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夢見の魔導士  作者: べっちゃ
第二章 燻る青春
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第一話 曰く付

<ステア視点>


 王都から離れ、今はフィーネと共に西行きの馬車に乗っている。普段は多くの乗客を乗せて運行しているが、フィーネに萎縮したのか純粋な善意なのか、皆降りてしまったため、俺とフィーネの二人しか客として乗っていない。

 さすがに御者の人には申し訳なかったので、通常の運賃に加えて家の整理で残ったお金を渡した。これで本来乗るはずだった人数分の稼ぎにはなったと思う。


 俺にこんな気遣いをさせた当の本人は俺の方を向いてボーっとしていたので、善意で水を飲むよう勧めたわけだが、ムッとした顔で手に持った水筒をぶんどられた。


 肌について言及したのがいけなかったか? 歳のこと気にしてるなら諦めてくれねえかなー。それよりも建設的な努力しようぜ! 


 バカな考えもここまでにして、彼女の旅の目的を終点から辿ると――


一.魔力がない私って何? 絶対解明してみせる! 

二.そのために未だ謎な魔大陸に行けば、何か分かるかも! 

三.三十年前に魔大陸に行ったはいいけど、魔境過ぎたので強い仲間が欲しい! 

四.有名な【仙斧(せんぷ)】に協力してもらうために、西極圏(せいきょくけん)に向かいたい! (あわよくば、男なのに『五躙獣(ごりんじゅう)』と渡り合う秘密も知りたい!)


 大雑把な目標はこんな感じ。まずは西極圏なわけだが、ほぼ大陸を横断するような旅程のため、詳しく知る必要があり、フィーネに旅の経路について尋ねる。


 彼女は自前のカバンから世界地図を取り出して説明を始めた。


「今、私たちがいるのは『ユーリカ大陸』南東部の『ウィレイブ王国』。王都から西部に向かい、最初の中継点は森林を越えた街『ヒカネ』。その先は南北二つの大山に挟まれた世界最大の湖『ミディウス湖』を渡って『ルノワール帝国』へ。入国してすぐにある最大の魔術都市『メンデール』を経由した後は北西に向かう。途中に砂漠地帯があるけど、突き抜けるかどうかは後で考えるわ。その後は大陸西端にある港湾都市『ノクス』から船で西極圏に向かうって流れね」


 フィーネは東から西にかけて大きく地図を指でなぞる。


 大枠が分かったら、次は直近についてだ。


「次の目的地の……ヒカネで何すんの?」


「ヒカネはステアの剣を用意するためね。魔石を精錬するわけだけど、そのための炎は魔力によるものである必要があるのよ。せっかく作るなら、とことん専門的な人に頼みたいじゃない? だから世界で最も優れた炎系統魔術士にお願いするわ。その人はヒカネにある魔術学校の校長をしていてね。聞く限りじゃ仕事が忙しいわけでもなさそうだし、親友だから気軽に引き受けてくれるはずよ」


 その人物を自慢するようにフィーネは胸を張る。


 ただ、最後のあたりにとてつもない不安を感じる。生活能力が破綻したこれまでのフィーネの印象を考慮すると、その思惑は上手くいくのだろうか。


「その人……大丈夫? 本当に親友? 仕事の話だって、忙しい度合いは人それぞれなんだよ? 優しくしてくれるのと、気を遣われてるのは違うんだから」


「あんたホントに容赦ないわね!? 半世紀以上の付き合いの歴(れっき)とした親友よ!! あんたが心配するような私の性格もしっかり理解してくれているし、術式についても知っているわ! 特異体質(私のこと)が広まっていないのが何よりの証拠よ!」


 俺の指摘にフィーネが目を剝いて声を荒げる。


 『半世紀の付き合い』……フィーネと同類のバケモン婆さんか? 

 確かにフィーネの通り魔的(ギリ合法?)行動の理由を知っていながら、何十年もひた隠しにしてきたということは、口の堅さは折り紙つきか。少なくとも、【組長】ケニドア・マーカスと同様に信頼できる人物なのだろう。


 にしてもコイツ、デカい声でベラベラと……御者に運ばれながら何叫んでるんだ。御者が明らかに気になってる顔でチラチラこっち見てるよ。


 俺が口元に人差し指を当ててフィーネに自重させようとすると、彼女も気付いたのか、口を手で押さえて静かになった。

 これまで一人旅だったからボロを出さなかったっていうのが、彼女の威厳を保たせた唯一の理由なんじゃないだろうか。


 とは言え、こっちは知りたいことが多いんだ。年長者らしく若輩者の質問には答えてもらおう。


「ヒカネってどんな街なの? その親友(仮)から聞いてるんでしょ?」


 フィーネは『親友(仮)』に目を剥いたが、慎重に言葉を選びながら答え始めた。


「聞いてるも何も、元々は私たちの母校がある街よ。親友!とは初等学校からの付き合いだけど、進学と共にヒカネに移って寮生活をしてたわ。懐かしいわね。彼女とは都合的にも街の外で会ってばかりだったから、街に入るのはほぼ半世紀ぶりかしらね」


