第17話 鍵の向こう
結局、その夜は別々の部屋で眠ることになった。
玲音が私室へ入り、扉が静かに閉じる。
透真はすぐにはその場を離れなかった。
白い扉を前にしたまま、何をするでもなく立ち尽くしている。少し前まで自分の腕の中にいた玲音の温もりが、まだ掌に残っているような気がした。
――今日は別のお部屋で寝るの?
寂しそうに見上げてきた顔。
その表情を思い出した直後、まったく別の玲音が脳裏に浮かんだ。
怯えた目。
自分から逃れようとする身体。
そして。
――どなたか知りませんが。
喉の奥がひどく乾いた。
透真はゆっくりと踵を返した。
向かったのは自室ではなく、書斎だった。
照明を落とした部屋でデスクの引き出しを開け、ノートパソコンを取り出す。起動するまでのわずかな時間、暗い画面には透真自身の顔だけが映っていた。
ひどく疲れている。
けれど眠る気にはなれなかった。
ブラウザを開き、いくつもの言葉を打ち込む。
記憶の固定。
認知の揺り戻し。
外部刺激。
再発。
果てには、自分なら普段はあまりに大雑把だと切り捨てるような「洗脳 解除 方法」という言葉まで検索欄に並んだ。
表示された情報を開き、読み、閉じる。
また検索する。
長期的な心理操作には繰り返しの介入が必要だという説。強い外部刺激が固定された認知を揺らす可能性。信頼関係の崩壊が変化の引き金になるという記述。
どれも共鳴コードそのものを説明する情報ではない。
そんなことは、誰より透真自身がわかっていた。
共鳴コードを作った側の人間が、一般のネット上に転がっている曖昧な情報に答えを求めても意味などない。
それでも、読むのをやめられなかった。
今日の玲音の姿が、頭から離れない。
何度目かもわからない検索結果をスクロールする透真の横顔は、幸福な恋人のものではなかった。
あと少しで大切なものを失いかけた人間が、二度と同じことを起こすまいと必死に何かへ縋っている顔だった。
同じ頃。
玲音もまた、眠れずにいた。
「透真……ごめんね」
布団の中で小さく身体を丸める。
目元には薄く涙が滲んでいた。
「私……どうしてあんなことを……」
夢だった。
透真はそう言ってくれた。
全部忘れてしまえばいい、と。
玲音自身もそう思おうとしている。
それなのに。
自分が透真を拒んだ。
逃げようとした。
そんな感覚だけが、胸のどこかに引っかかって消えてくれない。
あれが本当に夢なら、どうしてあんな夢を見たのだろう。
こんなに好きなのに。
あれほど大切にしてもらっているのに。
自分はどうして、夢の中で彼をあんな目で見てしまったのだろう。
玲音は答えの出ない問いを抱えたまま、やがて疲れに負けるように瞼を閉じた。
しばらくすると、規則正しい寝息が部屋を満たし始める。
深夜を過ぎた頃、ようやく書斎を出た透真は、玲音の部屋の前で再び足を止めた。
扉の向こうから、かすかな寝息が聞こえている。
透真はドアノブに触れなかった。
ただそこに立ち、閉じた扉を見つめた。
玲音はいる。
ここにいる。
自分の知らない場所へ消えてはいない。
「……大丈夫」
誰に聞かせるでもなく呟く。
「もう逃げられない」
その言葉が安堵なのか、願いなのか。
透真自身にもわからなかった。
やがて彼も自室へ戻り、ベッドへ横になる。
だが目を閉じるたび、あの怯えた玲音の瞳が闇の中に浮かんだ。
知らない男を見る目。
彼がずっと恐れてきた、どんな拒絶よりも恐ろしかった。
眠りは、朝が近づくまで訪れなかった。
◇
玲音が目を覚ましたとき、窓から差し込む光はすでに昼のものになっていた。
「……ん……」
