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夢見の魔導士  作者: べっちゃ
第五章 揺れ動く天地
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第四話 杞憂

 俺とフィーネは、太天凰と名乗るお喋りなダチョウが引く荷車に運ばれながら砂漠を猛進している。表現の通り、馬車なんかよりも断然このダチョウの足が速い。俺らと荷物の総重量は結構なはずだが、コイツは苦し気な様子もなく進んでいく。

 さらに言えば、ボロボロの荷車で速度を出しているというのに、意外と安定して走行している。乗り心地はよろしくないが、不思議な状態にフィーネも驚いている。


 走行中は、ダチョウが俺らの肩書について聞いてきた。魔衛士という存在は初めて耳にしたものらしい。


「魔術士の側仕えだから、『魔衛士』……本当に仕えてんのか?」


(はなは)だ疑問よねぇ?」


 ダチョウが俺の態度に疑問を呈すると、フィーネはこれ見よがしに俺を(なじ)ってくる。

 今更この姿勢を変えるつもりはないし、頑張っても直せないと思う。


 こんな会話の中でふと進行方向の先を見てみると、周囲よりも少し盛り上がった砂丘に不自然な空洞が生まれている。そして、ダチョウはその空間を避けることなく一直線に暗闇へ走り込んで――


「おい、どこに入ろうとしてる!? なんか洞窟っぽいけど――あばッ、あばばばッ……!!」


 洞窟のような空間に入り、地面が砂でないためかガタガタの車輪から凄まじい衝撃が伝わってくる。

 荷車にしがみついていると、間近から強烈な光源が生まれてフィーネが荷車から飛び立つ。


「本性を現したわね!?」


 鏡剣に《界斬》を纏わせたフィーネがダチョウよりも前に降り立ち、鬼気迫る面持ちで剣を向ける。


「待ってく――眩しッ! 勘違いしてるかもしれねぇけど、休憩所のつもりで――」

「「ぐぇッ!?」」


 対するダチョウは急停止して手を挙げるように羽を伸ばすが、俺は急停止に対応できず荷車の後部から前部に滑って荷車から飛び出し、ダチョウの後ろから体当たりする形で地面に転がる。


「「イッデぇ~……」」


 薄く砂を被った硬い地面に手をついて立ち上がると、体勢を崩したダチョウの首に輝く鏡剣を当てるフィーネの姿が見える。

 ダチョウは心底焦った様子で弁明する。


「勘弁してくれアネゴ……オレ様なりの配慮でな? お前ら夜行性じゃねぇだろ? そろそろ寝ないとキツいよな? どうせ休むんだったら寒くて砂埃に晒される地表よりは、地下の方がいいと思ってだなぁ……」


「得体の知れない生き物が突然暗闇に連れ込もうとしているのに、警戒しないわけがなくない? 普通に考えたら有利な狩場に誘導しているとしか思えないわよ」


 フィーネの言い分通りだな。特に知らせもなくここに連れてくるなんて臭すぎる。仲間が潜んでいて俺らを袋叩きにするのか?


「こんな狭苦しい場所で有利もクソもあるか! オレ様は太天凰! 空こそオレ様の独壇場! マジで殺るつもりなら今頃テメェら骨も残ってねぇぜ!」


 責められてというより、太天凰としての矜持に触れたからというキレ方だ。


 フィーネとダチョウは睨み合っている。

 話が進まないのは良くないな。建設的に進めるためには――


「お前らでこの先に何があるか見てくればいいんじゃね? フィーネの手に負えなきゃそれまでなんだ。これ以上ソイツの動きがおかしかったら斬ればいい。お前も、手っ取り早く身の潔白を示せるに越したことないだろ?」


 俺の提案にフィーネは溜息をつき、ダチョウの首筋から鏡剣を離す。

 ダチョウも一息吐きながら立ち上がって洞窟の奥へと進んでいき、フィーネは鏡剣を照らしたまま後ろに続いていく。


「ステアは来ないの?」


「行かない。何かあるなら奥だし、足手纏いだし」


 俺はこの場で待つつもりだが、フィーネの懸念は拭えていないようだ。


「これもあなたの目論見で、孤立したステアを仲間の魔獣が襲うまでが筋書きなんじゃないの?」


「おま、マジ……」


 フィーネの疑いにダチョウは怒りを通り越して呆れている。

 さすがにな……


「フィーネ、諦めろ。心配ならさっさと確認してきて」


 俺の言葉にフィーネは一瞬呆気に取られるが、すぐさま口を尖らせてダチョウを脅迫するように鏡剣を突きつける。

 ダチョウも目を丸くして俺を見たが、鏡剣の眩さに目を細めてすごすごと進み始めた。荷車を引かずにフラフラと歩いている。杞憂過ぎた気がするな。どちらかというと、《界斬》を発動し続けているフィーネが魔力を使い過ぎてる方が心配になってきた。


