機械の世界の侵略者
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時間は10日前に遡る。ユミナとアシリアがインペリアル・アペクス号に乗船する5日前までとなる。
宇宙の彼方。宇宙空間でさえ、自分の生活圏。熟している場所でもあり、自分の領域。本日の宿泊場は月。惑星オニキスの周りを公転している月からオニキスを観ている女性。女性の周囲を囲む球体。何者にも破壊不可能なバリアとしての役割を持つ。本人曰く、『パーソナルスペースは乙女には必要なのよ』と力説していた。ボールチェアに座り、前に浮かぶ複数のディスプレイでオニキスの様子を観ている。
「順調に悪魔たちと交流しているね」
リリス様が今ハマっているのは、【表の世界】の住人と悪魔との交流物語。知性あり得る種族に感化され、進化する悪魔。悪魔に魅了され、己の欲望を叶えるために動く。
今の惑星オニキスは、未完成のスープと同義。幾つもの食材たちが寸胴鍋に煮込まれている。無限に等しい可能性がオニキス内でギッチリ詰まっていて、ごったがえししている。一つ一つの主張が強く、上手く調和が取れていないと完成には及ばない。
「いかなる場合でも、スパイスは必要よね〜♪」
世界に深みを、神が創造した存在には刺激を。彩った先に見えるのは創世か、終末か。
『創造主よ』
部屋に第三者の声。虚空から聞こえる機械音声。
自分の趣味を邪魔されたリリス様。だが、些細な出来事で機嫌を損なうのは卒業している。笑顔で会話に参戦するリリス様。
「何かしら。機械生命体星を司る王さま」
数多の惑星を創ってきたリリス様。機械生命体と呼ばれる種族も、名称が異なるが複数の星が存在する。機械生命体はその内の一つだ。機械生命体には【破壊】と【平和】の陣営が支配している。リリス様に言葉を送り込んでいるのは平和界を支配する善王。名を”アルグリネス”。
『報告。破壊軍が異世界へ』
平和界を消滅させようと戦争を起こし、他惑星にも軍団を送り、侵略していく破壊界。
「ふ〜ん。ワストエデンがコッチに来るんだ〜」
平和界を支配する邪王。名は”ワストエデン”。己が創造主を超えための野望。星々を破壊・殺戮・支配を繰り返す暴虐の限りを尽くす邪王。ワストエデン率いるデストルク軍団は惑星オニキスへ攻撃を仕掛けた過去がある。結果は当時の星霊により、壊滅。撤退を余儀なくされた。ワストエデンにとって屈辱的な敗北。人生で初めての敗退だった。
『否。今回指揮を取るのは、【破娯十三饗】の13位、ユーズゥ・マクスカ』
「なぁ〜んだ。ボス自ら侵略しないんだ〜 どっかで戦っているわね、きっと〜」
『是。ワストエデンは、別惑星との戦争』
「平和界は来ないの?」
『謝罪。我らは新たなエネルギーを求め、探索・研究』
機械生命体の動力源は機械生命体にしか存在しない。だが、度重なる戦争で機械生命体全体が大ダメージを負っていた。豊富な資源もエネルギーも枯渇していた。両陣営は新たなエネルギーを求め、それぞれ宇宙へ進出する作戦を取っていた。
「そう言えば、そんな設定にしたっけ」
機械生命体を創り、星全体が戦火になることで、資源がなくなる。外宇宙へ進出すると、両陣営はどのような軌跡を歩むのか。思いついた設定を機械生命体全種族に埋め込んだリリス様。予想通り、破壊界は他惑星に棲む住人を皆殺しつつ、新しいエネルギーを独占する動き。平和界は他惑星と友好的な関係を築き、新たな動力源を他惑星の住人と研究している動き。
『予想。創造主が居られるオメガ次元に扉が開きます』
惑星オニキスがある宇宙はオメガ次元。機械生命体星がある宇宙はオミクロン次元となっている。
「そっか〜 軍団が来るんだ〜 このオニキスに......侵略しに」
『誤。ユーズゥ・マクスカ隊全員ではない......先行部隊のみ』
「エネルギーの問題ね。他次元に軍隊を送り込むには圧倒的エネルギー不足。人数を絞って、攻撃ね〜」
『是。数は5』
「そっか、そっか〜 ありがとう」
『喜。勿体なきお言葉』
「因みに、平和界からは誰か来る?」
『謝。多次元に派遣している関係上、オニキスに派遣は難しいです』
「OK! じゃあ、ワタシが準備しますか!」
『問。何故、そこまでオニキスに肩入れを』
虚空に向かって屈託のない笑顔を浮かべるリリス様。
「恋人が創った世界だからね!」
「理解不能。そ、それは———」
声の気配が完全に消えた。これ以上、話すことはない。リリス様による強制排除。
準備体操を始めるリリス様。準備しなくても即実行に移せる。唯のパフォーマンス。やる気を上げるために敢えて行った行動。
「久しぶりだし、今の時代でワタシが憑依できる子、いるかな〜♪」
神は直接、手を加えない。天啓を与える事は許されている。
口元が不敵に歪む。神は地上へ降り立つ——————