「へぇ、ある意味里帰りか。世界に誇る魔術士二人を輩出するなんて、凄い学校じゃん」


 フィーネは『親友』を強調して話しており、郷愁が窺える。

 よほど濃い青春の記憶が詰まっていそうだ。


 フィーネが見せる人並みな感性に少し感動していたのも束の間、彼女は俺の言葉を訂正してきた。


「これは自惚れと言われても仕方ないけど、学校が凄いわけじゃなかったと思うわ。昔から私たちは異常だったのよ。彼女は基本的な魔術適性を全て満たしていたし、私はこの通り。才能と執念が上手く噛み合って、お互い今の地位にあると言っても過言じゃない。学校が平凡だから、街の特徴なんて世界で唯一魔人が居ることが判明しているってことぐらいよ」


「へー、そうなん――待て待て待て待て!! 魔人ッ!?」


 聞き捨てならなさすぎる単語が出てきたんだが!? 


 思わず身を乗り出した俺に、フィーネは呆れた目を向けてくる。


「自分に関わりが無いからって、さすがに知らなさすぎじゃない? 建国当時の話ではあるけど、今時は歴史の授業で習わないのかしら……」


「試験に答えられればいいやの精神で暗記してたから、習ってても忘れてるだろうなぁ……」


 王都の冒険者組合に森林を越えた先の任務が回ってくることなんてほとんどないから気にしたこともなかった。新聞で話題になるなら別だろうが、俺の頭はどうでもいいことが抜け落ちるように出来た都合の良いものになっているんだ。


「いい? ウィレイブは建国してから約五百年。帝歴五千年を越えるルノワールに比べれば赤子のような歴史だけど、建国以前は都市程度の共同体が犇(ひし)めいて争いが起こっていたのよ」


 そんな始まりと共に、セロマキア先生の歴史の授業が始まった。


 ヒカネは、都市間の戦争で使用された砦跡から大きくなった街だという。当時の生活水準を想像するのは難しいが、放棄された砦の設備程度で人が集まってしまうくらいには、貧しい環境だったことが窺える。今は街と呼べる規模ではあるが、成立した背景から建国以前は村程度だったらしい。


 その村には因習があった。一人の少女を生贄に捧げるというものである。そして、捧げる対象というのが魔人で、生贄に受肉していたと考えられている。しかし、この魔人は村を手ずから支配したわけでもなく、砦に居座ったらしい。


 魔人の目的が不明だが、村人は砦跡に巣食った魔人に対して、数十年おきに生贄を立てていた。


 一方で、そんな悪習を繰り返す村に関係なく、ウィレイブ王国は無事に建国した。この村も吸収されることになり、監査が行われたことで魔人の存在が発覚した。当時は討伐できるだけの人員がいなかったから、秘密裏に結界魔術で砦ごと隔離し、生贄がそれ以上出ないようにする処置に留まった。


 けれど、根本的な魔人の排除は出来ないままだったため、最低限被害が外に生じないように結界を維持するための監視役が必要だった。その立場には、当代における高位の魔術士が監視役として据えられた。厳重かつ慎重な対処が成されたわけだが、当の魔人は抵抗する様子もなく大人しくしていた。

 望ましい限りではあるが、一方で希少な高位の魔術士が手持ち無沙汰な状態にもなった。当時のウィレイブに魔術士を遊ばせる余裕はなかったため、監視役の魔術士を校長として学生を指導するための魔術学校を設立する運びとなった。

 現在の街としての発展は、学校設立に伴った設備の拡充によるものであるらしい。


「まとめると、ヒカネは大人しい魔人によって栄えた街ってこと。私の親友【才焔(さいえん)】の異名を持つ一等魔術士ロゼ・クリスタは、魔人の監視役兼魔術学校の校長として、悠々自適に余生を謳歌しているそうよ」


 長い解説の総括にしてはざっくりし過ぎな気がする。

 ただ、校長の名前として出てきた【才焔】の話は聞いた覚えがある。火の海と呼んで差し支えない惨状を作り出す魔術士という、おっかない逸話がある人だ。


 つまり、世界有数の魔術士が、魔人が潜むという街に二人も揃ったということは――


「魔人、殺る気か?」


「ええ、状況次第だけど。協力してちょうだい」


 フィーネはあっけらかんと答える。


 あ˝あ˝あ˝~~!! 一発目からキツイって!! 


 俺の気落ちを他所に馬車は森林を越え、大きく見上げるほど高い外壁の前で停車した。この内部が、魔人の街ヒカネということか。


 馬車から降りる際、御者には更なる賃金を渡した。


「この先、【戦姫】の怪しい噂が立ったら、頑張ってアンタを追い詰めようと思う。これは気持ちばかりの金だ。これからもお仕事頑張って」


 フィーネの際どい発言から変な噂が立つことを防ぐために、これからの不安も込めた八つ当たりまがいの脅迫をした。御者の焦りようからしっかり伝わったようだ。


 さてと……


 御者がバラしてしまった時に締め上げるためにも、この山場を生きて乗り越えないとな。

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