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マンション管理人の日常  作者: みずすまし
非日常
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12/15

新年からの仕事

 僕は、新年を迎え気持ちを新たに仕事に取り組むことにした。

 もっとも幸先の良い出だしでは無く、トラブルから始まった年だけど。

 大人になって初めて貰った学業成就のお守りは、常に持ち歩いている鞄の中に仕舞ってある。

 プログラムの勉強も学業だと思えば、効果があることを願いたい。


 三が日を過ぎて、直ぐに懇意の工務店に水漏れ修理の依頼をする。

 井波さんは今のところ問題なく過ごしているとは言っていたが、不便なのは確かだろうし早く直さないと。

 後は騒音問題だなぁ。

 新年を迎えて数日して、8階の住人から相談を受けたのだ。相談と言ってもクレームに近い形だったけど。

 新年の休みの間に、どうやら階下のほうから騒ぎというか怒鳴り声のようなものが頻繁に聞こえてきたらし

い。

 お酒で酔っ払って騒いでいるだけか、家庭内で問題があった為かまでは不明だがこれも早めに対処しなくて

は。

 自宅とはやはり休める場所であるべきで、そこでのトラブルは精神的によろしくない。

 これは自分の体験談。仕事など外でトラブルがあっても、家でのんびりくつろげると思うとリフレッシュでき

るんだけど、そこで騒音などで気になると精神的にかなり辛い。

 まして賃貸マンションなんだから、気に入らなければ引っ越しはできる。

 僕は張り紙を作成して、全階に掲示することを約束した。

 問題があるのは特定のフロアでも、そこだけ張り紙をすると「俺の事かっ!」と逆に怒り出し、周囲の住人に

絡み始める人もいる。告げ口したのか、と。


 さっそく自宅兼仕事場へと戻り、ワープロソフトを立ち上げる。

 マンション管理を初めて数年たっているので、いままで作成したチラシ類のものはひな形が揃っている。

 それの日付を変えて、文面に問題ないか確認してプリンターで打ち出す。

 掲示する場所は、入り口フロアとエレベーター、そして各フロアのエレベーター横でいいか。

 印刷を済ませると、セロテープを持って各フロアに掲示して回る。

 とりあえずこれで仕事は完了だ。

 あとは日課となっているプログラム作業に戻る。


 何を作っているのかというと、やはり便利な物を作る、としか言い様がない。

 プログラマの特徴として、なまけものがなる、と僕は思っている。

 ソフトウェアなどは、基本的に便利になるといいな、と思うものが作られる。

 これはソフトウェアだけでなく、色々な農作業の道具などもそうだろう。

 だからこそ、僕は自分がのんびり出来る物を作るのだ。


 あると一番便利な物。やはりマンションの管理に必要な物が詰まったソフトだろう。

 さらにスマートフォンを持っていれば、外出先からもチェックできて、過去の履歴も見られればなお良い。

 自分専用のWebサービスを作成中で、現在は3作目。

 1作目はテストケースとして、とりあえず動く物を作った。

 これで「無いと不便な物、あると良い物、セキュリティ的な問題」などを認識しやすくする。


 次に2作目は、先ほどのものを意識して作って機能的に問題ないものが作れた。

 が、自分が作って気に入らなかったのだ。

 毎日使う物だから、気に入った物を使いたい。

 例えば見た目は格好良く、入力も簡単で、メンテナンスもしやすい。

 一応、どれも基準は満たしているが、それだけだ。

 これなら既存のサービスを使っても一緒だろう。

 僕だけのオンリーワンを作りたい。これはきっと趣味の部分でもある。


 そうして完成しそうなのが3作目。

 見た目よし機能よし。壊れても直ぐに直せるし、印刷しても書類のように見ることが出来る。データベースと

連携しているから、入居者の部屋、契約日、家賃の入金状況など経理にも絡んだ表示が一目瞭然で確認できる。

 修繕した場所なんかも写真付きで確認できる。

 うん、あとはデータを入力するだけ……入力するだけなんだけど。これが一番手間がかかるだろう。

 プログラムの作成と同時に、表計算ソフトなどに基本となるデータは作成してある。

 それを流し込めば動き出すんだけど、それ以外のスキャナなどで取り込んだ画像は手作業で振り分けする必要

があるしなぁ。

 後で僕が楽をするために、少しずつ頑張ろう!


