ケモサーガ第3章子曰く
「ブヒ?後ろの方はどなた?」
「梅チー。親に弟食べられたんだって☆」
宝物庫を攻略してからギリギリまで修業して、体感としては1ヶ月後。現実では30分しか経っていないので偽装のため、まばらに伸びた体毛を梅鉢長男に命じて剃らせ、鱗隠しの包帯も巻く。
宝物庫内で着ていたスーツはポケットに仕舞い込み、洗浄機にかけていた無患子の魔法少女なりきりセットを梅鉢長男と分けあって井戸を出た。
諸々の仕込みも済ませ、更に共犯者も手に入れられたので言うことなしである。
「あの、め、無患子せんせぇ。パンツと靴下だけはちょっと」
「じゃあタイツあげるからパンツ返して☆」
「そのトレードならせめてスカートもくださぁい」
「ははははは!財施か。己の衣装を渡すとは、やはり貴方は徳の高い魔法少女ですな」
「もー菊利ん☆煽てたって何もでないぞ☆パンツいる∞」
「脱がそうとしないでぇくださぁい」
ふざけつつ、目くらましに回収した戦利品をいくつか井戸から引き上げて分配していく。
魔法少女の何人かは、隣国の便利な輸入品として使い方を心得ていたので説明が楽だった。白峰菊利が哀れむ目で終幕弾発射器を撫でる。
「そうか。これらは子どもたちが命がけで集めたものだったんだな」
「ぜーんぜん☆30分で攻略できるし良いお小遣い稼ぎだぜ」
もちろん嘘だが。きときと!笹々パークでは子どもたちに行方不明者が続出していた。殺人機械に負けたりトラップにかかったり理由は色々あるが、何より攻略に手間取ると、成長期を迎えて井戸から出られなくなるのだ。小さな子供しか入れない狭い通路は、どうやっても壊すことが出来ない。手に入れた物資を入り口前まで運んだら、最後は他の子の経験値になる、までが子供たちの仕事だった。
一年ほど前に、大規模な食料生産プラントがある井戸を発見。大人からその井戸を隠し、以降子供たちは使い潰され行方不明になる前にそこへ逃げるようになったそうだ。
「いや、ここ10年で世の中はすっかり荒んでしまった。幼子がダンジョンで、身を立てるのも無理からぬ」
「そうなんだ☆あ、いやそうだね☆アチキたちの若い頃といったらねー☆」
外の1分が井戸では1日で、外の1日は井戸では4年。10日も経てば3世代が井戸に揃う。僕が子供たちのリーダーに案内された時も、外を知らない大勢の老若男女がそこで生活していた。笑えるくらいの大勢だ。
その井戸の中では、笹々パークのチューリップ武装商人に酷使される子供たちのリーダーは、4年に一度現れる永遠の美しい少年神で。人々は彼に殺され経験値に変えられる事で天国へ行けるのだそうだ。
あの井戸は大当たりの大規模な宝物庫だった。1年近く、井戸内では千年以上経っても攻略しつくせない程の。内部で1つの国と3つの宗教が出来る程の。可哀想な友達を助けたくて、ささやかながら大人達へ反抗したくて、そんなちょっとした理由で、貧しい子供たちが作った秘密基地。だったはずなのに。
あのたった1日の冒険の中で、何年もかけ丸々と肥えた球根のように、あの千年王国はついに開花して、悪夢のようなその花模様を見せびらかして、そして種子も残さず枯れてしまった。
(お身体が優れませんかメロウ様)
(んーん。ピエトロのこと思い出しちゃっただけ)
(おいたわしや)
(え、なにこの、耳がとろけるような超音。これが桔梗姫橘。かっちゃかっけぇ)
只人の可聴域外での会話に梅鉢長男も参加してくる。新参の口から桔梗の名前を初めて出したが、魔法少女たちからは、反応はない。が、誰かしら盗聴の手管くらい持っているだろう、という前提で行動する。
【芝居が上手いね梅チー。修行した甲斐があった】
【えへへ。人様に誉められたことが一度もない人生だったので、いま幸福の絶頂です。弟を父親に食い殺されたのに。気が変になりそう】
脊髄に埋め込んだ有機コンピューターを利用して梅鉢長男と文通する。桔梗にも気取られない仕込みと共犯者を手に入れた。
ポケット、プリーツに隠れて存在する物理的なポケットに被せて展開している、超次元ポケット、に手を突っ込み具合を確かめる。崩壊した千年王国の遺産たち。一人でも、一人でも多くの人々が生き残る為に動かなければならない。そうじゃなければ、僕に生きている意味なんてない。




