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マンション管理人の日常  作者: みずすまし
非日常
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11/15

年越し

僕の日常は、マンション管理の仕事と趣味のプログラムで構成されている。

それ以外の事はほとんどしない。

だけど、実はマンション管理だけで安定しているかというと、そうでもない。 入居する人よりも、退去する人が多ければそれだけ収入は少なくなる。

不動産屋に聞くと、半分以上が空室の所もあるという。


まぁそれは置いておく。

何が言いたいのかというと、他の収入源を確保するために働く必要があるという事だ。


今は何をしているのかというと、パソコンのメンテナンスだ。これが意外と需要がある。

対象は個人から中小企業。

個人からは、パソコンが作りたい・動かなくなった・年賀状を作るには何が必要か、など。

中小企業からは、社内のネットワークの構築・バックアックシステムの構築・導入するパソコンの選定など。


今回は中小企業からのバックアップの面倒を見に来ている。バックアップに何が必要かの聞き取りをして、簡単なソフトで特定のファイルを外付けハードディスクに定期的にコピーするだけ。

ある程度貯まったらDVD-ROMにファイルを焼いたり、調子の悪いパソコンのメンテナンスをしたりと、月1回呼ばれる感じだ。

歯医者さんが、定期的にメンテナンスに来て下さいね、というのと同じだと思う。

バックアップだけでなく、その過程で色々相談されて答える。

この仕事については特に宣伝をして始めたわけじゃなく、全部口コミだ。

IT系の職上がりという話を聞いて、相談してくる人が増えたのだ。

最初は雑談程度だったんだけど、ならうちの面倒を見てよ、という会社さんがいて、口コミで広まった。

ごくまれに、こんなシステム作ってよ、という話もあるがお断りしている。

作れるけど、最後まで面倒を見れないものを作るのはねぇ。


そういえば、その仕事に雇ってくれという話をされる事があるが、そっちも全部お断りにしている。

元々マンション経営の予備の仕事なんだから、こっちでそこまで稼ぐつもりはないんだ。

まぁこんな単独で成り立つ仕事に対して、雇ってくれ、という話をするなら1人でも出来るでしょ?と答えるようにしている。

それに対する答えは、出来ると思うけど怖いから、だった。

どうも、何か対応できない事があった時頼れる人がいないと怖い、という事だった。

いやぁ、頼られてもねぇ。そういった恐怖は自営業は全員抱えていると思うんだけど。


なので今も1人で仕事をしている。


バックアップ・メンテナンス作業も終えて、社長とお茶を飲みながらの雑談をしている。


「前橋さん、あなたの仕事はわかりやすくて安心できるよ。この間営業にきたどこかの会社なんて、バックアップならRAID導入しないと駄目ですよ、とか言ってきてさ。何のことだかわかりゃしない。事前に前橋さんに聞いていたから、間違って消した重要なファイルを元に戻す手順は簡単ですか?と聞いたら出来ないって。何のためのバックアップなんだかなぁ」

「あぁそういった人居ますね。社長の仕事はコンマ1秒パソコンが止まったら大損害という訳じゃないですからね。一般家庭に銀行の金庫を導入しませんか?と言っているような物ですしねぇ。あ、全てを否定している訳じゃないですよ。実際に必要な人もいますからね。ただ道具は適正な時間と場所があるだけですし」

「しかし、最近のパソコン事情から色々勉強しているよね、もうIT系はやってないんでしょ」

「えぇ、そっちは趣味でして未だに色々調べてますからね。おかげでお仕事を貰える、このまま続けていきますけどね。では、今日はありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ。またよろしくお願いします」


