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夢見の魔導士  作者: べっちゃ
第四章 思い描く世界
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第二十六話 副業

 俺は時間稼ぎ、アズサは暇潰しのために、この騒動における魔人たちの行動理由を推理することになった。急なことだが、これまでの要素を踏まえると、頭の中では大体考えがまとまっている。


 まず、当初の目的――身術の更新と禁書の閲覧を終えた後でも俺らが魔術都市(メンデール)に残ったのは、ここに来てすぐにアズサと遭遇したからだ。今にして思えば、あの場にはデウスもいたというのだから、奇妙な巡り合わせに思える。


『ここには……計画なんてものはないわ。“問題”がなければ何もしないわよ』


 敵意がない割に人類を滅ぼそうとしている魔人一派のアズサがこんなことを言うから、どうにか対処しようと躍起になったわけだ。


 俺たちは、“問題”が何かを理解しようとした。アズサの言い方的に、その“問題”というのは、まだコイツらも特定できていない、未確認の懸念点であったり、将来的に起こり得る事態で、それが発覚・発生した場合に魔人らは行動を開始するという認識だった。


 そして今、アズサは目の前――メンデールの首長室にいて、もはや首長でも何でもない男を拘束している。その男は、世界でも二人しかいない特等魔術士である少女を私物化しようとした奴だ。


 ここまでの騒動と、さっきまでの発言。それに、これまでのコイツらの印象から出来上がる、希望的観測を込めた魔人たちの訳分かんない目的は――


「レニット・サーマルの、安全の確保か?」


 導き出された俺の答えに、アズサは顎を引いて俺を見据える。


「ファイナルアンサー?」


「ん、なんて?」


「あっ……ごめん。そ、それがステアの答えでいいのね?」


「あ、あぁ……頼む」


 再確認すると、アズサは押し黙る。


 静寂が、この場に生まれる。


 緊張に、思わず生唾を飲み込む。


 ………………


 …………


 ……


「九十……七点!」


「おい! 満点出すのが癪だから削っただけだろ! 不当な採点だ!」


「いやいや、大事な3点だって! ただコイツらの汚い手に触れさせないだけじゃなくて、あの子が真っ当に天寿を終えるようにするまでが答えなのよ。だから惜しい! 偏見なしでよく答えられたわね。次は満点目指して頑張って!」


 ちくしょう!! 次は絶対、満点を――


 あれ……なんだ? このノリ。教室にいるのかと錯覚しちまった。


 アズサは教師気分なのか、今まで俺が見た中で一番の笑顔だ。

 対して、隣で椅子に縛り付けられているクズ(ピグトル)はぐったりしている。さっきまで発狂していた(結界によって声は聞こえない)が、今はもう目から生気を感じられない。


「元々コイツらの怪しい動きを知ってたのは、まだ来てない相方でね。ヒカネから離れた後、リオたちと合流したらこの騒ぎに動くよう言われてさ。まあ、一人だと大変そうだし、何が起こるのか聞いた後だと放っておくのも忍びないしね。もしこれがレニットじゃなくてアクアだったら……たぶん私は何が何でもコイツらを殺してたでしょうね」


 例え話に過ぎないが、アズサは目を怒らせながらクズを睨む。


 アクアは、ヒカネでアズサが受肉していたフレアの教え子だ。生徒思いなのはいいんだが――


「お前……さっさとヒカネに帰れよ」


 俺の素直な感想に、アズサは溜息をつく。


「何回言えば分かるの? もう無理なんだって。そのネタ好き? 会う度に擦られると私も癇癪(かんしゃく)起こすわよ? 嫌でしょ? ただでさえ大ケガしてるってのに、死なない程度に甚振(いたぶ)られるだけで辛い思いしかしないけど」


「自分で癇癪起こすなんて言わねぇよ………」


 どうにも意志は固いらしい。チョロっと会いに行くだけでもいいと思うんだが……


 やめとこ。これ以上はマジで痛い目に遭いそう。


「まあ、お前がそうならもう何も言わないけどさ……それより、前もって分かってたんなら、こんな騒ぎになるまで放置する必要あったのか? お前らだったらいつでもメチャクチャできただろ。ここまで引っ張られたおかげで、俺たちは北を調べようとしてたんだぞ」


