↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見の魔導士  作者: べっちゃ
第二章 燻る青春
16/115

第二話 校長

 魔人が息を潜める街『ヒカネ』。

 街全体は十一間(約20m)程度の高さの石壁に囲われ、四方の門から街に入る。


 門には守衛がいて、街に入る人々を厳重に検問している。大門を開きっ放しにしている王都に対して神経質な印象を受けるが、魔人がいることを考慮すれば、反社会的な破壊活動を目論む奴らを警戒するのは当然だろう。


 門に近付くと、守衛に声を掛けられ、漏れなく検問を受けることになった。けれど、フィーネの姿を捉えた守衛は焦ったように腰を低くしてお伺いを立てた。


「ほ、本日はどのようなご用件でしょうか……?」


「ヒカネ魔術学校校長のロゼに面会するためよ」


「さ、さようでしたか……! おい! 今すぐ学校に連絡しろ!」


 対応してくれた守衛は後ろにいた同僚であろう人物に指示を出すと、受けた側はすぐさま馬に乗って学校へ向かっていく。


「ちなみにお連れ様は……?」


「魔衛士よ。徽章(きしょう)を提示した方がいい?」


「い、いえいえ! そういうことでしたらお通りください。学校の事務方に向かえば対応していただけると思います」


 定番の質問をされたわけだが、フィーネが隣にいるなら徽章の提示をする必要はなさそうだ。


 大した検査もされることなく街に入り、フィーネと横並びで門から伸びる大通りの一本道を通る。視界の先には周囲の家屋よりも一際大きい建物があり、フィーネが言うにはアレがヒカネの魔術学校だという。全体的に区画が整理された街並みになっており、左右を見た感じだと北東が住宅街、南東が組合に関わる区画となっているようだ。


 そして視界の端に、異様な存在感を放つ物体が入り込んでいる。ここからだと立ち並ぶ住居から生えているように見える、学校よりも巨大な黒ずんだ建造物だ。五百年以上前からある遺物のためか、遠くからでも所々が朽ち、外壁が欠け落ちていることが確認できる。


 アレが、魔人が封じられていると言われる砦なのだろう。


 通りを進んでいると、魔術学校のものと思われる制服を着た少女たちが歩いており、フィーネの姿を見ると黄色い声を上げ、彼女に憧れの目を向けてきた。


「さすがに魔術士見習いとなると、フィーネに向ける視線もちょっと違うな」


「まあ、世に出ている成果だけで私を評価するなら、憧れてしまうのも仕方ないでしょうね」


 俺の感想に、フィーネは眉を僅かに歪ませながら答えた。

 ちょっと棘のある言い方だな。


 フィーネも人だし、理解なく称賛されることへの不快感は人並みに持ち合わせているようだ。


 そうこうしている内に、街の中心に位置するヒカネ魔術学校の校門に到着。フィーネと旧知という【才焔】に会うために職員室だか事務所だかを探そうと正面玄関に向かっていると、そこから息を切らしながら女性が走り込んできて、俺たちの前に滑り込んだ。


