バーニア・フルスロットル
全ての任務を終えた第1強襲科はそれぞれ物資を片付け、隊長である雨宮フレンの判断で1強が保有する研究施設に向かっていた。
その途中で明美は勇理にある質問をした。
「なぁ勇理ちゃんよ。あのでっかい銃を見せてくれよ」
「な、なんですかいきなり・・・」
「いやなぁ?剣を名乗るにゃちょいとばかし切れ味が足りんのちゃう?」
勇理のリボルバーが見てみたいらしい。
確かに刃もついていない代物だが、形は違えど形式上「剣」である。そこにいちゃもん付けられたって勇理本人にはどうしようもない。
ガチャッ
器用にリボルバーを数回転させてハンマーを下ろし、すこしカッコつけてみる。
明美は少し顎に手を当て考える仕草をした。
「・・・。一瞬だけ触ってもええか?」
勇理の剣を貸して欲しいと右手を差し出す明美。
銃の知識が無くてもトリガーを引かなければ弾は出ない事くらい知っているだろう。ハンマーを押さえながらトリガーを引き雷管を打ち付け無いように慎重に明美に渡そうとしたその時
「え、まぁいいですけど。先輩銃の使い方わか━━
『・・・触レルナ・・・』
━━!?」
「!」
「誰だ?」
一気に冷え込んだ空気とその殺気に思わず明美はその銃から手を引く。
研究室に向かう廊下には周りを見渡しても1強のメンバー以外誰も居ない。それにその声は、人間と呼ぶにはあまりに低く機械的で凍てつくような冷たさと憎悪に満ちた声色だった。
「なんか一気に寒くなった気がするんですけど」
「というかおそらく、いや間違いなくその剣から聞こえたのだが?」
寒気を主張する計香と冷静に声の主を言い当てるフレン。
勇理は確信を持って今の声が自分の剣であると判断した。
「今のが僕の剣の声・・・」
「・・・ワーテル」
計香はワーテルを呼び出し意見を聞く事にした。
少なくともここの誰よりも「中の何者か」に詳しいはずだ。
どうやら一部始終を目撃していたらしく、すぐに計香に乗り移り質疑応答に入った
「はいはーい、何かな?ってもうだいたい察しはついてるけどね」
「ストレートに聞こう。勇理の剣の声、聞き覚えは無いか?」
「もちろん聴いた事無い声だよね、少なくともあたしの知り合いの妖精にはそんな物騒な声のヤツは居ないよ!」
「僕が呼びかければまた返事くれるかな?」
「お、それや」
勇理は何度も心の中で語りかけるも、まったく応答が無い。
「なーんかやな感じー。じゃああたし戻るから。おつー」
「あぁ済まないな、いきなり呼んで」
フレンはワーテルにお礼を言うとワーテルは計香の手を降ってそのまま剣に戻ったようだ。
「ねえねえ計香、剣に語りかけるのってどうすればいいの?」
「そうよね、初めて声聴いたのよね。そうね・・・。いや!なんて説明した物かしら!?」
3人でズッコケてしまった
「まぁ気持ちは分かるが・・・」
すると明美が何かを閃いた様な顔をした
「あ、明美が閃いたな。良くない事が起きるぞ」
「なぁ、要・・・あー・・・計香はどうやって最初剣の声を聴いたん?」
「え?えーっと例の山の穴、あの日の外敵との遭遇で聞きました」
「ほう、初陣で対話とは・・・小鳥遊もだが今年の新入生はどうも侮れない部分があるようだな」
話によると1年で剣との対話が出来る生徒は多くは無いらしい。聖徒会や機関員になれば全員出来て当然だが、だいたいが2年生の後期から3年生前期での覚醒らしい。
稀に見る天才である。
「話、戻すで。そんで勇理や」
「はい」
「ウチと対人演習しよか」
計香は眉を釣り上げフレンはため息をついていた。
「た、対人演習ですかぁ!?」
「だってそうやろ?闘いの技術は闘いで得るもんや!」
「強引も強引・・・だが否定出来ない自分が不甲斐ない・・・」
━━裏庭ステージ上━━
結局、明美に肩を強引に組まれ無理やり裏庭の石作りのステージに上げられてしまった。
「ねえ見てアレ!1強が演習だってさ!」
「え!?私も気になる!」
「不来方様の全身展開見れるかなぁ!」
いつの間にか観客席が埋めつくされようとしていた。
一体どこから情報を聞きつけて来るのか、そして何故この先輩達はここまで支持されているのか。勇理の疑問は尽きないが、今は目の前の先輩、もしかしなくても超強い先輩に集中しようと頬を軽く叩いた。
「おーおー。よー集まっとるわ」
「な、なな、なぜこんなに人が集まるんでしょうねね、ねー」
「いや、全然落ち着けてないでお前」
依然、アガっている勇理とニヨニヨしている明美。
そして演習開始のカウントダウンが点滅し始める。
3
2
1
開始!!
