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【物語】竜の巫女 剣の皇子【第二部】  作者: ヤマトミチカ
はんぶんこ
32/36

【物語】竜の巫女 剣の皇子 73 よにんかぞく

挿絵(By みてみん)



 夜色の瞳に戻ったソロフスは、始竜の本心に戸惑った。

 凶暴な獣に情けをかければ、自分の命が危うい。しかし、その本来の浄さを理解した夜の子は、剣を構えながら考え続ける。炎の結界は巨大ではあるが、三割ほど収縮していた。時間は限られている。

 緋の巫女は怒鳴る「早う!焼いてしまえ!」

 それを聞いた紅の竜は、剣士に灼熱の炎弾を吐き出す。

「あああああっ!もうっ!!」ソロフスは顔を引き締め、剣と詞でその火炎を力一杯薙ぎ払う。炎弾は結界の火壁に飲み込まれた。

「悩むの、止めた!」彼は体制を整える「緋の巫女を殺す」顔をスッキリさせた剣士は、標的をしかと定めた。


 その時、

「ソロっ!!」

 結界内に、聞き慣れた涼やかな声が響き渡った。ソロフスが驚いて声の主を見る。

「ルー!?」

 ルチェイとちびとミカゲが、彼に笑みを向けながら、勇んで駆け寄ってきた。

 彼は目をまん丸くする「ばか!!なんで来たんだ!?」

「それはこっちの台詞よ!」妻は厳しい顔を夫に向けた。

「ばかっ!ばかソロ!!この大馬鹿!超ばか剣士!!」ルチェイは凜として、荒ぶる表情を隠さない。碧い瞳が燃えさかる。ちびとミカゲは苦笑し、隣でふたりを見守っている。

「また嘘をついたわね!!ソロの嘘なんて!お見通しよっ!!」

 剣を抱く彼女は、たじろぐ剣士に詰め寄る。

 それを見る緋の巫女が、ちょこまかと現れた小娘を脅す。

「なんじゃぁ!?お前等!?」

「う る さ いっ!!あなたは黙っててっ!!こっちは大事な話を!しているのっ!!」

 少女の激しい一喝に、緋の巫女も次のことばを詰まらせた。


 やっと涙目になったルチェイは「ソロ……ミットマさんが……!」形見の剣をソロフスに手渡した。

「これは」彼は目を伏せる。

「ルー、ごめん」「辛かったね」彼女から剣をしっかりと受け取る。

「【豐櫛】という【魂の剣】だと」

「とよくし……魂……」ソロフスは呟く。

『ソロ!危ない!』

 ちびの声がふたりに向けられる。ソロフスは玄穂で始竜の炎を弾く。そのまま、彼は結界を作り、みんなを集めた。

「ちび。ひとまず二重の結界を。作戦会議をしたい」剣士は白竜に言う。『承知』ちびは白光の結界で全員を包んだ。

 ミカゲが『ソロ!また一緒!』彼にすり寄る。

 【よにんかぞく】は顔を見つめ合い、再会を喜んだ。


『緋の巫女よ!』ちびが勇ましく名告りをあげた。

『ボクはアーサラードラの竜、【世界の秩序】アステイラだっ!

そして、この姫は!新しき光皇女ひかりのみこルチェイである!

よくも聖上ハリュイとエーテルと、ミットマを殺め、イルサヤを破壊してくれたな!』

 白竜は空色の瞳を燃やし、緋の巫女を睨む。

 ソロフスはそれを聞き「聖上も!?」ルチェイを見る。彼女は悲しげに頷く。

「そうか」彼は頷く「わかった。緋の巫女は、必ず滅する」

 続けて相談を行う。

「始竜は、怖がっているんだ。命令を受けて攻撃しているに過ぎない。だから命じている緋の巫女を倒し、始竜を大人しくさせたい。加えて、この炎の結界空間はどんどん縮まっている。早くみんなで脱出せねば。

私とミカゲで緋の巫女を殺る。ちびにルーを守りながら始竜を抑える役を頼めるだろうか?結界は私がどうにかして、破る」彼は心中で【自分の竜】のことを思う。

「待って!私に【真の名】を教えて!!私も戦う!」

 ルチェイはソロフスに嘆願する。

「【真の名】を知った私が、どうなるか分からない。でも、力が欲しいの!良いと言うまで、この結界を出ない。ここにいる!あなたと、みんなでここを出るの!

私がどうなったとしても、ソロを責めない。信じて!」

「私はあなたを信じる!」

 彼が返事に迷っていると、

『ソロ。ぐずぐずしてないで【真の名】を言えよ』ちびが結界でみんなを守りながら、厳しく言う。

『ルチェイの力はいる。それに後で、お前が連れ戻せばいい話だ。違うか?』

 青年は白竜を見る。『安心しろ。男のボクに頼れ』ちびは鋭い牙を出して笑う。

「みんなでちからを合わせよう」「みんなのために」ルチェイのことばに、黒馬と白竜も頷き、ソロフスを見つめる。

 ソロフスはみんなに頷き、覚悟を決めた。「あなたを必ず」ルチェイをしっかり抱きしめる。

「ルチェイ、愛している」「綺羅明きらきらよ、起きろ」


 言霊を受け取った瞬間、彼女の瞳は青銀の煌めきを放った。



(つづく)


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