 点検用のノートパソコンとハードディスクなど必要な道具を詰め込んだバッグを抱え、会社のオフィスを出ていく。


 年末になるとこういった仕事と共に、マンションの仕事も増える。

 それだけが理由ではないが何かあったら対応が必要になるので、世間が休みに入ろうが遠出の旅行などは出来ないしなぁ。

 この後、自宅に帰ったら荷物を置いて、元朝詣に行くとするか。


 様々な業者が休みに入る年末を無事に越し、自宅でテレビを見ながら新年を迎える。

 ネットで購入したおせちを食べながら、ぼーっと過ごす正月。

 明日は1月4日になるから、個人的な冬休みは今日までの予定。

 正月でも洗濯物は貯まるので、そろそろ洗濯機でも回すか。

 って所で電話がなる。管理人用の固定電話だ。

 この電話が休み鳴るという事はトラブルだ、出たくないなぁ。


「はい、前橋です」

「あ、管理人さんですか?3階の井波ですけど、実は天井から水が大量に漏れてきて」

「は?はい、直ぐ行きますがブレーカーを下ろせますか?電気を直ぐに切って下さい。では」


 やっぱり面倒なトラブルだ……。いつもの業者は休みに入っていて連絡は取れないしなぁ。

 携帯片手に井波さんの部屋に向かう。

 井波さんのドアの前にたつと、中から慌てている声が漏れてくる。

 ドアの隙間からも水が出てきている。

 かなり大事だ。

 たぶん呼んでも出てくる暇無いだろうし、外から声をかけよう。


「管理人ですけど、ドア開けますね?失礼します。うわっ!」


 ドアを開けると、2m先の天井から水が大量に滴っているのが見える。

 これ、給水管が破裂したな……なんで室内なのに。


「井波さん、原因を調べるのでとりあえず天井に穴をあけますね?でかいビニールシートを大量に持ってきてるので玄関か風呂場に流れるように床に引いて貰えますか」

「わ、わかりました」

「寒いでしょうけど頑張って下さい。それと終わったら着替えてくださいね」


 そう伝えつつ、脚立をもって天井にドリルとのこぎりで穴を開ける。

 あー、やっぱり上部の給水管の破裂だ。

 上の階に移動して、一番近い水道管の元栓を閉める。

 元栓から水道が引かれている家のチャイムをならすも、誰も出ない。

 帰省かしているか、でかけているか。今はいいか。


 年中無休でやっている普段利用しない高額の業者に電話手配して、3階に戻る。


「井波さん、水は止まりました?やっぱり上の階の水道管が破裂しているようです。上の元栓を止めたので流れは止まったと思いますが」

「えぇ、とまりました。しかしビショビショだ……。電子機器が濡れていない事が救いではあるが」

「それで業者を手配したんですが、最速で2時間かかるそうなんですよ。でもこのままだと井波さんが大変ですから、今誰も入居していない部屋をお貸ししますね。そっちで風呂とかトイレとか使えますし。必要なものとか掃除とか申し訳ないんですが、しばらく両方で生活をお願いできますか?」

「あー、それは助かります。日常生活をどうしようか、ビジネスホテルかと悩んでいた所なんですよ」

「それと壊れているものは火災保険で弁償されるので、リストなどにしておくと良いですよ。しかし、本当に申し訳ない」

「いえ管理人さんのせいじゃないですよ、故障とかは流石に予期できないものですしねぇ」


 井波さんはそう言ってくれたが、やはり申し訳なさで泣きたくなる。

 確かに故障だからどうしようもないんだけど、自分で管理している物件だしなぁ。


「ともかく空き部屋の鍵とか取ってきます。それとその部屋の汚れとか、本当に気にしないで下さいね。クリーニングとか入れて後でまとめて綺麗にするので、自分の家と思って使って下さい」

「はい、ありがとうございます」


 家に帰って鍵を取りに行き、業者が到着して応急手当をし、廊下に溢れた水を掃除して、ようやく家に戻ってこれた。

 水が溢れたのが2時頃。落ち着いたのが夕方5時過ぎ。

 体は冷えて寒いし、夕飯なんかも何もないし、本気で泣けてくる。

 猫でも飼おうかな……ちょっと寂しくなってきた。

 あ、最後に4階の水道の元栓を止めた家人に電話する。やはり携帯は便利だ。

 水道管が破裂して、下階の部屋に水が溢れたこと。その為水道の元栓を止めたこと。業者が本格的に修理するためには、昼真のうちに部屋に立入をする事を伝え了承を貰った。

 こういった謝罪が昼からずっと続いている。そのたびに心が削れる感じがする。

 さてお風呂も貯まったし、暖まって食事に行こう。お風呂で気分転換を図らないとなぁ。

 

 ピンポーン、と部屋の奥でチャイムが鳴る。


 マーフィーの法則を思い出してしまう。悪いときに悪いことが重なるという法則だ。

 ため息をつきながらも、玄関に向かう。

 まだびしょ濡れなんだけどな……


「はい、どちらさまで」

「あ、管理人さん。おめ……ってどうしたんですか、その格好!?」

「あぁ渡部さんか、おめでとう」

「おめでとうじゃなくて、なんでずぶ濡れなんですか!唇なんか紫ですよっ」

「あー、3階で水漏れがあってそれで色々あって、今からお風呂に入る所なんだ」

「わ、わかりましたからお風呂に行って下さい。あ、これ近所の神社でお守り買ってきたんです。では、お大事にっ!」


 美佐さんは、あっという間に去って行った。

 さて、お風呂に入るとするか。

 ふと渡されたお守りを何処に置こうかと見ると、何故が学業成就のお守りだった。

 まさか渡す物間違えたとか?


 沈んだ気持ちが無くなっている事に気づいたのは、お風呂につかったときだった。

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