表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【物語】竜の巫女 剣の皇子【第二部】  作者: ヤマトミチカ
いくさがみ
26/36

【物語】竜の巫女 剣の皇子 67 竜縛結界


 緋の巫女が現れ、一夜明けたロゴノダ皇国。

 その宮城、皇の間で天女の大紋章を見つめる三名の姿があった。

「では、親父殿」皇太子フロドは漆黒の戦闘衣を纏い主上に挨拶をした。国皇も黒衣に身を包み黙って頷く。

 第二皇子のアラフは「主上!何故私は宮城に残らねばならぬのでしょうか!?剣でオリデオとリオソスの敵を討たずしては!武人として、兄として口惜しい!!」声を荒げて父に訴えた。

「アラフよ。お前には宮城内を頼む。これも戦であるぞ」主上は静かに、厳しく息子に言う。その威厳に、彼は次のことばを飲み込みかける。

 フロドは肩をすくめながら微笑み、弟の肩を軽く叩いた。「俺が死んだらお前が皇太子の座につける」朗らかに言う。

「私はそんなことに捕らわれていない!」アラフは語気を強める。

「分かっているさ。親父の気持ち、汲み取れや。真面目なお前が統括に向いているし、俺がコロッと死ねば、もうお前しか残らない」

 兄のことばにアラフは神妙な顔を強ばらせる。

 厳しい表情のフロドは「俺がお前の分もやる。主上と宮城を任せたぞ」そして「帰ったら思い出話を肴に飲んだくれるか」と、笑った。

「主上。藍理と俺はどこに配するか?」

「お前は竜騎隊と共に宮城の盾。藍理は始竜の首を守る剣に」

「藍理にも盾を」

「魔導師が行く」

「私の剣は?」

「儂等全てだ」国皇はいつもの渋い顔で淡々と言う。

「ありがたいことです。それは迂闊に使えませんなぁ!がんばって!いってきます!!」

 フロドは大きく笑い、皇の間を後にした。



 皇太子が夏官魔導剣士から選抜した一角獣隊と、別軍を率い、出陣した頃。

 夜明けの空に似つかわしくない黒雲の塊が皇国上空に現れた。

 自動結界の赤光の矢がその黒雲に鋭い勢いで飛んでいく。が、黒雲に弾き返され、光は四散する。

 さらにうごめく黒雲が進もうとした時、それは紅蓮の炎の如き光に包まれた。光の勢いに、黒雲が蒸発するように消えると、そこには首なし紅の竜と、緋の巫女が現れた。共にいた鬼は黒雲と共に断末魔を上げながら蒸発した。

「くそぉおぉっ!千里眼め!」緋の巫女は声を荒げ、必死で結界の炎を打ち破ろうと藻掻く。しかし、その空間に縛り付けられ身動きが取れないでいる。

「これは『とっておきの結界シリーズ』第一弾♪」

 宮城内の打ち崩れた七曜塔の中で、レウン導司は気合いを込めて言う。

「七曜竜縛結界短期集中スペシャルバージョン♪」銀眼を燃やす彼は嬉々としている。

 そこには彼ひとりが座すのみ。

 塔内の結界はすでに消え、竜の頭はソロフスが預かっていた。


 皇国宮城の外れにある原野。

 その地に新しく創られた赤い結界円陣中央に、竜の頭蓋骨は置かれていた。

「導司が限界いっぱいまで竜を止める。宮城への攻撃は軍が、こちらは我らで止める」

 上空に視認された始竜を包む結界の光を見つめ、ソロフスは静かに言う。

「お前には苦労をかける」

 魔導師は「いいえ。藍理様を護れるなら本望」眼鏡と瞳を輝かせる。

「まだ時間はあります。導司もメラメラ燃えていますね~!自分も藍理様とメラメラ燃えてみたいっ!」

「……お前のおおらかさには頭が下がるよ」ソロフスは茶化す事なく言う。

「姫巫女様、お元気だといいですね」

 サイメイのことばに彼は「私は……判断を間違えたかもしれない。あれをもしかしたら……」小さい声で言い、薄い色の空を見上げた。

「大丈夫ですよ」サイメイは笑う「姫巫女様は、大丈夫。あの方は、強い」

「そうか」ソロフスは遠くを見ながら呟く。

「藍理様。私や姫巫女様をふりほどこうとしても無駄ですよ」

 青年は穏やかな顔をソロフスに向ける。

「いじけたわんこが尻尾を振れば、誰だってわかりますもの。皇国の秘密兵器、わんこ二名で世界を守護してみせましょう」

「お前には敵わないな」ソロフスは大きく息を吐き、サイメイに笑みを見せた。



 同時刻。

 アーサラードラ、イルサヤ宮城の近く。

 ルチェイとミカゲはちびの翼に包まれ、木陰で眠っていた。急ぐふたりを、ちびが説得して休ませたのだ。もう少ししたら皆で再び皇国を目指す。

 ちびはルチェイの泣き疲れた寝顔を見つめる。

『だんだん、離れていってしまうな……』白い竜はその眼を長年連れ添った半身に向けた。

『君は、君でいてね』微笑むちびは、星の竜としての秩序をまたひとつ、決めた。

『鍵は、愛する半身に渡すぞ』ちびは、空色の瞳を柔らかく煌めかせた。


 皇国にいるソロフスは、ふと胸に、温かさと痛みを感じた。

 彼の周りに春風が舞うので、夜の瞳は困惑しながらも溢れそうになる涙を必死に堪えた。

 

 

挿絵(By みてみん)


(つづく) 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