寝返りを打ち、しばらくぼんやり天井を見る。
昨日の疲れが思っていた以上に残っていたらしい。
時計を見ると、正午をとうに回っていた。
「こんな時間……」
身体を起こした途端、腹の奥から小さな音が鳴る。
くぅ、と。
「……やだ」
誰も聞いていないのに恥ずかしくなって、お腹を押さえた。
「お腹すいたなぁ……。キッチンに行こうかな」
ベッドを降り、扉へ向かう。
ドアノブを握って回した。
「……あれ?」
動かない。
もう一度。
がちゃり、と金属音が響くだけだった。
「え……?」
力を入れてみる。
それでも開かない。
玲音の手が止まった。
昨夜、自分がこの部屋へ入ったときには普通に開いていたはずだ。
「なに……?」
静まり返った室内で、自分の声だけが妙に大きく聞こえる。
玲音はもう一度ドアノブへ手を掛けた。
結果は同じだった。
開かない。
胸の奥に、先ほどまでの空腹とはまるで違うものが広がっていく。
それは冷たい不安だった。
「なにかあったのかしら……」
振り返る。
当然、部屋には誰もいない。
透真もいない。
理由がわからない。
廊下から人の気配もしなかった。遠くで時計の振り子が規則正しく時を刻む音だけが、静かな屋敷の中を渡っている。
「透真……?」
呼んでも返事はなかった。
しばらくして、廊下の向こうから足音が近づいてきた。
玲音はほっとして扉へ寄る。
二度、控えめなノックが響いた。
「玲音様。おはようございます。お食事をお持ちしました」
若い使用人の声だった。
外側で操作される音がして、それまでびくともしなかった扉が開いた。
自分ではどうしても開けられなかった扉が、向こう側からはあっさり開く。
そのことが、玲音の胸に小さく刺さった。
若い使用人はトレイを手にしていた。
サンドイッチと温かなスープ。彩りよく盛られたフルーツまで添えられている。
いつもなら嬉しくなるはずなのに、玲音が最初に口にしたのは食事のことではなかった。
「ありがとう。ねえ……透真は?」
「透真様は本日、外出されております」
若い使用人は一瞬だけ間を置いた。
「夕方にはお戻りになる予定です」
「透真が……?」
玲音は戸惑って目を瞬いた。
それなら、この扉は何なのだろう。
「ねえ……お部屋、開かなかったの」
若い使用人の表情がわずかに固くなった。
「あの……お部屋のことでしたら、透真様からのご指示ですので」
「どうして……?」
玲音には、本当にわからなかった。
「透真が?」
若い使用人はすぐに答えなかった。
視線が玲音から外れ、床へ落ちる。
「昨日のこともございましたので……玲音様の安全のためかと」
「安全……」
玲音は小さく繰り返した。
昨日。
外へ出た。
怖かった。
透真を拒絶した。
また胸の奥に、悪い夢の欠片が浮かぶ。
――だから?
だから、自分はここから出てはいけないのだろうか。
透真が、自分をここに閉じ込めたのだろうか。
けれど昨日は、その透真と一緒に庭を歩いた。
手を繋いだ。
抱きしめてもらった。
星を見た。
星より綺麗だと言ってくれた。
どれが本当なのか、玲音にはわからなくなった。
「何かございましたら、お呼びください」
若い使用人はそれ以上説明できないらしく、頭を下げた。
「……ありがとう」
玲音はトレイを受け取る。
「わかったわ」
扉が閉じる。
ほどなくして、また玲音一人の静かな部屋になった。
テーブルへ座り、サンドイッチを一口だけ齧った。
さっきまで、あんなにお腹が空いていたのに。
味がよくわからない。
スープから立ち上っていた湯気を、ぼんやりと眺める。
――私が悪かったの?