「お待ちしておりました、フィーネ様! ご案内致します!」


 どうやら事務方のようだが、急に現れたフィーネを待ってる訳がないだろうし、必死に対応しようという気概が伝わってくる。


「フィーネ、突然の訪問は控えよう。相手する人たちが可哀想だ」


「ハイ、気を付けます……」


 本人は背中を丸めて反省した素振りを見せるが、あまり期待はしないでおこう。

 こういう根回しも魔衛士に求められる役割なのか?



 ~~~



 校内を案内された今、俺たちは学校の最上階、三階の校長室の腰掛け(ソファ)に座っている。部屋の主であろう人物はおらず、所在は案内してくれた事務員さんが教えてくれた。


「現在、校長は砦の結界を確認している最中です。時間的にもそろそろ戻ってくると思われるので、今しばらくお待ちください」


 事務員はそう言うと、会釈して部屋を後にした。


 部屋を見渡すと、王都冒険者組合の組長室とあまり変わらない。違う部分を言えば、窓が全面ガラス張りではない普通の内装で、適度な大きさの窓から厳(いか)つい砦が見えるという珍しさがあるぐらいか。


 屋内を見渡していた俺に対し、フィーネは事務員が離れてから部屋の本棚に向かい、適当に本を見繕っては立ち読みを始めた。


 コイツ、マジか……いくら馴染みの相手だからって仕事部屋を物色するか?

 傍若無人な振る舞いのフィーネを横目に、俺は事務員がご親切に置いて行ってくれたお茶とお菓子を大人しく口に運び込んでいる。あっ、この焼き菓子(クッキー)、香ばしく甘すぎない。


「おーい、お茶も冷めるし、このお菓子美味しいから食べてみなよ」


「んー」


 フィーネは生返事で対面の席に着き、開いた本を机に置く。


 皿に手を伸ばして焼き菓子を取り、口に運ぶと「あっ」と息を漏らし、気に入ったのか残り全部を即座に平らげた。

 初めてお菓子食べたみたいな反応だな。いや、初めてじゃない、よな……?


 開いている本には所々図形が描かれており、魔術に関わるものだと思われる。そういう学校だし、当然か。

 お茶が俺にとって適温だと感じたところで、本の近くに彼女の分の湯呑を置くと、フィーネは一息に飲み干した。


 そうしてフィーネが本をめくる音のみが部屋に響いてしばらくすると、扉の外からドタドタと誰かが走っている音が聞こえてきた。一瞬音が止んだが、すぐに風が感じられるほどの勢いで扉が開かれた。


 呆気に取られていると、扉を開けた“赤”の人物はフィーネの姿を捉えると――


「ふぃ、い、ね、ちゃ~~~ん!!」


 奇声と呼べる叫び声を上げながらフィーネに飛び掛かった!


「はぁ~ん! 久しぶりじゃない、フィーネちゃん! 連絡もなしに会いに来ちゃうなんて、アタシのことを驚かそうと思っちゃったの、カナ!? も~、そんなことしなくてもアタシの心をいつだって痺れさせてくれるんだから! でも、今日みたいなお茶目をしてくれるフィーネちゃんも大好きよ! ん~まっ! ん~まっ! ちゅっちゅっ!」


 赤毛の美形の女性が、メチャクチャな勢いでフィーネにじゃれついている。


 頬ずりされまくっているフィーネは抵抗するわけでもなく、女性の全体重を受け入れている。その目線は本から俺に移っていた。悟りを開いているかのような目付きだ。


「なぁ、もしかしてこの人が……」


「そー……【才焔(さいえん)】ロゼ・クリスタ。私の半世紀来の親友よ」


 なんか、思ってたんと違う。


 件(くだん)の女性、【才焔】はフィーネをあらかた堪能すると、俺の存在に初めて気づいたようだ。

 俺とフィーネを交互に見ると、だらしなく緩んでいた表情がみるみるうちに険しいものに豹変していった。


 口をわなわなと震わせ、最終的には俺を鋭く指差し――


「誰よッ!! この男ッ!!!?」



 ~~~



【才焔】はしばらく狂乱していたが、見かねたフィーネが頭頂部に拳骨を落とすと、大人しくなった。


 フィーネと同年代ということは、六十歳超えで寿命に近いということだが、その外見は非常に若々しい。この人も不老の魔術が扱えるのか? 目尻や口元に若干の皺はあるが、肌には高齢を全く感じさせないハリがある。高めに見積もっても三十代後半ぐらいの相貌だ。紅の髪と目は、見(・)た(・)目(・)だ(・)け(・)な(・)ら(・)艶やかな美貌を見る者の脳裏に存分に焼き付ける。

 フィーネ・セロマキアは清楚お姉さん系と表現するなら、ロゼ・クリスタは妖艶美熟女系だ。校長としての制服なのか、絵本に出てくる魔女のような恰好から美魔女という表現が正しそうだ。たぶん刺さる奴にはクソ刺さる。フィーネにじゃれている姿を見ると、母親が娘にダル絡みしているようにも見える。


 フィーネにどつかれ、悶絶していた【才焔】だが、落ち着くと頭を押さえながら口を開いた。


「イッデデ……手を出す時はホント容赦ないわね……ていうか! ホントにこのガキ誰!? もしかして年下趣味になっちゃったの? アタシというオンナがいながら!?」


【才焔】は俺を指差してフィーネに問い詰めるが、彼女は呆れた顔で答える。


「何もかも違うわよ……彼の名前はステア・ドーマ。縁あって私の魔衛士になってもらったの」


【才焔】は口を開けて絶句すると、これまでの騒ぎようが嘘かのように冷静に話し始めた。


「魔衛士に? アンタ、本気? ちゃんと彼に話したんでしょうね?」


「大丈夫だって。彼の魔力が掘り出し物だったのよ。私のことも、彼が痛い目に遭うことも、了承の上で魔衛士になってもらったわ」


「あー、そう。じゃあ、まあ、いっかぁ……ええ˝ええ˝ええ˝え~~……ほんとに年下趣味じゃなくて~?」


「しつこい」


 これが普段のやり取りなのだろうか。フィーネが一気に幼くなったように見えた。【才焔】といる時が彼女の本当の素の姿のようだ。


【才焔】はうだうだと唸りながら事務机に着き、切り替えて机の上に組んだ手に顎を乗せて俺に自己紹介をしてくれた。


「それじゃ、改めまして。アタシはヒカネ魔術学校校長、ロゼ・クリスタ。呼び方はロゼっちでいいわ。一等魔術士で、世界で指折りの炎系統魔術士よ。巷(ちまた)じゃ【才焔】なんて呼ばれてる。それで? 今日はどんな用でアタシのところに来たの? 蛇竜が討伐されたという話は聞いているから、ステアと無関係な話ではないんでしょう?」


『ロゼっち』が気になるが、こちらに尋ねる様子は強者としての風格が備わっており、威厳に満ちている。


 俺はフィーネの補足も交えながら、ロゼっちにこれまでの経緯を話し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。