26、晩餐会の始まり
本日二話目です。
あの後、商業ギルドの鍛冶担当を呼びベアリングを再現出来るかを話し合っていたら既に夕暮れ時ですよ。
最近は何かと忙しいですね、モフリニウムが足りません。
早くココちゃんをモフモフしに行きましょうか。
「何言ってやがる、俺の方がもっと娘と触れ合ってないわ! 」
ドジョ・ドジョでココちゃんを膝の上に乗せ、晩餐会に向けたテーブルマナーを教える名目でモフモフしながらその事を言うと、ヴィヴィアさんに怒鳴り返されました。
この所ずっとお店が忙しいですからね。
「お義父さんには後十年は忙しくして貰いませんと……」
「……なぜ十年? 」
「その位の歳になると娘は男親と疎遠になるからです! 」
今でさえ名前を覚えて貰えない男親の悲しい宿命です。
「お前さん、何気に酷い事をさらっと考えるよな? 」
いやぁ、それほどでも……
「誉めてねぇよ! 何で誇らしげなんだよ! 」
さて、そんなこんなで明けた翌日。
今日の夕方には領主御一行が来店しますので、朝から店を閉めて店内の掃除です。
テーブルや椅子を全部物置にしまい込み、床に油を塗って磨き上げていきます。
流石はプロの掃除婦さんですね、物凄い手際の良さです。
「元が十分綺麗だから腕の見せ所が無いわぁ……」
私はと言うと、照明器具を外し発光器に手を加え間接照明に換えていきます。
ついでにスイッチを一元化しておき、色温度と光量のボリュームも付けましょう。
摘みを回すと明るさが変化するアレです、テストで色温度や光量を変化させたら、掃除婦さん達が少し驚いていましたが御愛嬌です。
さて、一段落がついたので厨房の奥で届いた食材の下拵えをしているヴィヴィアさんの手伝いに行きますか。
まずは牛の骨と腱を煮込み、ゼラチンを創り出します。
ヴィヴィアさんも見た目だけはゼラチンを作れるように成りましたが、まだ少し動物の香りが残っていましたね。
味の濃い料理には使えますがフルーツのデザートにはまだ改良が必要そうです。
「うちに来る客はこんなお上品なデザートなんか食わないけどな」
フルーツの皮を剥き刻み、果汁を混ぜ合わせたゼラチンに浮かべ冷蔵庫に入れたら余ったフルーツから果汁を搾り取り砂糖を加え冷凍しておきます。
この隙にちょっと道具を創ってきましょうか……。
夕方近くになり、商業ギルドのグライスさんと冒険者ギルドのステラさんが来ました。
大人の魅力を引き出すような落ち着いたドレスですね。
グライスさんはともかく、ステラさんは普段と違い気合いの入ったおめかしです。
「ともかく……って、ずいぶん酷い感想だな……」
「年寄りの服装に感想を求めるのが間違いなのよ。ねぇミウちゃん? 」
全くですね! お二人が来たのでセイランさんを呼びに行くついでに私も着替えましょうか。
着替えて食堂に戻るとステラさんとグライスさんが飛びついて来ました。
「ちょっと! あの高品質なドレスをミウちゃんが仕立てたって本当?! 」
「あのような照明は何だ! 色も明るさも変化するぞ! 」
二人とも落ち着いて下さい、明かりの魔法道具は後で持って行きますから……。
ドレスもはい、私が創りました。……えぇ? ステラさんも欲しいのですか? 今度創りますよ……。
「メイリンに来たときの服も自分で作ったと言ってたし、その服も手作りなの? ミウちゃん本当は御針子さんなんじゃ? 」
私はいつも何処かの制服みたいな服装でしたから、今回はその繋がりで紺のセーラー服に胸元は赤いリボンです。
「間もなくメイリン様がお見えになる、各自出迎えを! 」
先触れの方が参りましたね、皆で店の外に並びます。
程なく護衛の方を連れた何処かで見たような馬車が来ました。
馬車の中からは妙齢の女性と女の子、そして頭頂部が少し危うい感じの中年男が降りて来ました。
「ジョエル・ヴァン・メイリン子爵様、この様な所までわざわざありがとうございます」
ヴィヴィアさんが恭しく頭を下げ皆もそれに習い頭を下げます。
それにしてもヴィヴィアさん、ちゃんと挨拶出来るのですね少し驚きです。
「主人、無理を言ったのはこちらだ。そんなに畏まらなくてもよい、マドレリアとカロル共に今日は世話になる、気楽にしてくれ」
護衛の方を二人ほど残し、皆で店内に入ります。
「ほう、中々趣のある作りじゃないか。グライスの手の者か? 」
「いえ、私共は少しばかり手伝っただけです」
「部屋の四隅に在るのは暖房器具か? 」
「はい、本日は冷製料理。身体の冷やし過ぎは良くないので室内を暖めております。製作はミウでございます」
子爵御一家が席につき、セイランさんやココちゃんがグライスさんから紹介されます。
セイランさんのドレスを見た、奥さんのマドレリアさんの目が鋭いですね。あの品質を見抜きましたか?