 フィーネとダチョウの姿が見えなくなり、洞窟の入り口で待っていると、二分程度でアイツらは戻ってきた。気まずそうにフィーネが口を開く。


「この先、迷宮だったみたい……」



 ~~~



 結論から言うと、洞窟の奥にダチョウが俺らを仕留めようとする仕込みはなかったようだ。


「最初からずっとよぉ……信用を勝ち取るってのは難しいんだな……」


「まぁ、何をやるとか理由やら、目的を前もって言っとけば良かったな」


 疑われ続けているダチョウは眉を下げながら荷車を引いている。俺らに対する害意は本当になさそうだ。

 糾弾していたフィーネは一応ダチョウに謝ったらしい。ダチョウも納得したようで、随分と寛容な畜生だと思う。見た目はダチョウでも中身は人間なんじゃないか?


 《界斬》で洞窟内を照らしたフィーネに続いていくと、地面や壁面が人工的に削られたような光景になってきた。フィーネが言ったように迷宮のようだ。セデューロで聞いた、砂漠が形成される原因という戦争に付随した迷宮の内の一つというわけか。

 ミディウスのように侵入者を妨害する迷路のような構造が窺えるが、どこもかしこも壁が大きく崩れてその役割を果たしていない。ダチョウの先導に続いていると、床が大きく陥没してる地点にやってきた。


「ミディウスとは比較にならない荒れ方だな」


「そうね。あの迷宮よりもさらに古いモノかもしれないわ」


「『迷宮』……ここはそう呼ばれてんのか」


 フィーネと迷宮の感想を交わしていると、ダチョウが口を挟んできた。


「知らなかったのか? ここがそうかは断定できないけど、迷宮ってのは戦争で使われた地下要塞だ」


「は~ん……ヒトの歴史は争いの歴史ってか」


「お前から見たら滑稽か? って、おい!?」「何してんの!?」


 歴史を語るダチョウが突如、陥没した穴に荷車を引きながら進んで落ちていった。


 フィーネと慌てて落下した先を覗いたが、俺らの心配を他所にダチョウと荷車はゆっくりと降下している。下層に足を着けると、俺らを見上げて嘴を開く。


「降りて来いよ。こっちは外より寒くないぞ」


 ダチョウの言葉に、フィーネと顔を見合わせる。


 ただ、考えても仕方ないとフィーネが俺の腰を掴んで下層へと飛び降りる。

 着地する瞬間、下から風を感じると落下速度が明らかに緩んだ。

 フィーネは俺を下ろすと、驚いたようにダチョウに聞く。


「今もさっきも、上昇気流を起こして落下の勢いを弱めたの? 竜巻ほどの突風を起こせるだけじゃなく、自身を浮かす程度に調節まで出来るなんて……」


「お? そりゃそうだろ。そんな不思議なことか?」


 フィーネは顎に手を添えてダチョウの特異性を述べる。


「調節の幅が大きすぎるのよ。強力すぎる魔術は逆に弱めることが難しいの。私の《界斬》で例えると、極光に包まれた空間は消し飛ばす以外にやりようがないわけ。威力を弱めて少し残そうって調節が出来ないの。それが術式構成の限界で、人間が扱える魔術の限界なのよ」


「『極光』……? 『消し飛ばす』……? も、もしかして、さっき剣をビカビカと光らせた技か……? そんな恐ろしいモンをオレ様に……」


 さっきのやり取りを思い返しながらダチョウは戦慄している。


 フィーネにビビっているダチョウだが、実際には高度な魔術を扱えるようだ。

 フィーネはその能力に興味を持ったのか、剣を持ちながらダチョウににじり寄る。


「軽々と私たちを運んだ力に加えて、高度な風系統魔術の操作……元を正せば、人間と何ら遜色ない言語能力……ねぇ、お願い。あなたのこと、もっと知りたいの。具体的には、身術があるかどうか知りたいの。もしあるなら、現代の魔術にはない術式構成のはずなのよ! 安心して。私は研究員時代に何体も魔獣を捌いてきたし、痛覚も消せて欠損も治せる。ほんのちょっとでいいからさ!」


 “魔術狂”になってきたフィーネに、ダチョウは怯えて後ずさる。


「安心できねぇって! こんなんで美女に迫られるなんて嫌だ! 動物虐待を取り締まる法律はねぇのかチクショウ!」


 魔獣が何言ってんだ。


 しかし、不憫には見える。砂漠を運んでもらう以上、さっきよりも関係が悪化する行動は控えたい。


 フィーネの肩に手を乗せ、剣を下ろすように首を振る。


「やめとけ。もう夜中なんだ。徹夜する気か?」


「むぅ……」


 俺の制止にフィーネは口を尖らせて鏡剣をしまうと、ダチョウは額を拭うように羽で顔を払う。あまりに人間臭い。


 落ち着いてからはフィーネの陣術で火を起こし、野宿の準備をする。ゆっくり寝たいところだが、ダチョウへの不信感はまだ残っているため、フィーネと交代で寝ることにし、先に俺が横になった。環境の大きな変化に珍獣との遭遇で、瞼を下ろしてすぐに意識が落ちていった。