「北? あ~、北ね。飛竜……竜災ね。ご苦労様。だってそもそも、私たちは……」


 アズサの言葉は途切れ、口元を歪めている。


 え、え? まさか……竜災を意図的に起こせるのか? いや、既に起こしてる? そしたら――


「関係ありませ~ん!」


「くたばれ」


 手でバッテンを作って竜災への関与を否定される。


 マジで焦った。おちょくられまくってるよ……


「でも……そっか。フィーネさん、北に行ってるからここにいないのね。確かに、私たちが竜災に関わってる可能性を考えたら、その役割分担が一番かもね。それにしても、ヒカネといい、最悪を考慮した最善の選択肢を取ってるのに、あんたは最悪一歩手前で痛い目に遭ってるんだから、面白いわよね。そういう星の(もと)に生まれたのかしら」


「刺さるからやめてねー? なんも面白くないよー……」


 改めて振り返ると、なんで俺は事件の最前線にいるんだ? こういうのはフィーネが迅速に対応して、そのおこぼれをせこせこ回収するのが俺の役割なんじゃないのか?


「大体、最初に俺を痛めつけたのはお前だろ」


「あ~、そうだった。メンゴ!」


「やっぱくたばれ」


 気安く手を合わせて心にもない謝罪を……いや、謝罪でもなんでもない。


 こんな奴だったの? ロゼっちとかフレアから聞いた想像よりも砕けてるんだけど。


「そういえば、グレネーなんだけどさ。やけにロゼっちを目の敵にしてたんだけど、なんか知ってる?」


「何それ。グレネー? 炎系統の一等だっけ? そんなに年齢いってないよね? だったらおかしいんじゃない? もう20年前からロゼさんは校長で、関わる理由も……」


 あれだけ恨み言を吐いていたのだから、二人は直接何かあったのかと思ったけど、アズサは首を傾げている。


 すると、心当たりを見つけたのか、眉を歪めた。


「そういえば……私と会ってちょっとしてから、魔衛士になりたいって子が来たとか……あの頃はロゼさんが真面目に校長やり始めた頃だし、そっちに集中したいから断ったって言ってたけど……」


「それじゃん」


 魔衛士の打診を断られただけで劣等感をあそこまで膨らませるとは思えないけど、きっかけは絶対それだろ。


 それで? その後に魔衛士を募集して、フレアが来て、アズサがアイツに受肉して、《大壇焔(だいだんえん)》を習得して……出来過ぎだろ!


「お前がいなかったらロゼっちは校長にならなかったし……ここでもアズサが元凶かよ」


「さすがにとばっちりだって! まあ、ロゼさんは好かれるか嫌われるか、両極端に分かれる性格してるから、その延長ではあるかもね」


 確かに、分からなくはない。気性が激しめの人ではあったし、良くない方向にいくと面倒になるかもな。


「てか、せんせー。最初の質問に答えてもらってませーん」


「私が言うのもなんだけど、魔人相手に図々しいわね。まあ、答えるんだけどさ。騒ぎが起こるまで待った理由だっけ? 理由、ね。理由……なんでだろ?」


 ハイ? 自分で分かってないの?


「いや、その目やめて? 傷つくから! ちょっと待って。普通の理由じゃなかったのよ。リオは確か、この騒ぎが“問題”じゃなくて、“試練”であってほしいって言ってたのよ。それに、あんたらが解決に動くことも期待してた。つまりよ、この騒動の中心にいるレニットも含めて、この困難を自分たちで解決してもらうのが一番だったのよ。それで、このバカたちの後始末をキチンとつけることが私たちの仕事。うん、そう……これが理由ね!」


「するってぇと? 俺はしょうもない訓練か何かで死にかけて、お前らはお高く監督してるつもりだってか?」


「うん……そうね」


「やっぱお前ら、話せば話すほど傍迷惑(はためいわく)だな」


「うん……自分で言っててそう思ってきたわ」


 救えねぇな。全部コイツらの手のひらの上かよ。


「それが……“計画”に繋がるのか?」


 恐らく、核心。慈善活動と自作自演の境界みたいなことをやってる奴らだが、無駄なことをやっているわけではないはずだ。健全に生きるレニットや俺たちの事件への対応力?動き方?はコイツらにとって都合がいいんだ。そんで、これらはアズサたち魔人一派の至上目的――人類の滅亡に関わる“計画”を進めるために必要。


