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夢見の魔導士  作者: べっちゃ
第四章 思い描く世界
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第二十五話 啼き声

親子の邂逅より、少し遡って――

<ステア視点>


 だぁ~……

 クッソ……

 痛ぇ……

 ダルい……


 行動不能にならない程度のケガだと、これまでで一番重傷かもしれない。


 もうちょい鮮やかな手際ってモノが出来ないかなぁ……

 確実に決めるためとはいえ、自殺行為を断行するぐらいしか思いつかなかった。


 まぁ、その甲斐あってバンタとスレイを殺せた。乱入してきたデウスのおかげだけどな。おとーちゃん半端ないって。

 あとはグレネーだけど……大丈夫かな? なんか、今になって不安になってきた。だからといって今の俺がどうこう出来るわけじゃないんだろうけど。


 とにかく優先すべきは、レニット誘拐の共犯者というピグトル・ブラフマンの追跡、ないしは捕縛だ。


 今は首長室に向かってる最中で、二階に上がる階段の(もと)にいる。


 まだ事態が収束しない中、今の負傷を放置するのは危うい。出し惜しみせずに、治癒効果の魔装具を使ってしまおう。

 周囲の安全を確認してから階段の脇にしゃがみ、魔術長からもらった魔装具を衣嚢(ポケット)から取り出す。あの激闘の後でも手の平大の白い円柱は健在だ。

 頭頂の窪みから小さな取っ手を押し上げ、時計回りに捻る。それから取っ手を引くと一回り小さい円柱が内部から伸び、伸び切ったところで反時計回りに捻って固定する。これで発動するみたいだけど……


 少しすると、全身の痛みが和らぎ、頭からの出血もなくなった。バンタに潰された左腕の感覚も戻って来ている。鈍く痛むが、剣に添える程度には左腕が回復した。魔術長さまさまだな。


 マシに動けるようになったし、行動を再開するか。


 一応、隠密するために足音を抑えて、布ズレを無くすために防寒着を捨てる。高地ゆえの寒さがケガに沁みてる感じでキツい。呼吸も整えて体から発する音を最小限にしてるけど、頭に着いた血の臭いでバレたらもうお手上げ。


 そんなわけで、いるかも分からない敵を警戒しながら進んでいるわけだけど、特に異常はない。元々職員たちは出払っていたわけだし、そんなもんか。


「っ……」


 というのも束の間。首長室がある四階への階段を上がろうとしたところで、異臭がした。血と、焦げた臭い。鼻を摘まみたくなる刺激臭だ。


 恐る恐る階段を上がり、廊下を見てみると、人間が倒れてる。

 周囲を警戒しながら近寄ると――


「おっ()んでら……」


 廊下に倒れている人間は、五人。男二人に女二人。残りの一人だけど、焼け焦げて性別すら分からない。各々、火傷やら武器による外傷が死因のように見える。ただ……体の向きから、各人が持っていたであろう得物で殺し合っているようだ。


 コイツらは仲間じゃない? 流れ的に、首長には俺みたいなのを口封じするための私兵がいるとか思ってた。片方が私兵で、もう片方が俺のような捜索側で争ってた感じなんだろうか。


 よく分かんないけど、死んじゃってるならしょうがない。ひとまず放置。


 そんで、首長室まで何事もなく辿り着いた。

 廊下があれだけの惨状だったってのに、首長室の扉は静かに閉められている。


 不穏……ろくでもなさそうな雰囲気がピンピンする。


 もう、諦めよう。腹ァ括って歯ァ食いしばれ。


 それじゃあ……突入!!


 片側の戸を開き、部屋の脇に滑り込んで歪んだ剣を構える。


 ピグトルは――


「あぁぁ!! ステア君! よく来てくれた! 助けてくれ!!」


「あ……?」


 部屋には、事務机の後ろで椅子と一緒に鎖が巻かれているピグトルがいて、俺に助けを求めてきた。


 そして、その横には――


「あっ、来たのね」


 黒装束(スーツ)に身を包んだ栗色の短髪の女――魔人アズサが立っていた。


「おい……どういう状況だよ……」


「どういうって、こういう……見たまんまだけど?」


「急にこの女が部屋に入ってきて縛られたのだ! どうにかしてくれ!」


 白けた表情のアズサに対し、ピグトルは唾を飛ばしながら声高に叫んでいる。


 魔人(アズサ)がピグトルを拘束している? 一体――


「ど、どうした! なぜ動かない! (わたくし)を助けて――」


「チッ……おい、ブタ野郎。テメェの目は節穴か?」


「は……?」


 俺が言っている意味が全く分からないといった顔で、ピグトルが静止する。


「俺はなぁ……今、頭が血塗れなんだわ。分かりづらいかもしれねぇけど、左腕は大して動かないぐらいのケガしてんの。なんでか分かるか?」


「なぜって……」


 ピグトルの表情は変わらない。


 コイツ……マジでよぉ……


「スレイとバンタは殺したぞ」


「な、なんだと!!?」


 ピグトルが驚愕に目を剥く。


「アイツら、テメェが共犯者だってさっさと吐いてくれたよ。レニットをいいように使おうとしてたってな」


 ピグトルが狼狽(ろうばい)する。


「そ、それは勘違いだ! そうだ! アイツらが言い逃れをしていたんだ! よ、よくやってくれた! あとはこの女を……いや、そうか! アイツらだけでレニットを(さら)えるわけがない! この女が(そその)したのか……とにかく、コイツが主犯に違いない! そうと分かれば――」


