生殺与奪の魔法
「本当は女性だったのね」
私の目の前に立つのはジニアス・ディアボリック。でも容姿は女性だった。
「私は男だよ。少し細工はしたけど」
婥約水月剣を握る。攻撃を仕掛けてくる前に相手目掛けて突進した。
「えぇ!?」
婥約水月剣の剣の軌道が強制的に変更された。まるで今のジニアス・ディアボリックに攻撃出来ない様に。
「『暴風の空域』」
衝撃波に吹き飛ばされた。防具の黒金の華には切り裂かれた跡が残っていた。
体勢が整う前にジニアス・ディアボリックの蹴りを受けてしまった。幸い、左腕に防御していたので身体にはそれほどダメージは入っていない。婥約水月剣はどっかに吹っ飛んだので、星空の姫神を装備した。
「戻った?」
今のジニアス・ディアボリックは初めて邂逅した時と同じ男性の風貌。
「魔法に関して長年研究してきたが、まだまだ知らぬ事もあるのだな」
口ぶりからしてジニアス・ディアボリックの性別変更は初めからジニアス・ディアボリックが持っていた力ではない。なら、答えは一つ。
「悪魔の能力ね」
「御名答。グシオンとベレトの能力だ」
グシオンの能力は自分・相手の性別を変更。性別変更するには自他に触れないと発動しない。ベレトの能力は同性への攻撃不可。男性は男性に攻撃できず、女性は女性に攻撃ができない。
2体の能力は永続ではない。グシオンの能力はもベレトの能力も発動から解除まで30秒。魔力消費で再使用が可能となる。
「悪魔の力なら代償は大きいよね」
「私の魔力からは一切消費されていない」
辺りを見渡した。戦闘不能のプレイヤーが大勢倒れていた。死亡していない、ただ動けずにいるだけ。強力な拘束魔法でも掛けられているのだろう。
「周りの魔法使いのMPを使っているのね」
「【ゼロ・フォース】発動に必要な魔力量は十分に確保できた。残った分は悪魔の能力分に活用させてもらっているよ。死んだら供給がストップしてしまう。だから動かないようにした」
「【ゼロ・フォース】?」
ジニアス・ディアボリックが指差す先、巨大な球体水晶。
「【ゼロ・フォース】。私が完成させた傑作。発動後、任意で生命の命を奪う魔法だよ」
「命を奪う......魔法」
「安心していいよ。ユミナとの戦闘中に発動する気はない。『発動させたくなければ、無抵抗になれ』とは言わない。私は人間が嫌いだが、人間との戦闘は大好きでね」
相手を完膚なきまでに倒す事に喜びを感じる性格。どうして私が関わる人物は総じて、戦闘狂が多いんだろう...
「そこまでして他者の命を奪いたいの」
「逆に聞くけど、この世界に護る価値はあるのかね」
ジニアス・ディアボリックの言葉に言葉が出なかった。少し前に自分自身が言ったセリフだったから。そして今でも私はこの言葉を変えるつもりはなかった。
「戦闘中に考え事は御法度だよ。『死霊の腑』」
死霊が群れを成して攻撃してきた。嵐のように舞い、へばりつく。逃れる術はない。上空に追いやられた。待っていたとばかりに攻撃体勢に入っていたジニアス・ディアボリック。防御する時間は残っていない。今できる最大の行動。指の操作だけ。
間に合え......っ!!
「ギフ———」
「『滅びの槍』」
黒い稲妻が私の身体を貫通した。
ジニアス・ディアボリックに弱点は備わっていない。ある条件を達成しない限り、ジニアス・ディアボリックにダメージを与えることは出来ない。
加えて敵からの全魔法攻撃は吸収され、自身の魔法の威力に付け加える事が出来る。ジニアス・ディアボリックの魔法攻撃は必中。
更にハーゲンティの能力が付与されている。ジニアス・ディアボリックの魔法攻撃を受けた者は、MP量に応じて【魔結晶化】が進行する。【魔結晶化】された者からHP・MPが供給される。
球体水晶には役割が二つある。
一つは魔力充填率100%に発動できる【ゼロ・フォース】。ジニアス・ディアボリックが指定した任意の生命体の命を奪う魔法。効果範囲は惑星オニキス全土。だけど、魔力充填が満タンでも全土に効果が反映するには圧倒的に魔力量が足りない。
もう一つは生命体から魔力を吸収するシステム。現在魔法が使えない者。霊墓で倒れている者は全てこの機能の影響によるもの。
復活したジニアス・ディアボリックは水晶に新たな力を加えた。それが【魔結晶化】。地上に棲まう生命体を魔力が蓄積された結晶へと形を強制的に変える。
【魔結晶化】の波動は伝染し、拡大していっている。【ゼロ・フォース】発動後、地上で誕生した魔結晶を媒介として惑星全土に【ゼロ・フォース】を放つ。
【ゼロ・フォース】で敢えて生き残った生命体はジニアス・ディアボリックには絶対に逆らえない事を悟り、服従する。惑星オニキスを支配できる。
これがジニアス・ディアボリックの計画。3柱の悪魔がジニアス・ディアボリックと契約した理由。惑星の支配者になれば、それは王と同義。
「これは驚いた!」
『滅びの槍』は一発で相手を殺す魔法。ジニアス・ディアボリックが放つ魔法は全てが必中。外すことは皆無。にも関わらずユミナは立ち上がっていた。
「貴方のおかげよ」
「? 意味がわからないが」
「貴方を崇拝して闇の魔術を使う一団が居たそうよ。そいつらの実験で誕生した魔獣はどれも凶暴で厄災を振り撒く存在だった」
「話が見えないな。どうして生きている?」
「とあるおばさん魔法使いは24体の魔獣を封印した。時が経ち、とある人物の試練として魔獣は解き放たれた」
星空の姫神。杖から溢れるネコの尻尾を模した風。風は単体で浮遊しており、数にして9つあった。だが、数は一つ消え去った。たった今。残り8つとなる。
「魔獣はどこぞの魔法使いの使い魔として今も生きている」
ミステリーCAT in black【魔術本:No.18】。名称NENE。NENEの 譲渡変化は9つの魂を装備者に与える。”猫に九生あり”が元ネタらしいけど、お陰で即死魔法で死んでも復活できた。