ふと、そんな考えが浮かんだ。
透真が悪い、とは思えなかった。
昨日、一人で外へ出たのは自分だ。
夢の中とはいえ、透真を拒絶したのも自分。
透真は怖かったのかもしれない。
また自分がどこかへ行ってしまうと思ったのかもしれない。
だから鍵を。
「……私が悪いのかな」
呟いた途端、喉が詰まった。
サンドイッチをトレイへ戻す。
もう食べる気にはなれなかった。
玲音はベッドへ戻ると、膝を抱えるように丸くなった。
食べかけのサンドイッチ。
湯気を失っていくスープ。
部屋の外では、時折誰かが通り過ぎる足音が聞こえる。
遠くで電話が鳴ることもあった。
けれど誰も玲音のところへは来ない。
透真も帰ってこない。
昨日まで、この屋敷は静かで落ち着く場所だった。
透真の隣にいれば、それだけで安心できる家だった。
なのに今日の静けさは、まるで違う。
時間が進むほど、胸の中に置かれた重石が大きくなっていくようだった。
◇
午後になり、再び扉がノックされた。
「玲音様。お風呂のご用意ができております」
若い使用人だった。
「……ありがとう。いま行くわ」
しばらくして扉が外から開けられる。
玲音は着替えを抱え、若い使用人に付き添われる形で浴室へ向かった。
すれ違う使用人たちは普段と変わらず頭を下げる。
廊下も、窓の外の庭も、昨日までと何一つ変わっていない。
変わってしまったのは自分たちだけなのではないか。
そんな気がした。
浴室へ入ると、玲音は黙って身体を洗い、湯船へ沈んだ。
温かなお湯が肩を包む。
いつもなら身体から力が抜けていくはずなのに、今日は胸の緊張だけがほどけなかった。
ぼんやりと浴室の隅を見る。
その瞬間、以前ここで透真と過ごした時間が不意によみがえった。
二人でくだらないことで笑ったこと。
その瞬間、以前ここで透真と過ごした時間が不意によみがえった。
すぐそばに透真がいて、何気ない言葉を交わしていた時間。
特別なことなど何もなかった。
ただ彼と一緒にいるだけで、玲音は安心していられた。
そんな穏やかな日々が、今はひどく遠い。
「この間まで……」
声が震えた。
「普通だったのに……」
頬を一筋、涙が伝った。
それはそのまま湯船へ落ち、お湯と混ざって見えなくなった。
「前には……戻れないのかしら」
戻りたいのは、別の人生ではない。
昨日までの、ただ透真の隣で笑っていられた時間。
何も疑わず、何も怖がらず、彼と一緒にいるだけで幸せだったあの穏やかな日々。
「もう……」
それ以上は言葉にならなかった。
湯が少しぬるくなるまで玲音はそこにいた。
浴室を出ると、用意されていた服へ着替えた。
若い使用人は余計なことを尋ねなかった。
「替えのお召し物はこちらに」
「ありがとう」
目が赤いことには、きっと気づかれている。
それでも彼女は何も言わない。
玲音を気遣っているからなのか。
透真から余計な話をしないよう言われているからなのか。
今の玲音にはわからなかった。
付き添われて私室へ戻る。
そしてまた、扉が閉じた。
玲音はとぼとぼとベッドへ向かい、布団の中へ潜り込む。
「私が悪いの……?」
今度は声に出していた。
返事はない。
外では夕日が傾き、やがて窓の色が橙から藍へ変わっていった。
夕方には帰ると聞いていた。
けれど、透真は帰ってこなかった。
夜になった。
九時。
十時。
屋敷の時計が十一時を告げる。
食事にもほとんど手をつけられないまま、玲音の部屋は暗かった。
眠ることもできず、ベッドの上で丸くなっている。
――嫌われたのかもしれない。
そんな考えまで浮かんだ。
透真を傷つけたから。
言うことを聞かなかったから。
透真は自分に愛想を尽かしたのではないか。
胸が苦しくなり、玲音は目をきつく閉じた。