 そうして気づくと夜の8時を回った時間になっていた。

 少し頑張りすぎたなぁ。お腹も空いてきたし、何食べようか。

 そんな事を考えながら、ふと昼間に対処した騒音について思い出した。

 思い出してしまった物は仕方ない、見回りに行ってこよう。


 最上階から非常階段を使って、ワンフロア毎に見回っていく。

 部屋数は多くないから廊下も短いし、非常階段から扉を開けてのぞき込めば見回りは終わりだ。

 途中落ちているゴミを拾ったりしながら、7階につく。

 7階から下がうるさいという事だった。声というのは反響して下から上に広がっていく。だから2,3階の人

の声が5,6階の人に聞こえる事も珍しいことじゃない。


 逆に振動なんかは下によく響く。特に足音

 一軒家などに住んでいた人がマンションに引っ越しをして、よく起こすトラブルが足音だ。

 一軒家では足音など気にしないから、かかとから足を降ろす。すると階下には「ドスッ」「ドンッ!」という

振動が伝わってくる。それも一つだけではなく、二つ下のフロアに響くことも結構ある。

 もし自分達がマンションに住んでいるなら、自分の歩き方を見直してみるのも良いだろう。たまに食器棚の食

器が鳴るくらいの振動もある。


 話が逸れた。ともかく騒音が7階から下という事だから、一つずつ見ていく。

 7階は問題なし。次は6階だ。

 6階の非常階段の扉を開けると、廊下に声が広がっている。

 玄関から漏れる声にしては非常に大きい。これが騒音か……。うーん、どの部屋から出ているのかなぁ。

 あぁ、ここか。普段なら注意なんて入れないんだけど、これは酷い。ちょっと真面目に注意しないと。

 内心、もの凄くドキドキしながらもチャイムを押す。僕の中ではかなりの勇気がいる事だ。


 チャイムの音と同時に声も止む。男女の諍いの声だったから、修羅場なんだろうけど嫌だなぁ……。

 あ、夜になるチャイムには警戒するよな、ついでに名乗っておこう。


「すみませんっ、管理人の前橋ですけども」


 ドアの向こう側から足音が聞こえ、鍵の外される音がする。心臓がヤバい。


「はい、どちらさまで……」


 出てきたのは中年女性だったが顔は覚えが無いな。しまった、注意する前に住人の名前を確認すれば良かっ

た。


「あ、管理人の前橋ですけれど、実はそちらの大声が上階のほうに響いてまして。事件じゃないかと心配する方

が何名か教えてくれたんですけども」


 注意なども、こういった言い方に変える。これも管理人業務をしていて覚えたことだ。

 注意があったと言われると人は不快に思うけれど、心配の連絡を貰ったと言えば不快には思わない。お節介

か、と思うかも知れないが注意が入ったと思われるよりましだろう。

 さらに人数も1人とは言わない。何人かという言い方をすると、注意を入れたのが誰か特定が難しくなる。

 これが大人の知恵というか汚れなんだろうか、と内心ぼやいてしまうが顔には出さない。


「えっ、あっ!だ、大丈夫です。事件じゃありませんからっ。ちょっとその……興奮して騒いでしまいまして。

ご心配かけて申し訳ないです」

「事件じゃなくて良かったです。やはり皆さん安心して過ごして欲しいですからね。ただ夜は声が響きやすいの

で、今後は出来れば注意していただきたいと思います」

「はい、ありがとうございます。そういえば娘も何度かお世話になっているようで……」

「え、いえいえ。大した事とか全然してないので」


 え、あれ?ここ渡部さんの家だっけか。あー、なんか気まずいな。そういえば美佐さんにどこか似てるか。

 あ、それともこれ、嫌みかな。普通はやっぱり話しをする程度で、一緒に食事はしないか。それとも別の…

…。


「あ、では夜分失礼しました」

「はい、ご心配おかけしました」


 ふぅ、緊張した。最後のほうは別の意味で、変な汗が出たが。

 ん、そういえば美佐さんの声はしなかったけど、家に居なかったのかなぁ。


 その後は珍しく考え込んでしまって、気づいたらお酒を飲んで寝ていた。

 次の日、少しの頭痛を抱えてしまったのが余談だ。



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