ブザーが鳴り響いた直後、明美は派手な装飾の赤い剣と盾を展開した。初めて目にする明美の神々しい剣に自然と警戒心を剥き出しにしてしまう。
そしてその盾に剣の身を強く擦り付けると、大量の火花と共に赤い天使の様な翼が展開された。
その光景に勇理は息を飲む。
あの人と重なって見えたのだ。
勇理も演習に意識を戻して8インチのリボルバーを展開、自分の頭に押し当てトリガーを引いた。
銀色のジェットブースターとエキゾーストが金属音と共に展開された。
「おっほぉー・・・それがアンタの翼かいな。妖精でも天使でも悪魔でも無い。ハンパか?」
「先輩の剣こそ少し派手が過ぎませんかね?似合ってませんよ?」
「ははは!言うねぇ!!」
「あはははは!!先輩こそ!!」
「ははははは!」
「あはははは!」
「ははははは!」
「あはははは!」
「抜かしてろや」
先に動いたのは明美だった。
相手は銃。一気に距離を詰め近距離戦に持ち込むつもりだろう。剣での戦闘が常の翼専生だが、そこは聖徒会ひいては1強、先輩として経験の差を思い知らさんと普段の雑な性格からは想像も付かない柔軟性を発揮する。
勇理は何故かこのリボルバーを手にしている時だけは自分が絶対に負けないという自信に満ち溢れる。過信、慢心にも近いだろう。だが相手は2つ年上。慢心、されども警戒レベルMAXでより慎重に構えていた。
「(絶対に距離を離したらあかん!この口径から撃ち出される弾丸をウチの盾で防げる確証は無い!多分盾や剣、身体ごと消し炭にされるで!)」
どれだけ後ろにステップしてもその独特な間合いを詰める技術に引きはがせずにいた。
だが
ギィン
「うおっ!」
勇理はその翼からバーニアをふかし瞬時に視界から消失。そして背後に回る。
「(あかん、マジで目で追える速度やない)」
「貰いました!」
射撃射撃。2発発射された弾丸。
咄嗟に盾を突き出すが・・・
ガン!バキ!