 ~~~



 フィーネに起こされてダチョウの見張りを交代する。竜巻で飛ばされるから俺が見張っても仕方ない気がするけど。フィーネをいかに早く叩き起こすかだな。当のダチョウだが、眠る様子もなく大人しく座っている。


「実は目を開けながら寝てたりしてる?」


「そんな特技は持ってねぇなぁ」


 しっかり返事が返ってくる。コイツはいつ寝るんだろうか。


「短時間睡眠でも大丈夫なのか? それとも朝は動かないとか?」


「オレ様に寝食は必須じゃねぇよ。たまにするけどな」


『必須じゃない』? 伝説の魔獣(かぜ)を急に吹かせてきたな。というか、遭遇した時に俺らの握り飯を食ってたのは意味がなかったってことか?


 ダチョウもそれを思い出したのか、焦ったように話題を変えてきた。


「そ、そういえば! お前、結構面白い奴なんだな。普段からアネゴの暴走を止めたり、喧嘩売ってきた奴らを潰してたりよ。ヒョロっちぃくせにな」


「最後は余計だ」


 どうやら俺が寝ている間、フィーネと大分話してたようだ。

 刃傷沙汰になりかけたのに、よくも打ち解けられるもんだ。


 それにしても、このダチョウは賢すぎるな。フィーネ視点で話を聞いていたら、俺は相当意地悪な奴と思われるだろうが、それをフィーネの暴走と捉えるとは。


「つーか、ここはお前の寝座(ねぐら)なのか? よく地下が温かいなんて知ってるな」


 ここは地上よりかは温い気温だ。陣術の炎に当たっていれば丁度いい。

 俺の問いに対してダチョウは首を傾げる。


「砂漠の中を転々としてるから、ここが決まった場所ってわけじゃねぇけど……逆に知らねぇのか? 地上の気温によらず、それなりに潜った地下は丁度いい気温で一定なんだ」


「それもアニキが言ってたのか?」


「いや、アニキに聞くまでもねぇな」


 ダチョウは常識かのように語っている。


「地下暮らしでもしてなきゃ知るきっかけなくね?」


「そうか? 確かに豆知識っぽくはあるけど……教育水準の違いか?」


「はぁ……?」


 ダチョウに教育を語られてるんだが。

 “アニキ”といい、コイツはこれまでどういう生活をしてたんだ。


「そもそもお前、いつから砂漠にいるんだ?」


「時間なんて数えてねぇよ。うーん……そーだな……今の世界で、一番歴史がある国はどんくらいだ?」


「国? ルノワール帝国の……五千年とか?」


「じゃあ最低でもそれ以上だわ。聞いたことねぇ国だし」


「なっっが。つーか頭良ッ! 例え上手すぎだろ」


 千年単位という時間も驚きだが、永すぎるという表現をするのにこれ以上ない例えだ。


「ふっ、だろ? アニキが言ってたぜ。物事は繋がってるんだから、言い換えやら例えで何でも表現できるようになれば、世界を広く捉えられるってな」


 俺の反応に気を良くしたのか、ダチョウは上機嫌になっている。


 “アニキ”を自慢しているようにも聞こえるが……ガチで誰? 相当賢い奴みたいだけど、下手につついてまた飛ばされるのも嫌だしな……


 ”アニキ”にどう反応すればいいか困っていると、ダチョウは上機嫌のままに笑い始めた。


「お前、やっぱ面白ぇな。これまで会ってきた奴らは俺の威厳にビビって逃げ出す腰抜けばっかでよ」


「……おい、真面目にハッキリ言っとくぞ。夜中に喋るダチョウが目の前に出てきたらビビるんだよ。威厳がどうこう以前に怖いんだ。近くの街じゃお前は都市伝説扱いされてるからな?」


 俺の訂正をようやく理解したのか、ダチョウは不貞腐れたような態度を取る。


「オレ様だって今の姿は威厳が足りないと思ってるんだぜ? 本当だったらお前が言うみたいにデカくなれるし、虹の翼だって生えてるんだわ」


 今も威厳があるみたいな言い方は気になるけど、”本当の姿”とは?


「ちゃんと太天凰になれるの?」


「いや、元から……まぁ、そうだ。ただ、ガチのマジになった時じゃないと戻れねぇ。封印されてるからな」


『封印』? 五躙獣を……?


「何が、というか……どう……誰に……?」


 ハッキリしない俺の問いに対し、ダチョウは事もなげに口を開く。


「言っても分かるか? 天人っつー奴らなんだけどよ」


 ハ……?

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