「おい……一旦黙れよ」


 低く吐き捨てると、ピグトルは口をパクパクと動かすばかり。


 アズサに視線を向けると、呆れたように肩をすくめている。

 なら、それが答えだ。


「なんだ……お前たちは……? そ、そうか! お前たち、裏で繋がっていたのか! お前たちもレニットを独占しようとしていたのだな!!」


 俺とアズサのやり取り(アイコンタクト)を見たピグトルは、勘違いのままに声を上げる。


 魔人と仲間だなんて当然思っていないが、ある意味では信用できる奴らではある。

 まあ、俺が魔人共と仲間だろうと、そうでなかろうと――


「どっちみち、俺がテメェに死んで欲しいのは変わらねぇよ」


 俺の宣言に、ピグトルは心底怯えた顔になる。


 意外にも、アズサがポカンと口を開けている。


「いやだ……いやだいやだ!! 死にたくない!! 助けてくれ! どうすればいい!?」


 ピグトルは狂ってしまったのか、縛られながらも暴れて鎖を鳴らし、みっともなく喚き散らしている。


 対するアズサは耳を塞いでいる。殺すわけじゃないのか?


 ここには魔人(アズサ)がいる。フィーネと合流したい。時間稼ぎがまた必要だが、アズサは悠長にしている。とりあえず、ピグトルがレニットをどうするつもりだったのかは聞くか。


「おい、ブタ野郎。ガキ使って何するつもりだったんだ?」


「あっ……」


 ピグトルは俺に視線を止める。


「野郎二人は、ただおもちゃにしたかっただけみたいだけどな」


 カスの例を挙げてやると、クズは口汚く吠え始めた。


「それは……当然だろう! (わたくし)がこの地位に至るまでどれだけ苦労したと思ってる! 才覚と運をもって、私を見下してきた奴らよりも上り詰めたのだ! そして今! あれだけの力を持った子供が目の前に現れた! 手中に収めずにいられるか! 世には受け入れられない私の嗜好も、レニットを従えれば誰の口答えも許さず、あの子自身が逆らわずに受け入れるのだ! これまで腹の立つ我儘を聞いてやったのだから、認められて然るべきだろう!」


 さっきまでの態度から一変、クズは開き直る。


 どいつもこいつも……


「ガキに盛るってのは……まあ、否定はしねぇよ。生まれ持った(さが)だっつーなら……仕方ねぇ。貴族だと結婚やらで、そういうのも珍しくはないみたいだからな……ただ――」


 本当に……マジで……


「やってることが気持ち悪ぃんだよ!! いい歳こいた奴らがガキ一人囲い込んで何やってんだ!? 後ろ指差されることをやってる自覚があるぐらいなら、周りに認められるような努力をしろや!! その程度の努力もしないで俺を不愉快にさせるなんてテメェは何様のつもりだよ!! まともな手順も踏まずに俺をイラつかせた時点で、テメェらは俺にとって何の価値もないゴミと変わらねぇんだ!!」


 クズに剣を向け、思ったことを一つ残らずぶちまける。


 対するクズの顔は引きつり、鎖に縛られながらも身を乗り出す。


「ふ、ふざけるなぁ! (わたくし)に受けた恩を忘れたのか! キサマらがここに来てから面倒を見てやっただろ! その恩人に価値がないだと!? 恩知らずの恥知らずがデカい口を叩くな!!」


「恩……? 恩だと? あの程度でか!? 結局火薬なんざ使い物にならなかった! 俺をレニットと引き合わせたのだってテメェの詰めが甘かっただけだろ! こんな騒ぎになって俺たちが動かないとでも思ったか!? どれだけテメェが俺たちに尽くそうと、こんなナメたマネをするような奴をタダで済ますわけねぇだろ! 厚かましいんだよ!」


 何を言われようと、俺の意志は変わらない。もう決めたことだ。


 どれだけのバカだろうと伝わったようで、クズは涙に、鼻水に顔を汚し始めた。


「あ、あっ……わ、わるかった……(わたくし)が、私が悪かった! 謝る! だから、どうか……どうか助けてくれ! 助けてくれたら何でもする! 何が欲しい!? 金か? 地位か? 名誉か!? 何でも差し出す! だから!!」


 チッ……コイツ、ホントに……!