1発で大きく弾かれ2発目で粉々にされてしまった。
「!!(クソッタレ!逸らす構えでもやっぱダメか!)」
明美は粉砕された盾を捨てると盾だった物はすぐに消滅し新しい盾がすぐに展開された。
「防げて1発って所やな・・・どうや、ウチの盾も案外堅いやろ」
「・・・ですね、攻めきれません」
明美は予想以上の勇理の戦闘技術に驚いていた。
こちらは3年生で、しかも入学前から、小さい頃から訓練を毎日続けて来た。多少特殊な翼だからといって = 強いという訳では無く、自分に合った訓練と実戦経験によって技術は積み上げていく物だ。
それと・・・
「(アイツ剣を展開すると妙に性格変わるよな・・・)」
いつもの何もかもに怯えていそうな態度では無く、戦況を冷静に分析して次の一手を、もうひとつ次の一手を様々な分岐を想定している時の「戦士の顔」だった。
「アンタ武器の展開はいつや?」
「ちょうど1年前ですね。例の事件で」
「戦闘中に初展開ってわけやな」
珍しいケースだ。
基本的に一生の3分の1は睡眠の人間にとって、「朝起きたら枕元に置いてあった」というのが大半。あとは日常のふとした瞬間から手に握っていた等。戦闘中に展開されるというのは有り得るが、珍しいだろう。
明美は地面を強く蹴りその翼で大きく上空へ飛んだ。
「よっと。んで?その1年間に1人で特訓してたわけやな?」
「まぁそうですね。その・・・計香に追いつきたくて」
「結構な事や。だが、計香もアンタに黙って特訓してたみたいやな」
「全身展開なんて出来ちゃってますからね」
地上と上空で会話する。
翼専の制服のスカートの丈は少し短過ぎる気がする。明美の下着が完全に見えてしまっているではないか。
彼女の尊厳を守るため勇理はあまり上を向かない様にしていた。
「ほれどうした!翼専生の華である空中戦やで!かかってこいや!」
「先輩」
「なんや」
ギィン!
「・・・!」
次瞬間には目の前に銀色のガスを噴き出す2つのバーニアを背に少女が迫っていた。
勇理と明美の距離は30mは離れていた。
オーディエンスの盛り上がる声で会話が聞こえなくなりそうな距離。
勇理のデータは以前の体力テストで凡そ把握していた。それを以ての30mだったが。
「(コイツまさか)」
超音速の蹴り。
明美は盾でガードしたが、その速度からなる圧倒的な攻撃力に地上に叩き落とされてしまう。舞い上がる土煙。
「ぐッッ!!(測定でも加減してたって事か!?)」
地上に墜落した明美に追撃を仕掛けようと再び加速、だが━━
ビシュ!
鋭い一閃。
「せやな、ウチでも追撃するで」
「(読まれてたかぁ・・・)」
少し頬を斬られてしまった。
勇理は土煙で明美の姿がよく見えない状況の追撃を後悔した。
土煙から出てきた姿は・・・
「ここからが本番やで」
「(うわっかっこいい・・・)」
全身展開した明美だった。
赤いと白の重厚な鎧、天使の翼はより大きく見えた。剣や盾も様子が違った。
ダダン!
勇理の大口径の2連射。
明美に真っ直ぐ飛んで行き━━━━
ジュ!
━━━━蒸発した。
「(蒸発!?まさか弾丸の正体に気づいて━━
「考え込んどる場合やないで!!」
思考を巡らせていると明美に距離を詰め切られてしまった。
「(まずい!一旦距離をとらないと!)」
バーニアを吹かすが何故か速度が出ない。
実は勇理の剣や翼から噴出・発射される物体には弱点があった。
熱にとても弱いのだ。
勇理自信はこのガスの特性にいくつか気づいている。弱点も把握している。
1つ、大気と比べて非常に重い気体である事。驚異的な加速力の正体はこの気体である。
2つ、剣から撃ち出される弾丸はこの気体を個体にした物質である。
そして最大の特徴が3つ目、このガス・弾丸に触れた、質量を持った物体を破壊しやすい「物質特攻」
翼専入学前の特訓中。大きな樹木に弾丸を撃ち込んだ時、明らかに弾丸より大きいサイズの破壊がされていた。
このガスからなる弾丸は沸点が低く、常温でも放置すると揮発するデリケートな物質。
背中のブースターやエキゾースト以外のその他の機構はその個体を一気に温めてバーニアで噴出しているのだろう。
