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夢見の魔導士  作者: べっちゃ
第二章 燻る青春
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第九話 学食

 質問攻めをしてきた生徒たちに昼食を勧めると、俺を引きずって学食まで連れてきた。


 学食には授業を終えた学生や教員たちが多くいる。彼女たちは俺を見ると、少し騒がしくなった。事務員以外の男が魔術学校にいるのは珍しいだろうし、昨日の俺とフィーネの図書室のやり取りを見れば、すでに噂されていることは自然だろう。

 四人の生徒たちは周囲の視線を気にすることなく、学食のお品書きを眺めている。


 すると、アクア(青っ娘)が音頭を取って各々の希望を言い始めた。


「皆! 今日の気分は?」


小麦餅(パン)と葉物系」

「目玉焼きと漬物!」

「豚丼とミカン~」

「生姜焼きで」


 お品書きを見てみると、全て定食系のものとなっている。彼女らそれぞれの希望に完全に合致するものはないように見える。しかし、四種類の定食を頼んで希望の品を交換するという荒業でこれを乗り切った。

 当然、余りものが出る。


「ステアさん、食べてもらえますか……?」


 ソーラ(茶っ娘)が全部俺に押し付けてきた。余りだけでも結構な分量になったので、昼食はこれで済ませられそうだ。


 彼女らと対面する形で席に着いたところで、質疑応答が始まった。


「どうやったら【戦姫】様の魔衛士になれるの?」


 相変わらず眠そうなエリー(緑っ娘)が聞いてきた。飯を食ったら居眠りしそうだ。


「どうって……まあ、秘密かな。特等魔術士様は隠し事が多いんだよ」


 俺を魔衛士にした理由がフィーネと俺の特異な体質である以上、弱点になり得る情報を漏らすわけにはいかない。しかし、こういう話はお子様たちにはまだ早いらしく、ライザ(赤っ娘)の邪推を助長させるだけだった。


「じゃあ、やっぱりそういう……!」


「おい! この花畑娘誰か止めろ!」


 マジで洒落にならないからやめて欲しい。色恋沙汰なんて人間関係が崩壊する一番の要因だからな。

 しかし、今度はソーラがフレアと繋げて話し始めた。


「じゃあ、先生の方ですか~? 今日の先生ってすっごいご機嫌じゃなかった~?」


「確かに、普段の先生よりも声が出てたし、『基礎点を下げる』なんてボケは言ったことがなかったですしね……ボケ、ですよね……?」


 アクアはフレアの脅しに青くなりながら、三人に目配せしている。他の子たちもフレアの普段と違う様子に頷いている。

 そう言われても、こちらは事実を話すしかない。


「そういうんじゃないし、話した時間なんて今日含めて二日もないよ」


「「「「え~~?」」」」


 俺の発言に彼女らは懐疑的な目を向けてくる。

 すると、俺への詮索を諦めたのか、彼女たちの間で井戸端会議が始まった。


「じゃあやっぱり、先生の方に聞くしかないんじゃない?」

「それじゃあ、減点されますよ!」

「もしかしたら先生が一目惚れしたんだけど、ステアさんが意外とキツくて蛙化しちゃったんじゃな~い?」

「一目惚れ? この人に……?」


「失礼じゃない?」


 口々に彼女らの間で話がまとまっていってしまった。いまの所はライザが結構失礼しちゃってる印象だ。

 俺の方もフレアについて聞きたいことがあったため、彼女らに聞いてみる。


「俺は先生について聞きたいんだけど。どんな先生?」


「やっぱり……!」


「しつこい」


 ライザの暴走が止まらないので、強い言葉が出てきてしまった。ライザは隣に座っているソーラに首を振られて制止され、ようやく大人しくなった。

 俺の質問にはアクアが答えた。


「すごい先生ですよ。魔術学校を卒業してすぐに校長先生――【才焔(さいえん)】様の魔衛士になるなんて普通じゃありません。授業の進め方も丁寧ですし、何より親身に私たちに寄り添ってくれてます。それに加えて、校長先生の下でご自身の修練にも励んでおられます。生徒である贔屓目(ひいきめ)を差し引いても、フレア先生は国内で最も一等魔術士に近しい実力を持った二等魔術士だと思います」


 アクアの言葉からはフレアへの強い信頼や尊敬が感じられる。それを裏付けるかのように、エリーが横から加わってきた。


「さすが、フレア先生の授業を受けるために飛び級してきた秀才は言うことが違うね」


「ちょっ! エリー!」


 アクアが顔を赤くしてニヤついたエリーにしがみつく。


 フレアからすでに聞いていたが、どうやらアクアは本来一学年下の生徒で、一回生を修了した後に三回生に進級したらしい。その理由がフレアとまでは知らなかったけど。


 訓練学校でも飛び級はあり、前後四学年のうちに一人はいる程度の割合だ。飛びぬけて強いとは限らず、現場にいち早く投入できる素質が求められ、周囲より器用だとか賢いやらで飛び級はできる。たぶん魔術学校でも飛び級は同じだろうし、アクアは優秀な学生なんだろうな。


