第7話 女神に弟子入り(中)
ノエルは緊張していた。
いざ話せると思ったら、言葉が喉元でつかえて
なかなか出てこなかった。
「えっと、最初に……
僕の身体を治してくれてありがとうございました!
女神様が治してくれたんですよね?」
奏は、少年から真っすぐな瞳を向けられ、顔だけでなく耳たぶまで真っ赤になった。
「あぁ、まぁ……そうやけど。
ええんよ、うちが勝手にしたことやし。
あと、それに“女神”って呼ぶんはやめて。
そんな大層なもんやないんよ」
「いえ、きっと女神様が
あの時、薬を飲ませてくれなかったら……
僕は死んでいたと思うんです。
わかりました、それでは何とお呼びすれば良いですか?」
奏は、ノエルの七歳という年齢にそぐわない
礼儀正しさに目を見張った。
(身体をまともに動かされへんから、
本をたくさん読んだ……いえ、読むしかなかったんやろうなぁ)
ノエルの境遇に心を馳せると、
自分でも知らぬうちに瞳が潤んでしまう。
「うちは奏って言うんや。
そう呼んでくれたらええよ」
ノエルは静かな声で、何度も確認するように呟いた。
「わかりました。カナデ様ですね」
「様はいらんけど……まぁ、ええか。
それで、お礼はありがたく貰ったけど……
他に何かある?」
ノエルは、月夜の中で奏を見た時の気持ちを伝えたかった。
見蕩れて、見惚れて――
それが何という感情なのか、七歳のノエルにはまだわからなかった。
ただ、もう一度会いたい。
そんな気持ちだけが、胸の奥に残っていたが
七歳のノエルには、
その気持ちを理解して言葉にすることはできなかった。
だから、別の気持ちを伝えた。
「あの……えっと……その……
僕、強くなりたいんです」
「ええやん。身体も治ったし、
立派な志やと思うで。
ちなみに、なんで強くなりたいん?」
「大事な友達がいるんです。
シュレンとマリンって言って……
僕の身体が治る前から、こんな僕でも
遊びに誘ってくれて、とても大事なんです。
だから、二人を守れるくらい強くなりたい……」
ゲーム本編では七歳で死んでしまうため
深く語られなかったが、主人公シュレンがずっと忘れないほど、
三人の友情は固い絆だったはずだし、シュレンが、
「ノエルはマリンのことを大切にしていた」と語っていた。
だから奏は、ノエルがマリンを好きだったのだと思っている。
だからその動機が、とても自然なことだと奏は感じた。
「そっか。それならシュレン君と一緒に
剣術道場通わんとあかんねぇ」
「いえ、それでですね……」
ノエルの声が小さくなる。
「うん、どうしたん?」
「あの……できればカナデ様に
弟子入りできないでしょうか……?」
「えぇっ?!」
奏の目が見開き、思わず声が大きくなる。
「うちに弟子入り……って、何で?!」
ノエルは腹を括ったのか、はっきりと話し出した。
「えっと、僕の病気を治せる人なんて
ずっといなかったんです。
それにカナデ様が現れた時、
スタッグが一目散に逃げ出しました。
王都に一瞬で来るなんてことができる人も、
僕の周りにはいないし……だから思ったんです」
ノエルが喉を鳴らす。
「カナデ様は、シュレンのお父さん……
クリスさんより強いんじゃないかって。
クリスさんは剣術道場の主で、
王都でも叶う人は居ないって聞いています。
でも、カナデ様はもっと強いって……
そう感じたんです。
だから……どうでしょうか……?」
奏はゲームのイベントを思い出していた。
確かにクリスは強い。
ゲーム本編では、シュレンがクリスに勝って初めて教えてもらえる奥義があった。
時期的には、ゲーム終盤くらいだっただろう。
プレイヤースキルが高ければもっと早く習得できるらしいが、
あいにく奏はそんな腕は持ち合わせていないので、
“レベルを上げて物理で殴れ”を実行した記憶がある。
とはいえ――
裏ボスを一人で撃破できる今の奏からすれば、
クリスなど三撃か四撃で倒せるだろう。
「ノエル君に嘘をつくんが嫌やから、
正直に言うけど……多分、クリスさんよりは強いと思うよ?
でも、うちに弟子入りしたかて、
鍛え方とか分からんし。
悪いんやけど、無理かなぁ……」
ノエルが立ち上がり、深く頭を下げる。
「カナデ様、お願いします!
どうか僕をカナデ様の弟子にしてください!
カナデ様みたいに、何でもできて、
人を助けられる……そんな男になりたいんです!」
「ちょっと。頭上げて!
うぅ……どうしようかなぁ……」
ノエルからの思いも寄らぬ願いに、
カナデは頭を悩ませながら考えていた。
(こんな展開になるとはなぁ……ノエル君を弟子にとったら
どうなってまうんやろ……)
ノエルを助けたことによる影響が、
じわじわと広がっていること。
そして、それに奏自身が巻き込まれていくことを――
この時の奏は、まだ想像できていなかった。
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