第35話 ノエルの成長
僕が待ち合わせの場所で心待ちにしていると、
お師匠様が姿を表した。
一週間ぶりのお師匠様との鍛錬に、思わず飛びついてしまった。
「お師匠様! 会いたかったです!」
お師匠様が僕の頭を撫でてくれる。
「あはは、ノエル君。びっくりしたわ。
そんなに待ちきれんかったん?」
「はい、早くお師匠様に会いたくて、
今朝もいつもより大分早く来てしまいました」
「しょうがない子やねぇ……。
こんな場所で待つんは暇やったやろうに。
それに、一人でスタッグやボアが倒せるようになったいうて、
気をつけんとあかんからね?」
「はい! 言いつけ通り、ちゃんと周りを確認しています!」
「そっか。それやったら……ええかな……うーん、ええかなぁ?
ええってことにしとこか。
もうちょっとしたら、ここに小屋が建って待ちぼうけもなくなるし」
「お師匠様の小屋ができるんですよね?
僕が中に入ってよいのでしょうか?」
「勿論。ノエル君との待ち合わせのためやしね。
ただ、他にも考えがあるんやけど……
それはまた小屋が建ってから説明するわ。
それで、もうちょっとしたら王都から大工さんたちがようさん来るから、
待ち合わせ場所を変えんとあかんね」
お師匠様が腕を組みながら首を傾げる。
「ここがサウスコリナの南やから……北の街道……。
でもまだ7歳のノエル君をそこまで連れまわすのは……。
今も村と続いてる山や森だから、まだええかなって感じやし……うーん……」
「よし、村を少し出た西の森にしよか。
丁度スタッグやボアより少しだけ強いモンスターが出てきたはずやし。
というわけで、明日から山小屋が建つまで西の森の入り口で待ち合わせにしよか。
そんでええかな?」
僕がお師匠様の提案を断る理由なんてなかった。
「はい、お師匠様!
スタッグやボア以外がいるんですね。とても楽しみです!」
「うん。それじゃあ今日は一週間ぶりやし、軽く慣らして終わりにしよっか」
「わかりました!」
僕はそれからスタッグやボアを倒し続けた。
今では二匹までなら同時に相手しても問題ない。
流石に三匹に囲まれると厳しいけれど、
三匹になった途端、お師匠様がすぐに倒してくれるので、
僕が背中から襲われたりすることはなかった。
「お師匠様みたいにデコピンでスタッグやボアが倒せるように、
僕もなれるでしょうか……?」
「うーん、デコピンはともかく、
将来は軽く殴るだけで倒せるようにはなるんちゃうかなぁ……」
「まだまだ、先は遠そうです……」
「まだ7歳やねんから、そんな急がんでええよ」
ROLの本編開始はシュレンが15歳。
つまり同じ歳のノエルも15歳になってからだ。
それまであと8年もあるのだから、
今から鍛えれば相当のアドバンテージになるだろう。
◇
鍛錬を続けて時間が経つと、お腹が空いてきた。
いつもなら、お師匠様が王都で購入したという食事を
アイテムバッグから取り出してくれるのだけど――
「お師匠様、今日は僕がお弁当を持ってきました!」
僕の方を、お師匠様がアイテムバッグを触りながら見つめた。
「お弁当……? ノエル君が?」
「はい。お母さんに教えてもらいました。
お師匠様のお口に合うかわからないんですけど……」
そう言って、僕はアイテムバッグから
自分で作ったおむすびと玉子焼き、そして川魚の塩焼きが入った
お弁当箱を取り出した。
「お師匠様がいつも食べさせてくれる王都のパンやお弁当に
比べたらみすぼらしいですが……」
僕の遠慮がちな言葉を聞いたお師匠様は、
目を瞬かせた後、ふっと笑ってくれた。
「ううん、そんなことないよ!
ありがとう、ノエル君!
とっても美味しそうやわ!」
僕がお師匠様の隣にある大きな石を椅子代わりに座ると、
お師匠様はアイテムバッグからお茶を出してくれた。
「うわぁ……人が作ってくれたもん食べるなんて、久しぶりやわ……」
お師匠様の目が少しだけ潤んで見えた。
僕はその言葉に思わず聞き返した。
「あれ、いつも王都で購入したお弁当とか食べていますよね?」
「えっと、王都で買う物やホテルの食事は“お客の為に作ったもの”やろ?
ノエル君がうちの為に作ってくれたこのお弁当みたいなんは、
何て言うか……特別っていうかね」
「あ、わかりました。
はい、そうです。
お師匠様に食べて欲しくて作りました!」
「うん。その気持ちが嬉しくてね。
ありがとう、いただきます」
「いただきます!」
「ノエル君、おにぎりも玉子焼きもほんまに美味しい。
焼き魚も良い塩加減やわ」
僕はにやけてしまうのを止められなかった。
お師匠様が喜んで食べてくれるのが嬉しくて、
本当に嬉しくて、胸がいっぱいになって、
とても幸せな気持ちだった。
その後、お弁当を食べ終わると、
僕はお師匠様に覚えたばかりのヒールを見てもらった。
お師匠様は口を半開きにして驚いていた。
「嘘……自分で覚えたん……?
えっ、村の人に教えてもらって、
ほんで本を読んだらすぐ出来たって……
ノエル君、天才なんちゃう……?」
「いえ、お師匠様に色々と教えてもらってたから、
コツが早く掴めたんだと思います!
あ……でもそれでマリンを泣かせちゃって」
僕の言葉に、お師匠様が反応する。
「マリンちゃんを泣かせたって……
あー……なるほどなぁ」
「お師匠様はマリンが泣いた理由がわかるんですか?」
「ノエル君はわからへんの?
レリィさんもわかってると思うよ」
「うーん……僕に負けて悔しいとかですかね」
「それもあるやろうけど、どんな理由で悔しいかやね」
結局、お師匠様にも理由は教えてもらえずにその日の鍛錬は終わった。
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