 恥ずかしそうにしているアクアを擁護するかのように、ライザが解説を始めた。


「元々ウチらは試験的な学年なんス。訓練学校がどうなのかは分からないっスけど、魔術学校じゃ担任の先生はいないっス。魔術士は元々少なくて教えるほどの人員はいないっスから、現場の魔術士が代わる代わる座学を教えてくれてるっス。でも、討伐任務が優先されて自習になることも多くて、授業の予定を立てるのが難しいって校長先生は言ってたっス。この状態を改善するために、魔術学校の優秀な卒業生を対象に、正式な教員になることを条件として校長先生は魔衛士を募集したっス。結果的に、来たのはフレア先生ただ一人。まあ、優秀なのに現場に出ないで後輩の面倒を見るなんて、ウチでもやりたくはないっスね」


 フィーネがそうだったように、ロゼっちも条件を付けてたから他の魔衛士がいなかったのか。

 それにしても、俺的にはフレアと”優秀”という言葉が結びつかない。良い先生というのはさっきの授業や生徒たちの反応から分かるんだが、魔術士としては要領が悪いという印象が強い。

 ()()()()以降、卒業までに成績を巻き返したのだろうか。


 フレアの成長を感慨深く思っていると、今度はソーラが話を続ける。


「それで~、先生が魔衛士に就任されたときに入学してきた私たち三人がフレア先生にとっての生徒第一号になったんですよ~。最初はオドオドしてたし、私たちも戸惑ったけど、一年もすれば良い先生になってくれちゃったんですよ~。元々歳が近いから、私たちの悩みを身近なものとして理解してくれたし、保守的にならずに色々なことを試してくれるから、私たちが伸び伸びやれるんです。そんな様子を見聞きしていた真面目なアクアちゃんが必死に勉強して飛び級してきたんですよ~。今じゃすっかり私たちを引っ張ってくれるようになっちゃってますよ。ね~~」


「もう! ソーラ! やめてください!」


 ソーラの言葉にアクアが肩を掴んで訴えている。対するソーラはニコニコと受け入れている。その様子を他の二人も笑って見ており、アクアが可愛がられているのが分かる。


 これで三人がアクアの陰口を言っていたとしたら泣きそうになるな……


「お前たちの仲の良さはよく分かったよ。ちなみに進路は決めてるの?」


 思い返せば距離を詰め過ぎな俺の質問に対して、彼女らは嫌悪感を示すことなく答えてくれた。


「あたしは魔術士組合の研究員かなぁ」

「私は先生のように慕われる教師になりたいです!」

「私は冒険者組合に所属して魔獣討伐しま~す」

「ウチは王国騎士団に入団して王族の近衛になりたいっス!」


 意外とはっきりとした進路を夢見ているようだ。

 学生時代の俺は将来について何も考えていなかったから少し憧れる。


 すると、アクアが俺についても質問してきた。


「そういえば、そう言うステアさんはフィーネ様の魔衛士になって何をなさるんですか?」


「ん? 魔大陸の踏破だけど」


 これぐらいならこの子たちに言っても大丈夫かと思って答えてみたが、彼女らは手を止めてこちらを凝視してきた。さすがにシラけさせてしまったか?


 しばらくすると、皆の体が震え出して、しまいにはこちらに身を乗り出してきた。


「できるの!?」

「素晴らしいです!」

「カッコいい~!」

「憧れるっス!」


 どうやら、前人未到の領域への挑戦には彼女らも憧れているようだ。

 生徒たちのなかで、『よく分からん男』から『すごいことをやろうとしてる魔衛士』程度には見直してもらった感じがする。


 そんな熱狂も束の間。鐘の音が響き渡った。


「あ、予鈴」

「マズイ! 皆急いでください!」

「ステアさん、ミカン半分あげま~す!」

「こっちも生姜焼き一枚お願いするっス!」


「ちょ待てよ! お腹いっぱい!」


 全員で残りのご飯をかきこんで昼食を終わらせた。

 教室に大急ぎで駆け込み、再度鐘が鳴ると同時に入室に成功。


「「「「「あぶな~~い!」」」」」


 五人全員で息を切らしながら床に倒れ込み、謎の一体感が生まれた。


「随分仲良くなってるじゃん」


 そんな俺たちに、既に教室にいたフレアが微笑みながら声をかける。


「は~い! それじゃあ着席して、午後の授業を始めるよ!」


 フレアは手を叩きながら着席を促してきた。

 後ろから生徒四人を見ると、全員脇腹を押さえている。


 当然俺も押さえており、後でフレアに注意されるぐらいには笑ってしまった。

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