第108話:永い1日だった
区切りが良かったので、分量自体は多くありませんが投稿しました。
次回は2日後の月曜日に投稿します。
「ああ、いのちをだいじに、だな」
「そうとも、分かってるじゃねぇか」
「そうでもない、さ……」
周りの歓声が納まり再度、立ち上がろうとしたが膝に力が入らない……。
「どうした?」
動きの止まった俺を見て、怪訝な顔つきでレグが訊ねる。
「いや、立てないんだ……」
「立てない?」
「そうだ、膝に力が入らない……」
「バカ野郎! オメェが1番無茶をしてるんだろうが! ちったぁ自分の身体の事も考えやがれ!」
声がデカイ、耳が痛てぇなぁ。
「そんなに大きな声を出さんでも聞こえるぞ」
「お前はもっと自分のやった事を把握しろ! 俺達の体力を回復させるなんて魔法を使ったと思えば、瀕死の怪我人すらも完治させる魔法だぞ! そんな規格外の魔法を使ったら体力の消耗だって激しいに決まっているだろうが‼」
解っているさ。
昨日、今日と戦闘中に体力の消耗が激しい原因は大きく分けて2つある。
1つ目は接近戦。俺はスキルの【剣術(上級)】頼みの戦い方をしており、戦闘の内容がスキルに依存している為、激しい動きをする様な戦闘の場合は体力をムダに多く消費してしまう。
2つ目は規格外の魔法。単発の攻撃魔法を使うならまだしも、同時に何本ものサンダーランスを放ったり、魔力を大きく消費する魔法を使う事で、魔力・精神力・体力を常人以上に消費してしまっているのだ。
「そんな事は解ってる。それでもやる必要があったし、やって良かったと思っている。今日1日の討伐戦で怪我人は出ても、死人はいないだろうが」
「レイライン様の方も上手くいったのか?」
「ああ。あっちはイース1人が暴走した以外は無事に片付いた」
「イースがどうかしたのか?」
◆
俺の休憩がてらA班で起こった事をレグに説明した。
「そんな事があったのか。若手にしてはイースのフレイムソードは強力な攻撃手段だったから、俺達も目をかけていたんだが、そこまでお前に対抗意識を持っていたとはなぁ。上手く克服してくれるといいんだが……」
「レイラインは俺との実力の差を解らせた方が良いと言っていたぞ?」
「確かにイースは若手の中では最有望株だが、お前と比べるには明らかに格下だからな」
そこまで言ってやるなよ。
「だがヨシタカよ」
「何だ?」
「やるならどうやって実力の差を示すんだ? こう言ってはアレだが、イースのフレイムソードは厄介だぞ?」
「そのフレイムソードってのは何だ?」
レグによれば、フレイムソードとは火魔法を剣に付与したモノらしい。(必殺技の名前かと思ったら付与魔法だった)
◆◆◆◆◆
俺の2度目の休憩中、他の連中も休憩を取りつつ軽い昼食を食べていた。
今回の討伐戦における最低限の衣食住はギルドが用意する事になっているので、彼等が食べている物もギルドからの支給品なのである。
約30分の休憩の後でオークの死骸の回収作業を始め、15分程かけて作業を終えると、レグや俺を中心に10名程が集まって明日の確認を行った。
A班やB班の冒険者が休憩を取っている間、連絡係だった斥候職の冒険者は休憩を取っている訳ではなく、俺が渡したこの森のマップの検証に向かっていたのだ。
「分かってはいたが、ヨシタカがくれた地図通りの場所にオークの集落がある確認が取れた」
「正確には5ヶ所ですがね」
「流石にこの短時間で残り9ヶ所の確認は無理っすよ」
「そんな事は解っとる! だから5ヶ所の確認だけさせたんだろうが!」
「しかし、それでも充分な数です。元々信頼度の高い地図だったのですから、他は疑うまでもないでしょう。本当に素晴らしい地図です」
「コイツの力に頼りっぱなしなのは悪いが、今回はヨシタカに頼るしかないのが現状だ。明日も3ヶ所の集落を潰すぞ」
「ああ。移動時間等を考えれば、1日に3ヶ所が適正だろうな」
「ええ。それ以上となると、翌日の体調が心配ですし、何よりもヨシタカさんの負担が大き過ぎるでしょう」
「そうだな。今日だって戦闘にしろ、回復にしろヨシタカにおんぶに抱っこだったからな。あながち、昨日ヨシタカが言った、1人でも3日で12ヶ所を潰すってのもハッタリと笑えんな」
俺の評価が上がったのは良いが、俺には気掛かりがある。ここは言わないでおこう。
「それじゃあベースキャンプへ戻るぞ」
『はい』
「ヨシタカ」
「何だ?」
「お前は俺達の中心で移動しろ」
「は?」
「そうですね」
「そうっすね」
「その方が良いと思います」
何だ? 言っている意味が分からない。
「どういう事だ?」
「ヨシタカさんの疲労を考え、70人が移動する中心にいてもらいます」
「そうっすよ、途中で魔物に出会っても自分等が倒しますんで、今日は体力と魔力の回復に専念してくださいっす」
あ~。そういう事ね。
「解った、お言葉に甘えさせてもらおうか」
「そうしとけ。何せ、お前には明日以降も無理をさせてしまうからな」
◆◆◆◆◆
そんな訳で、俺は70人もの冒険者に護衛をされる様な形でベースキャンプへ戻る事になった。
道中では特に魔物との遭遇もなく進む事が出来たのだが、この森の以前の様子を知る冒険者には異様に感じてしまうという内容の雑談が聞こえた。
俺の脳内マップにも、後方にいる大量のオークと鳥系の魔物の反応しか、周囲には感じられない。
オークの集落の更に先にはゴブリンを始め、コボルトや猪系や牛系の魔物の存在を確認出来るが、俺達の一団と接触する事はまず無いだろう。
周囲の冒険者達にとって、今のこの森はオークの森と言っても過言ではない程にオークで埋め尽くされた森という認識になっている様だ。
周囲を警戒しつつ、1時程も歩けば森を抜け、ベースキャンプが見えてきた。
時刻はもうすぐ4時、永い1日だった。