今の所内部の燃料となっているであろう個体が燃やし尽くされた事は無い。試しに10時間近く飛行したがその時も翼や剣に異常は見られなかった。
先程明美が破壊された盾を捨て、新しい盾をを展開した時は綺麗な状態だった。翼や剣は何度でも再生可能。
つまり勇理の燃料の個体も翼の一部という事だろう。
「なるほど!」
勇理は予想外の収穫にこの演習に意義を感じた。
「アンタの弾丸は熱に弱いみたいやな。なら残念だがウチの全身展開の熱とは相性最悪って事やなぁ!!」
「うわ!ば、バレたー!!」
慌てふためく勇理に次々と剣を振り抜く明美。
勇理は背中のブースターに剣を格納すると剣に弾薬が装填された。そしてもう片方の翼からも剣を抜き乱射する。
「無駄ゆーとるやろが!」
全て蒸発してしまう。
距離を置いては乱射、蒸発、距離を置いて乱射、蒸発を繰り返す。
速度の出せない勇理は持ち前の加速力を生かせず弾丸も届かない。近接戦にしても無手で剣と盾と鎧相手にどう打ち込めばいいだろう。
すると明美は1度追撃を止め演習場の中心に移動した。
「終わりにしようや」
「?」
明美は剣と盾を解除した。
好機と言わんばかりに剣を向けるが
ゴゴゴゴゴゴ
一気に周囲の温度が上がった。
もしかしなくても彼女の仕業だろう。
「凄い嫌な予感がする・・・!」
勇理はその肌の焼ける様な熱風に立っているのが限界だった。
「安心せい!加減したる!」
「ほ、良かったぁ」
「ハデに吹っ飛べや!」
「ヤバい事言ってるー!!」
その熱風が明美に収束され、次の瞬間━━━━
ドゴゴゴゴゴゴ!!!
大爆発。
観客は待ってましたと大盛り上がり。
あまりに派手な大技。観客達はおそらくこれを見に来たという人たちなのであろう。
明美は全身展開を解き剣と盾だけの状態になっていた。
「ははは!少しやりすぎたかな?」
「ケホッ」
「煤だらけやな!まだやるか?」
勇理の攻撃は明美には届かない、また全身展開されたら同じ事を繰り返すだけは だろう。
明美は完全に勝敗が決したと思った。
だが
「当然」
明美は少し意外に思った。
どうやっても勝ち目の無い演習、それに全身展開を会得するのが目的の上一朝一夕で手に入る技術では無い。
今日のこの演習の勝敗は影響しないというのに。
負けず嫌いにも見えない。そこまでしてこの演習を続ける理由は何だろうか。
「ウチは構わん。でも理由だけ聞かせてもろてもええか?」
何か大きな理由があるのだろう。
「それは」
「それは?」
「先輩みたいな必殺技、僕も欲しい・・・」
「・・・えそれだけ?」
「ずるい・・・計香もどんどん先に行っちゃうし」
「いやぁ、だからこうしてウチが教えて」
「僕もやりたいー!アレやりたいー!すぐやりたいー!」
子供がおもちゃを欲しがってしまった。
「焦る事はないって!計香は・・・あれは天才ってヤツや!あーゆうヤツなんやて!」
「あ」
勇理は何かを思い出したかの様に上空を見上げた。
「ど、どした!今度はなんや!」
勇理は明美を見てニッコリすると━━━━
ギィン!
再び姿を消した。
「お!?どこ行った?」
明美は完全に勇理を見失っていた。
辺りを見回していると客席から
「明美!上だ!」
フレンが上を指さしていた。
咄嗟に上を見上げると━━━━
銀色の彗星が立ち昇っていた。
勇理は上空を見上げた時、あの日の事を思い出した。
初めて剣を展開した日、初めて外敵と戦闘をした日。
たしか━━━━
バーニアをフルスロットルで燃やす。
さらに翼の角度を調整し回転を加える。
錐揉み状にアンチテイルが残りさらに加速していく。
そして15秒後、上空2000m
我ながら飛びすぎだ。
勇理はバーニアを1度停止させ背中側に倒れる。
勇理はこの上下の反転した光景をこの一瞬を目に焼き付けた。
夕陽に照らされた街並み、星空も見えかけているオレンジと紺のグラデーション。やはりこうして上から見るとかなり大きい敷地の翼専。月も太陽もとても大きく見えた。そして
一気に急降下。
更に加速、加速。
激突
銀色の彗星は裏庭を抉ったのだった。