 これを踏まえた問いに、さっきまでの気安い様子はアズサから感じられなくなる。


「そう、ね。全部が上手くいくとは思ってないけど、少なからずレニットの存在は私たちにとって不可欠よ」


 よく分からないな。不可欠だっていうなら、このゴタゴタでさっさとレニットを拉致るのが楽なんじゃないのか? バカ共に私物化させたくないのは分かるが、『天寿を全う』って……”利用する”とかいう言葉と繋がらない。一体――


「あっ、やっと来た」


 アズサの視線が部屋の扉に移る。


 その直後、俺が開けた扉の、もう一方の戸が開かれて現れたのは――


「おいおい……冗談だろ」


 アズサと同じ黒装束(スーツ)に、黒い外套(コート)を羽織った女性――魔術長だった。


 髪も目も紺色から黒になっている。魔人はそういう変装も出来るのか? 硬派に見えながらも人当たりが良かった眼差しは僅かに(まぶた)が下がり、取っつきにくい印象を与えてくる。


「副業にしては立派な役職に就いてるじゃねぇかよ……」


 頭を抱えたくなる事実に吐き捨てるが、魔術長……いや、魔人の表情が揺らぐことはない。俺がここにいることも不思議に思っていない様子だ。


「スミン、終わったの?」


「うん。悪かったね。こんなのを押し付けてしまって。おかげでやり残したことはないよ。ありがとう」


 アズサにスミンと呼ばれた魔人は、クズの方へ視線を向ける。


 スミンに気付いたクズは驚愕で顎が外れそうなほど大口を開けている。


 スミンは無表情から、クズを見下す呆れ顔になったが、すぐさま視線を俺に移す。さっきまでよりは少し目を開き、関心を持った表情だ。


「なかなか重傷だね。さすがにあの三人を相手にするのは厳しかったかな」


 礼儀正しい受付職員はどこへやら。これがコイツの素か。


「ステア一人でやったわけじゃないみたい。商人長が加勢したみたいだけど、その人がレニットの実の父親とか言ってて」


「彼が、レニットの……? 玄関広間の床に穴が空いてたから、少し見てきたよ。レニットは起きたみたいだから、ひとまずこっちの目標は達成した。ただ……これは予想外だったね。まさか、こんな展開になるなんて。おかげで、こっちの目論見以上の成果になりそう」


 スミンの口元が緩む。どうやらご機嫌みたいだ。


 レニットが起きたなら、グレネーもどうにかなったんだろう。こっちにとっても好ましいが、次にコイツらがどう動くか……


 つーか、よくよく考えたらヤバいか?


 この魔人、十年もフィーネの受付係をして、身術の更新にも手を加えてたよな? フィーネが新たに体得した魔術がおかしな挙動をしてるかもしれない。それでフィーネが遅れてるなら説明がつく。

それに、どういうつもりか分からないが、特殊な魔力を持つ俺に身の安全を忠告してきた。フィーネの欠陥をハッキリ理解してる。


 フィーネが他の問題に対処して遅れていたとしても、それを片付けた後にここにやってきてもマズい。この状況で魔人二人を相手にするのは無茶だ。どうにかしないと――


「戦意が衰えるどころか、ますます強くなる、ね。やっぱり、リオが目を付けるだけはあるってことね」


 スミンが呟くと、俺に一歩近づく。


「なぁ……男の職員はどうした? あんたを頼るために連れてくるよう頼んじまったんだけどよ……」


「職員? あぁ……彼ね。家にまで来るなんて驚いたけど、適当に言って外を捜索するよう指示したよ。君とアズサが庁舎にいることが分かったから、私は残った仕事に集中できたの」


 あの職員は……とりあえず無事か? 結局コイツらのやることを俺が肩代わりしてたのがムカつくが。


 どうする? 歪んだ剣を構えるが、この程度でどうしろって――


「ハァ……やる気ね。一か八かの気がしないでもないけど……」


 スミンは溜息をつき、頭を掻く。


 何を――


「伏魔殿」


 !!?


 スミンがその言葉を唱えた瞬間……


『世界』が、黒く染め上がった。

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