【物語】竜の巫女 剣の皇子 73 よにんかぞく
夜色の瞳に戻ったソロフスは、始竜の本心に戸惑った。
凶暴な獣に情けをかければ、自分の命が危うい。しかし、その本来の浄さを理解した夜の子は、剣を構えながら考え続ける。炎の結界は巨大ではあるが、三割ほど収縮していた。時間は限られている。
緋の巫女は怒鳴る「早う!焼いてしまえ!」
それを聞いた紅の竜は、剣士に灼熱の炎弾を吐き出す。
「あああああっ!もうっ!!」ソロフスは顔を引き締め、剣と詞でその火炎を力一杯薙ぎ払う。炎弾は結界の火壁に飲み込まれた。
「悩むの、止めた!」彼は体制を整える「緋の巫女を殺す」顔をスッキリさせた剣士は、標的をしかと定めた。
その時、
「ソロっ!!」
結界内に、聞き慣れた涼やかな声が響き渡った。ソロフスが驚いて声の主を見る。
「ルー!?」
ルチェイとちびとミカゲが、彼に笑みを向けながら、勇んで駆け寄ってきた。
彼は目をまん丸くする「ばか!!なんで来たんだ!?」
「それはこっちの台詞よ!」妻は厳しい顔を夫に向けた。
「ばかっ!ばかソロ!!この大馬鹿!超ばか剣士!!」ルチェイは凜として、荒ぶる表情を隠さない。碧い瞳が燃えさかる。ちびとミカゲは苦笑し、隣でふたりを見守っている。
「また嘘をついたわね!!ソロの嘘なんて!お見通しよっ!!」
剣を抱く彼女は、たじろぐ剣士に詰め寄る。
それを見る緋の巫女が、ちょこまかと現れた小娘を脅す。
「なんじゃぁ!?お前等!?」
「う る さ いっ!!あなたは黙っててっ!!こっちは大事な話を!しているのっ!!」
少女の激しい一喝に、緋の巫女も次のことばを詰まらせた。
やっと涙目になったルチェイは「ソロ……ミットマさんが……!」形見の剣をソロフスに手渡した。
「これは」彼は目を伏せる。
「ルー、ごめん」「辛かったね」彼女から剣をしっかりと受け取る。
「【豐櫛】という【魂の剣】だと」
「とよくし……魂……」ソロフスは呟く。
『ソロ!危ない!』
ちびの声がふたりに向けられる。ソロフスは玄穂で始竜の炎を弾く。そのまま、彼は結界を作り、みんなを集めた。
「ちび。ひとまず二重の結界を。作戦会議をしたい」剣士は白竜に言う。『承知』ちびは白光の結界で全員を包んだ。
ミカゲが『ソロ!また一緒!』彼にすり寄る。
【よにんかぞく】は顔を見つめ合い、再会を喜んだ。
『緋の巫女よ!』ちびが勇ましく名告りをあげた。
『ボクはアーサラードラの竜、【世界の秩序】アステイラだっ!
そして、この姫は!新しき光皇女ルチェイである!
よくも聖上ハリュイとエーテルと、ミットマを殺め、イルサヤを破壊してくれたな!』
白竜は空色の瞳を燃やし、緋の巫女を睨む。
ソロフスはそれを聞き「聖上も!?」ルチェイを見る。彼女は悲しげに頷く。
「そうか」彼は頷く「わかった。緋の巫女は、必ず滅する」
続けて相談を行う。
「始竜は、怖がっているんだ。命令を受けて攻撃しているに過ぎない。だから命じている緋の巫女を倒し、始竜を大人しくさせたい。加えて、この炎の結界空間はどんどん縮まっている。早くみんなで脱出せねば。
私とミカゲで緋の巫女を殺る。ちびにルーを守りながら始竜を抑える役を頼めるだろうか?結界は私がどうにかして、破る」彼は心中で【自分の竜】のことを思う。
「待って!私に【真の名】を教えて!!私も戦う!」
ルチェイはソロフスに嘆願する。
「【真の名】を知った私が、どうなるか分からない。でも、力が欲しいの!良いと言うまで、この結界を出ない。ここにいる!あなたと、みんなでここを出るの!
私がどうなったとしても、ソロを責めない。信じて!」
「私はあなたを信じる!」
彼が返事に迷っていると、
『ソロ。ぐずぐずしてないで【真の名】を言えよ』ちびが結界でみんなを守りながら、厳しく言う。
『ルチェイの力はいる。それに後で、お前が連れ戻せばいい話だ。違うか?』
青年は白竜を見る。『安心しろ。男のボクに頼れ』ちびは鋭い牙を出して笑う。
「みんなでちからを合わせよう」「みんなのために」ルチェイのことばに、黒馬と白竜も頷き、ソロフスを見つめる。
ソロフスはみんなに頷き、覚悟を決めた。「あなたを必ず」ルチェイをしっかり抱きしめる。
「ルチェイ、愛している」「綺羅明よ、起きろ」
言霊を受け取った瞬間、彼女の瞳は青銀の煌めきを放った。
(つづく)




