第9話 師匠のパワーレベリング
「あっ、ごめんね。忘れてたわ!」
奏は闇魔術師ジョブスキル《半減》をスタッグに使う。
確率でモンスターのステータスとHPが半減する効果だ。
「お師匠様……これは……?
スタッグの動きが遅くなって、元気もなくなったみたいですが……」
突然の出来事にノエルの思考は追いつかない。
ただ、奏がまた何かすごいことをしたのだろうと納得し、
無我夢中ででスタッグに向けて剣を振り続ける。
「えいっ! やぁっ!」
半減したとはいえ、七歳のノエルの攻撃は
虚しく空を切った。
いや、当たっていてもダメージにならないのだ。
それを見た奏がアドバイスをする。
「ノエル君、身体にある魔力っていうか……
力の流れを意識してみて?」
ゲーム本編の設定では、
魔活病患者は快癒後、身体を流れる魔力が
ステータス全体を底上げする効果がある。
ノエル自身に魔力の効果を理解してほしくて、
奏はあえてバフ効果のあるスキルを使わなかった。
「力の流れを意識……」
ノエルは自分の中の魔力の流れを掴み、
それを身体の動きから腰、肩、そして腕へと
力が伝わるように制御する。
そして、気合を込めて剣を振り下ろす。
「はぁっ!」
クリティカルヒットの鋭い風を斬る音が鳴り、
スタッグにダメージを与える。
タゲがノエルに向かいそうになると、
すかさず奏がヘイトを取る。
やがてスタッグが倒れると、
ノエルのレベルが上がった。
「お師匠様……何だか、
身体から力が漲ってきました……!」
奏はノエルの様子を見てレベルアップを確信し、
胸を撫でおろした。
この世界でレベルの概念があるか心配だったが、
どうやら無事に成長できるようだ。
「よかったわぁ。
そんなら次はサブジョブを取得しよ」
ノエルが怪訝な顔で聞き返す。
「サブジョブ……ですか?」
「そう、サブジョブ。
ノエル君は確か、薬屋とか錬金術を目指してたやろ?」
「何でお師匠様が知ってるんですか?
もしかして、見ていたのでしょうか?」
「いやぁ、あはは……」
奏は笑って誤魔化し、自生している草花を指差した。
「そこに生えてるそれが毒草で、
あれがその毒草の効果を強くする花やねん。
だからその毒草とその花を、このすり漕ぎと鉢で混ぜてみて?」
ノエルは奏の言われるままに配合し、
毒草から強毒草を作成した。
すると、自分の中に違う感覚が増えた気がした。
「多分、それでサブジョブの薬屋を習得できたと思うから、
次のスタッグはその毒草をスタッグの口に放り込んでみて」
ROLでは、サブジョブに関わるアクションで
敵にダメージや影響を与えるとサブジョブ経験が入る仕組みになっている。
だから効率よくレベルを上げようと思った場合、
今のノエルなら毒草を飲ませてから剣で止めを刺すのが
最も効率が良かった。
前回同様、スタッグを呼び出すと、
ノエルは指示の通りに毒草を飲ませてから剣を振り下ろした。
レベルアップの効果もあり、先程より早く倒せた。
「ええ感じやね。あと何周かしたら、
スタッグやボアなら一人で倒せるようになるんちゃうかなぁ?」
ノエルが絶句する。
大人でも暴れれば手こずるスタッグやボアを、
七歳の自分が――お師匠様に見てもらって数時間で
一人で倒せるようになるのだ。
「お師匠様……やっぱり凄い……」
「いやぁ、そんなことないよ。
ノエル君の飲み込みが早いからやと思うで。
とはいえ、初日から飛ばしてもやし……
もうちょっとしたら帰ろうな?」
「はい、お師匠様!」
「家の事も何とかせんとなぁ……」
「お師匠様、どうかしましたか?」
「ううん、何でもないよ。
明日もこの時間でええんかな?」
「はい、お師匠様! よろしくお願いします。
……あ、ところで気になったのですが」
ノエルが改まって奏の方を見る。
「うん、どうかしたん?」
「お師匠様は剣も使えるのでしょうか?
できれば素振りを見せて欲しいのですが……」
奏は剣士のジョブレベルもカンストしている。
だが、素振りと言われると自信はなかった。
「うーん、せやねぇ……
試しに振ってみるけど、期待せんといてな」
そう言って奏は自分用のカンストした成長剣を手に持ち、
精神を統一して――剣を振った。
それは見る者の目を奪う、
一切の無駄がない、洗練された流麗な動きだった。
振った本人の奏すら驚いていた。
「うわぁ……うちがこんなん出来るなんてなぁ……」
ノエルが感動して抱きついてくる。
「凄いです、お師匠様!
とても綺麗で格好良くて感動しました!
今のお師匠様の動きを思い出しながら、
家でも素振りします!」
奏が頬をかいて照れる。
「あはは……なんや恥ずかしいなぁ。
まぁ、うん。手本になれたんなら良かったわ」
こうしてノエルを待ち合わせ場所まで送って別れ、
初日のパワーレベリングは無事に終わった。
明日はどうやってノエルを鍛えようか――
そう考えていることで、初日のような不安や寂しさが紛れていることに、
奏自身、まだ気づいてはいなかった。
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