまねぇな千代古II。巻き込んじまって」
「……父上?」
僕の職業のアビリティ、10秒間無敵になる握手の反動によって遠くに飛ばされていたはずの梅チーが姿を現す。職業手品師のアビリティでか、いつの間にか至近に隠れ隙を伺っていたようだ。
「でもよ、子供よりも殿の名誉が一大事なんだ。武将としては褒められたもんだろ?いつか天国でああああに、代わりに詫びといてくれよ」
「父上!!」
展開された未完成の珊瑚銃を桔梗の腕から引き抜き、起動する千代古。わざと間違った操作によって珊瑚銃は暴走、僕がやった珊瑚爆雷を、更に大規模で行うつもりのようだ。
「準備が出来た!逃げるぞ男の子たち!」
白峰菊利が叫ぶ。長大な金属の乗り物に一味を押し込め、更に我々にもそれに乗れと促す。乗り物についた金属の車輪と床に造成された金属の轍とが噛み合い、乗り物が動き出した。このフロアを越えて遠くまで延びている。もしかしてこれでダンジョンの外まで脱出するのだろうか?魔法少女の魔法、獣人の古代技術よりずっとデタラメだ。
「お別れですメロウどの。どうかご家族と仲良く」
桔梗の豪腕で白峰の方へ放り投げられた。魔法で柔らかく受け止められ乗り物に招かれる。続けて梅チーも投げられ隣の席へ。
ああ、桔梗は企んでいた。きっと初めて出会った時には既に、僕がどういう存在か僕よりも知っていて、そして利用したのだ。あの始祖の釣り餌として。
僕は、彼を、出し抜いて、生き延びようとしていたのに、彼は最初から自分だけ死ぬつもりで、
「舐めるな下等生物ぅぅ」
拘束されていた始祖が叫ぶ。金属と高分子ポリマーで構成された神社モドキなこのフロアの最奥、戦闘で半壊した似非拝殿を崩壊させながら巨大な蛇型の機械が這い出てきた。
機械蛇は始祖を拘束していた千代古を吹き飛ばし、桔梗を締め上げ拘束する。珊瑚爆雷も機械蛇の尾で高く遠く弾き飛ばされ、爆発寸前で起動が止まってしまった。
「どいつもこいつもッ蛇子蛇蛇子蛇ッ朕こそあがめアへッ」
「うるさいよ☆歩く発禁処分☆」
珊瑚爆雷を始祖の顔面へ突き返し黙らせる。
機械蛇に弾き飛ばされた爆雷は、魔法少女製の軌道乗り物へ衝突する軌道で迫って来ていた。乗り物と皆を守るため、僕はパワードスーツを転移して装備し、飛翔して空中で爆雷を確保、そのまま桔梗たちの元へ戻ってきたのだ。
パワードスーツのサブアームで始祖を固定、メインアームで顔面に押し付けたままの爆雷を再起動する。飛翔して、機械蛇が壊した似非拝殿のほう、なるべく皆から遠い方へ。
「メロウどの!」
こちらの意図に気付いて桔梗が叫ぶ。始祖が死ねばその蛇も止まるだろう。そうでなくても桔梗なら独力で何とかするだろうか。
「下等生物がッ離せェ干」
まあマシな終わりかたか。あの人に殺される日を怯えながら過ごすよりは、ここでコイツを道連れにしてみんなの為に果てた方が、比較的気分が良い。
「スタンバイ、オトメティコ」
最後に気の利いた冗句の一つでも吐こうとして零れたのは、魔法少女達が絶対に負けられない戦いの時に口にするあの掛け声。その男性形。捨身、愛と勇気、善なる心の働きによって、命を捨てる覚悟を決めたこの土壇場で、どうやら僕は本当に魔法少女になったらしかった。
「ゆーてこの状況からは助からんくね∞」
光と熱で全身の感覚が無くなる。遅すぎる覚醒だったが、人生ってそんなものと聞くし。まあ、でも、そんな悪くないね。