そのとき。
遠くで玄関の鍵が開く音がした。
玲音は、はっと顔を上げた。
足音が聞こえる。
廊下を歩いてくる。
迷うことなく、まっすぐこちらへ近づいてくる。
「……透真」
身体を起こした。
扉の向こうで足音が止まる。
そして、扉が開いた。
「……寝てなかったの?」
暗い部屋の入り口に、透真が立っていた。
「……うん」
玲音は無理に口元を持ち上げた。
笑おうとした。
けれど一日泣いた顔では、それがかえって痛々しく見えた。
「透真……おかえりなさい」
「ただいま」
透真もまた、いつもと違っていた。
スーツ姿のまま。
ネクタイすら緩めていない。
長い外出だったのだろう。目の下には薄く疲労の影が落ちていた。
透真は照明をつけなかった。
暗いままベッドへ腰掛ける。
そして何も言わず、玲音の頭を自分の膝へ乗せた。
その瞬間だった。
朝から張り詰め続けていた糸が、ぷつりと切れた。
「……私が悪いんでしょ」
「玲音?」
「透真、ごめんなさい」
涙が溢れた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
言葉と一緒に嗚咽がこぼれる。
「うっ……うっ……」
子供のように泣きじゃくりながら、玲音は透真の膝に顔を伏せた。
暗い部屋に、玲音の泣き声だけが響いた。
「違うよ」
透真の手が、ゆっくり玲音の髪を撫でる。
「玲音は何も悪くない」
「でも……」
「悪くないよ」
もう一度、はっきり言った。
その声は優しかった。
玲音を慰めながら、その実、透真自身へ言い聞かせているようでもあった。
悪いのは玲音ではない。
扉に鍵を掛けたのは自分だ。
彼女の気持ちより、自分の恐怖を優先した。
玲音がまたいなくなるのが怖かった。
またあの目で見られるのが怖かった。
その恐怖から逃げるために、玲音を逃げられなくした。
「……怖い思いさせて、ごめん」
透真はしばらく黙ったあと、静かに言った。
「もう閉じ込めたりしない」
玲音がゆっくり顔を上げる。
暗くて透真の表情はよく見えなかった。
「ううん……」
涙を拭いながら、玲音は小さく首を横に振った。
「いいの」
「玲音」
「透真がいてくれるから」
玲音は透真の膝に頬を寄せた。
「私、このままでもいいの」
透真の手が止まった。
たった一瞬だった。
けれど確かに。
その言葉は、透真がずっと欲しかったもののはずだった。
この屋敷にいたい。
自分のそばにいたい。
外へ行かなくてもいい。
透真がいるだけでいい。
それなのに。
胸の奥から込み上げてきたものは喜びではなかった。
自分が玲音へその言葉を言わせている。
閉じ込められ、一人で泣き、食事にもほとんど手をつけられないほど傷ついた玲音が、それでも自分を失うことのほうを怖がって「このままでいい」と言っている。
吐き気にも似た自己嫌悪が込み上げた。
自分は何をしている。
守りたかったはずなのに。
どうしていつも、守るために傷つける。
「透真……?」
玲音が不安そうに見上げた。
「どうしたの?」
「……なんでもない」
なんでもなくはなかった。
けれど透真はそれ以上何も言わず、玲音の額へ唇を寄せた。
長く、静かな口づけだった。
それから玲音の身体を起こし、両手で頬を包む。
「今日、一日中……僕のこと考えてた?」
玲音は少し驚いたように瞬いた。
けれどすぐ、涙の跡を残したまま微笑んだ。
「うん。ずっと考えてたよ」
「ずっと?」
「だって……」
玲音は透真の手へ自分の手を重ねた。
「透真しかいないもん」
その一言が、透真の胸の中へ深く沈んだ。
安堵する。
同時に苦しくなる。
相反する感情が、もう分けられなくなっていた。
透真は小さく息を吸う。
