第40話 ノエルの弟子入り(前)
僕は村の南口で、お師匠様が山小屋から戻ってくるのを、
そわそわしながら待っていた。
「村の中で待ってなさい」という、お師匠様の指示を守るために。
(山小屋を見に行くだけだから、1〜2時間で戻ってくるって言われたけど……)
そう考えていた矢先に、お師匠様たちの姿が見えた。
僕はお師匠様に駆け寄った。
「すみません……あの……!」
だけど僕の突進は、お師匠様の前にいた
大きな体で黒く光る鎧を着たおじさんに止められた。
「村のガキか……何か用か?」
僕はおじさんに首根っこを掴まれながら、お師匠様の方を向いた。
「おじさんに用はないよ。
僕はそこのお姉さんにお願いがあるんだ」
お師匠様が僕の方を見て、首を傾げた。
「ワタシに用事? キミハ村の男の子?」
棒読みというか、感情のない感じで話しかけてくれた。
「はい。お姉さんが薬屋だと聞いてお願いに来ました。
僕は薬屋になりたくて、弟子にして欲しいんです!」
「ヘー、ソウナノ。デモ困ったナー。
弟子は取ってイナクテー」
お師匠様の後ろにいた女性が前に立った。
多分、お師匠様から聞いていたコリーという名前のお姉さんだ。
「ごめんなさい、えっと……」
「僕はノエルと言います」
「うん、ノエル君。ちゃんとお名前言えて偉いね。
えっと、私たちはこの村にずっと居るわけじゃないの。
だからそのお願いを聞くのは難しいの」
「たまに来る時だけでもいいんです。
お願いします!」
お師匠様がコリーお姉さんを止める。
「ノエル君は何で薬屋になりたいの?」
僕は前にシュレンやマリンとした約束を口にする。
「友達と約束したんです。
もし怪我をしたら、薬屋か錬金術師になった僕が治療するって」
「そう……。それじゃ自分で薬草を採取したことはある?」
「はい。それに調合もしたことがあります」
僕は目の前で薬草と強化草を調合して、強薬草を作ってみせた。
一番後ろにいたクリスさんが驚いた。
「ノエル君、いつのまにそんなことが出来るようになったんだ?」
「頑張って本を読んで覚えました」
本当はお師匠様に教えてもらったんだけど。
お師匠様が前に出て僕の頭を撫でた。
「ノエル君の努力と才能を見込んで、弟子にしてあげる。
いつもこの村に居るわけじゃないけど。
でも、それなら親御さんに挨拶しておかないとね」
そう言ってお師匠様が振り返る。
「すみません、皆さんは先に村長の家に戻って待っていてもらえますか?
私はノエル君の親御さんに挨拶をしてきます」
コリーお姉さんが反応する。
「カナデ様、よろしいのですか?」
「はい。それにこの子が成長して、立派な薬屋ギルドの職人になれば
そのうち王都でポーションを納品するかもしれませんし。
それは薬屋ギルドにとっても良い事でしょう?」
「それはそうですが……いえ、わかりました。
カナデ様の決めた事ですから。
それではデリクさん達と先に戻っています」
大工のおじさんが呟いた。
「まぁ、師匠ってのは大事だからな……
特にお嬢ちゃんなら腕に文句ないだろう」
お師匠様以外が戻ると、小声で話しかけられた。
「さて……ノエル君。
お父さんとお母さんの所に行こうか」
「はい……ところで何でこんなことをしたのでしょう?」
「これから、うちの山小屋にノエル君が入って待ったり、
色々な場所に鍛錬に赴くのに、何より親御さんの許可は必要やからね。
それさえあれば色々と動きやすいから。
ほんまやったら最初に弟子入りした時にするべきやってんけど、
いい口実というか理由が浮かばんかったから」
村に腕の良い薬屋が山小屋を建てた。
それを聞いた薬屋を目指す村の少年が弟子入りを志願した。
努力と才能を見込んで許可したから親御さんに挨拶に行く。
そして弟子を連れて出歩くのはとても自然なこと。
それが、山小屋を建てる時に奏が考えたストーリーだった。
「わかりました。お師匠様!」
僕はお師匠様と手を繋いで、
お父さんとお母さんのいる我が家へと向かった。
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