「そしてこの者があのミウです」
グライスさんに名を呼ばれ私も挨拶しますが、『あの』ってのは何ですか?
「お初にお目にかかります、ミウと申します。本日は料理の説明もさせて頂きますのでよろしくお願いします」
「うむ、グライスから話は聞いている。レイゾウコを作ったらしいな、まだ若いのに大した者だ」
「お褒め頂き、ありがとうございます」
「カロも知ってる! 板でお空を飛んでたお姉ちゃん! 」
あぁ、やっぱりあの馬車の女の子。しっかり覚えていたのね。
「空を? 何の事だ? 」
「旦那様……」
首を傾げるジョエルさんに横に立っていた執事のお爺さんが耳打ちする。
「……ふむ、カロルと街に戻る時に馬車の車軸が折れた時の話か? てっきり作り話だと……」
あはは、グライスさんがやたらと睨んで来ます。作り話ですよ作り話。
「ミィ、おねえちゃん、ココも、とんでみたい」
「良いよー、今度一緒に飛ぼうねぇ! 」
……あっ! ついココちゃんのお願いに釣られて……
「まあ、食後にゆっくり話し合うとして、そろそろ始めましょうか」
グライスさんの合図で給仕の方がサービスワゴンを押して来ます。
「食事を運ぶ道具か、初めて見るな」
「下にキャスターと呼ばれる小さな車輪が付いております。考案はミウです。配膳をしますのでミウ、皆さんに料理の説明を」
名を呼ばれたので立ち上がり軽く会釈をしておきます。
「本日は冷製料理を楽しむ、を主題にコース仕立てで提供いたします。冷製料理は作り置いて冷めた料理ではなく、冷やす事で美味しくなる料理と認識して下さい」
給仕さんが透明なガラスのコップに透明な四角い氷を入れて液体を注ぎ皆さんに配ってます。
私が不純物を取り除いて透明度を上げたコップですね。
「食前酒です、本日はアップルのお酒を選びました。冷蔵庫で冷やしたお酒と、コップに浮かべた氷でお試し下さい」
お子様にはアップルのジュースです。
「これほど透明なガラスなぞ初めて見るぞ、しかもそれと同じ位に透明な四角い氷……王宮でも見た事が無い……」
感嘆のため息と共にジョエルさんが一口飲む。
「なる程、冷めた訳でも温い訳でも無い冷やした酒か。美味いな、この先の冷製料理に期待が持てる味だ」
薄茶色の物が乗ったお皿が皆の前に配られます。
ジョエルさんの斜め後ろに居る執事さんにも配ってますね。
「先ず最初はアスピックと呼んでいる料理です。牛などの骨や腱に含まれるゼラチンと呼ぶ物をスープに混ぜ、冷蔵庫で冷やし固めた料理です。言うなればナイフとフォークで食べるスープです」
「そのゼラチンとやらでスープが固まるのか……柔らかいな、プルプルと震えておる」
細かく切って煮た野菜と、解したお肉が混ざり合った煮凝りですね。
「このアスピックを鍋に入れて加熱すれば温かい普通のスープにもなります。ゼラチンとは冷えると固まり温めると溶ける性質があるのです。今回、冷やして食べる冷製料理に相応しいと思っております」
「うん、面白い食感だ。口の中で簡単に潰れ旨味が口内に広がる。何と言うか酒が欲しくなる味だな」
煮凝りが気に入ったのか、お酒をお代わりして食べ始めましたよ……。
此処まで読んで頂き、ありがとうございます。