ポケットへ手を伸ばした。
取り出したスマートフォンを見つめる。
画面の中にある共鳴コードのアイコン。
指先に力が入り、白くなる。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ、迷った。
今日は玲音を閉じ込めた。
それで傷つけた。
もうしないと約束した。
それなのに。
再び自分を忘れるかもしれない。
再び「知らない」と言われるかもしれない。
その可能性を受け入れることだけは、どうしてもできなかった。
迷いは、長く続かなかった。
「玲音」
「なあに?」
「これ見て」
透真はスマートフォンを玲音の目線まで持ち上げた。
「うん?」
玲音は不思議そうに画面を見つめる。
やがて、暗い室内に淡い共鳴光が浮かんだ。
光が二人の顔を静かに照らす。
玲音の瞳から、少しずつ力が抜けていく。
「ん……透真……?」
「僕の声だけ聞いて」
囁くような声だった。
玲音はゆっくり頷いた。
「うん……聞く……」
透真は玲音の左手を取った。
薬指には、昨日二人で眺めた指輪がある。
「この指輪、僕があげたものだよね」
玲音の口元に、柔らかな笑みが浮かんだ。
「うん……そう」
指輪へ視線を落とす。
「透真がくれたの」
その顔は、心から嬉しそうだった。
透真の胸が締め付けられる。
それでも言葉を続けた。
「じゃあ、この家にいるのが一番幸せだって、わかるよね?」
「……うん」
玲音は素直に頷いた。
「私、幸せなの……」
「そう」
透真は目を閉じた。
安堵する自分がいる。
それを嫌悪する自分もいる。
だが、やめなかった。
「もう誰が来ても怖がらなくていい」
静かな声が続く。
「僕がいるから」
「透真が……」
「僕が守るよ」
玲音の表情から、張りつめていたものが少しずつ消えていく。
透真が行っているのは、玲音の中に新しい何かを一から作ることではない。
すでにある愛情。
すでにある安心。
すでに玲音自身が感じている幸福。
それらを何度も拾い上げ、外の世界への不安より強く結び直していく。
崩れかけた現在を、もう一度動かないように留めるために。
「外の世界は怖いところだよ」
透真は静かに言った。
「嫌なことばかり思い出す」
玲音の中から何かの記憶が消えたわけではない。
冷たい風も。
知らない道も。
夢の中で誰かから逃げた感覚も。
ただ、それらへ手を伸ばそうとする意識が、遠い場所へ沈んでいく。
代わりに強くなるのは。
透真の声。
透真の体温。
この屋敷。
指輪。
二人で見た星空。
「……透真がいるから」
玲音はうっとりと微笑んだ。
「怖くない……」
「そう」
透真はスマートフォンを伏せた。
部屋が再び暗闇へ戻る。
「それでいい」
玲音の身体を胸元へ引き寄せた。
玲音は抵抗することなく、安心しきったように透真へ寄り添う。
しばらくして、透真は玲音をベッドへ横たえた。
毛布を肩まで掛ける。
額へもう一度口づける。
「おやすみ」
「……うん」
すでに眠気に引かれた玲音が、薄く目を閉じる。
「透真……」
「いるよ」
「おやすみなさい……」
「おやすみ。明日もずっと一緒だから」
玲音は安心したように微笑んだ。
ほどなくして、穏やかな寝息が聞こえ始める。
透真はベッドの傍らに座ったまま、その寝顔を見つめていた。
今日、玲音を閉じ込めたことを後悔していた。
あの扉に、もう鍵は掛けない。
その約束だけは嘘ではない。
けれど。
玲音を失わないために彼女の心へ掛けた鍵まで、透真は手放すことができなかった。
それが玲音を傷つけることを、もう知っているのに。
窓の外で、冷たい秋風が木々を揺らした。
眠る玲音を抱いたまま。
透真だけが、長いあいだ目を閉じなかった。




