【物語】竜の巫女 剣の皇子 72 一途
炎の壁に囲まれた緋の巫女は目を見開く「なんじゃこれは!?竜よ!焼き開けぃ!!」始竜に命じた。
紅の竜は傷からの流血をものともせず、結界壁に向かい、火炎を吐きつける。しかし、火の壁はびくともしない。竜自体は平然としているが、女の顔は歪む。緋の巫女がソロフスを睨む。彼がニッと歯を見せて笑うので、女はさらに怒りを募らせ、両拳を握りしめた。
「いいじゃないか」落ち着き払った剣士は「お互い、気兼ねなくやろうぜ」剣を鞘に収め、太刀緒を整え腕組みをする。
「俺は、最高に燃えているよ?」
金眼のソロフスが麗しく、微笑んだ。
ルチェイとちび、そしてミカゲは、破壊された都城を抜け、皇国の原野にいた。
「これは……!」火事山の如くそびえる、巨大な半球状の結界にルチェイ達は目を見張る。
『やはり、ソロはこの中にいるな』ちびが言うので、黒馬のミカゲも『ああ、私の【角】を感じる。間違いない』頷く。炎の結界周囲の凄惨な状況も、ソロフスの危機を案じさせる。
ルチェイはずっと胸がざわめくので、彼のくれた護り刀とミットマの剣をしかと抱きしめ、炎渦巻く高熱の結界壁を睨んだ。
『これは、気合いを入れねば!』ちびも目を鋭くする。ミカゲも頷く。
さんにんは輪になり、互いを見つめ合った。
「ソロが待っている!」ルチェイはこころを決め「私は行く!」碧い目に覚悟の光を溢れさせる。
『ボクもソロの所に行くぞ!光でみんなを守る!』白竜は空色の瞳を煌めかせる。
『絶対に行く!ふたりとも、あたしに乗れ。これ位超えてやるさ!!』ミカゲが夜星の目を燃やす。
ルチェイとちびはミカゲに乗る。ちびがその周りを白い光で包む。姫巫女は心を澄ませ、詞を詠唱する。「どうか。道を」ルチェイは前だけを見る。
さんにんは、ただただ『ソロフスに会う。彼を助けたい』ただ、それだけを、ひたすらに思った。
みっつの決意が、最強結界に挑み、迷わずに炎の壁に分け入る。
ルチェイの抱く剣が、仄かに皓く輝き、さんにんを薄絹の淡い光で柔らかにくるんだ。彼女らはそれに気づく暇もなく、ひたすらに前を向き、荒れ狂う業火の中を突き進んだ。
結界壁の中で、ソロフスは詞を唱え、渦巻く金炎を生じさせていた。
「心中はまっぴら」
「まずは女」瞳を金色に燃やす彼は、女を睨む。「獣の方がまだいい」ことばを吐き出す。
緋の巫女は歯がゆい顔で、声を荒げる。「殺せ!」
ソロフスに始竜が飛びかかる。彼は玄穂を抜き、素早く竜の身体をくぐり抜けながらそれを斬った。こころを細くした彼に、凄まじい激痛と熱が走り抜ける。同時に、激痛の奥にある獣のこころを感じ、ソロフスは紫眼を見開いた。
「……お前、怖いのか……!!」
夜の子は、唸り続ける金眼の竜を見つめ返した。
(つづく)
【おまけ】