「自分が欲しいものどころか、今の手持ちすら何もかも零れ落としてるような奴が、俺に何を差し出せるって?」


「プッ……!」


 アズサが吹き出して、口を手で押さえている。

 コイツ……面白がりやがって。


 クズは、ようやく命乞いに意味がないと分かったのか、項垂(うなだ)れている。


「いやぁ~……すごいのを見ちゃった。あんた、キレが鋭すぎるわね」


 アズサは頬を緩めると、どこからか浮いてきた紫の六角柱の物体に手を(かざ)す。


 何かの予備動作かと思ったが、特に何ともない。いや、クズが発狂し始めたように見えるが、騒がしいであろう声が全く聞こえない。


「魔術……結界? それ、魔導器か?」


「おお~! 分かってるじゃない。ちゃんと授業で習ったことを忘れないでいるようで何よりね。あんたの言う通り、これは魔導器よ。遮音機能の結界魔術を刻んでるの。出入りは自由だから、秘密の会談なんかにピッタリね」


 アズサは手を叩いて俺を褒めながら、手の内をあっさり解説してくれる。


「それで……外の奴らは、お前の仕業か?」


 廊下に転がってる死体について聞くと、アズサは溜息をつく。


「その通りよ。このブタさん、念には念を入れて、自分の周りを私兵で固めてたみたい。緊急時にしか使わないような地下通路まで通して引き入れてたのよ。ま、結果的に私が片してよかったんじゃない? あんた、見る限り酷いケガだもの。そんな状態で出くわしてたらタダじゃ済まなかったでしょ」


「……意外だな。人殺しはあまりやりたがらないと勝手に思ってた」


「そりゃ、進んでやろうとは思わないけど。これまで殺したのなんて一人や二人じゃないんだし、ましてやこんなクズだったら、なおさらね。おかげであんたはここまで来れたんだから、私に感謝したっていいのよ?」


 恩着せがましくアズサは笑う。


 確かにその通りではあるが……一つの疑問が出てくる。


「お前……俺だかフィーネだかに三バカの処理を放り投げたんだろ?」


 俺の指摘に、アズサは苦い顔で答える。


「うわぁ……そこまで分かっちゃうんだ。まぁ、その通りなんだけどね。実はあんたより少し早く庁舎には着いてさ。コイツらの目的は分かってたから、どっちを先に仕留めようかなって思ってたらステアが来たのよ。そしたら、あんたは地下に行ったじゃない? じゃあ私は上でいっか、って」


 鉢合わせした可能性があったのか。にしたって――


「テメェ……あわよくば俺が殺されるのがお望みか」


「いやいや、それは誤解だって。あんたなら上手くやると思ってたし、フィーネさんもいるでしょ? リオ相手に死なないんだから、ここで死ぬなんて思ってないって。そういえば、やけに騒がしくしてたわね。爆弾でも使ってたの?」


 騒がしい? それなら――


「デールとかいう商人長が実はレニットの実父で一階の床をぶっ壊して乱入してきただけだが?」


「ん……? ごめんごめん。ちょっと待って……情報過多すぎない?」


 アズサは困惑した様子で額に手を当てている。


 デウスの素性はコイツも把握してなかったのか?


「ま、まあいいわ。それで……男二人は殺したんだっけ。残りは女一人よね。レニットの……お父さんが?」


「ああ」


 アズサは悩まし気に手を顎に当てる。


「ちょっと不安だけど……床を崩すくらいの力があるんだったら……たぶん上手くやってくれるでしょ」


 楽観的な気がしないでもないが、アズサは自分からここを離れるつもりはないようだ。それは俺も同じ。形だけでもアズサを見張ってないといけない。デウスを信じるしかない。


 つーか、北部に行ったフィーネが遅い。文字通り目にも留まらぬ速さで動いてたってのに、今になっても来ないってなんだ? まさか、飛竜討伐に夢中になったわけじゃないよな?


 ま~だ時間稼ぎが必要かよ。だったら――


「で、いい加減教えてくれよ。ひと段落着いたんだからいいだろ? お前らが言う“問題”……それと、目的を」


 俺の質問に、アズサは小さく微笑む。


「それもそうね。私も待たされてるから暇だったのよ。あんただったら丁度いい話し相手になりそうだし、どうせフィーネさんが来るまでの時間稼ぎのつもりなんでしょ? ちょっと怖いけど、乗っかってあげる」


「随分悠長だな」


「いやー、もう……それな? 相方が残りの仕事を全部片づけるって言ってさ……そうじゃなかったら、こんな奴と同じ空間に好き好んでいないわよ」


 体を揺らしながら待ち(ぼう)けの愚痴を吐いている。メチャクチャ気安い感じだ。


 とりあえず、相方がいるってのは分かった。コイツも含めて、魔人は二人か? これ以上増えないでほしいけど……


「さてと。それじゃあ、ヒカネの時と一緒。せっかくだし、ステアの推理を聞かせてもらおうかしら」


 アズサは手を合わせ、俺の言葉を楽しみに待っている様子だ。


 ヒカネの時とは違う。あっち側が圧倒的に有利な状況。まあ、しゃーない。


 流れに身を任せることにしよう。

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