第3話 女神、住所不定無職
ノエルの呼吸が落ち着き、寝息を立て始めると、
奏はそっと布団の上に寝かせた。
「ノエル君、かわいいなぁ。
弟とかおったら、こんな感じなんかな?」
(朝までここに居りたいけど、家族に見つかったら説明できへんし……
一旦は、離れなあかんよね。)
ゲームでは本来死ぬはずだったノエルを助けたことで、
今後の展開に与える影響は小さくないだろう。
とはいえ、放っておく選択肢はなかった。
「まぁ、何とかなるやろ。
シュレン君には悪いことしたかもしれんね。
三角関係になってまうし。
でも……」
奏の知っているROLの主人公・シュレンなら、
怒ることはなく、むしろ喜んで感謝するだろうという確信があった。
「さて、これからどうしたらええんやろ。
裏ボス倒したら元の世界に戻れるんかなぁ……?」
奏が倒してしまった場合、ROLの物語はどうなるのか。
もし、元の世界に戻る条件が
“シュレン達の手で裏ボスを倒すこと”だった場合を考えると、
軽率な真似はできない。
「とりあえず、所持金もカンストしてるし、
生活に困ることは無いけど……住所不定無職やなぁ」
奏はサブジョブの空間術師にある《ポータルメモ》一覧を確認する。
ジョブレベルに応じてメモできる数が増えるため、
奏は全ての街やダンジョンを記録していた。
「あれ? メモは消えてないけど……選択できへんやん」
確認すると、サウスコリナのある大陸の外側は
すべてグレーアウトしていた。
レベルなどの強さを考慮しなければ、
現時点でシュレン達が立ち寄り可能な区域までが
選択可能になっているように感じた。
「嘘やろ……」
一旦、今日の宿泊先を求めて、
王都セントラルコリナまでワープする。
「門番おるなぁ……」
目立ちたくないので《隠形》で門を通り抜け、
王都のホテルまで移動し、
フロントで恐る恐る話しかける。
「すみません、宿泊したいんですけど……
できれば食事つきやとありがたいです」
従業員が笑顔で接客を始める。
奏の立派な装飾品と装備を見て、
並みの冒険者や騎士ではないことを一瞬で見抜いた。
「この度はコリナ大陸で一番由緒あり、
格式の高い当館をお選びいただき誠にありがとうございます。
当館は初めてのご利用でしょうか?」
「あっ……はい」
ゲームの中なら何度も利用したことがあるが、
そんなことを言うわけにもいかず、
奏は聞かれるままに返事をする。
「当館は三つのグレードで部屋が分かれております。
一つは各地の村から観光などでお越しの方にお勧めしている
プランBとなり、お食事付きで浴場は大浴場をご利用いただけます。
こちらは1000リル頂戴いたします。
もう一つが騎士様や商人様のご利用が多いプランAとなり、
食事付きで部屋に浴室がついております。
また従者二名まで泊まれる部屋と隣接しております。
こちらは3000リル頂戴いたします。
最後に各地のご貴族様などがご利用されるプランSとなり、
お食事付きで部屋に浴室がついております。
また従者も二十名まで泊まれる部屋と隣接しております。
ご希望であれば宿泊の間、当館から従者をお付けいたします。
こちらは6000リル頂戴いたします」
「えっ……高っ……」
思わず本音が漏れた。
(それにゲームの受付って、こんな長々と説明してくれへんかったよね?)
ゲームだったら100リルだった気がする。
でも、冷静に考えれば、
実際の宿泊施設が薬草と同じような値段で
経営できるわけがない。
その辺は現実に近くなっているのだろう。
説明された金額は、元の世界で考えると
1000リルで一万円くらいだろうか。
迷った結果、プランAにした。
流石に従者二十名が泊まれる部屋は広すぎるし、
かといって大衆浴場も抵抗があった。
だがお風呂には入りたい。
「まぁ……3000リルなら痛くも痒くもないし」
部屋に案内された奏は、その広さと
調度品の豪華さに目を奪われた。
「うわぁ……立派やなぁ……
部屋も広いし……
それにしても、記帳はローマ字が通じて良かったわ。
KANADEって、とりあえず書いたけど
よく考えたら言葉も通じてるし……
ゲームの設定画面で日本語にしたんが
そのまま反映されてるんかな?」
身に着けた装備をアイテムボックスにしまい、
入浴を済ませて備え付けのガウンに身を包む。
しばらくして運ばれてきた食事に舌鼓を打ち、
やがて押し寄せた眠気に従いベッドに入った。
明日以降のことを考える。
「テレビもスマホもないし、やることなくて暇やわ。
一泊3000リルやったら、なんぼ泊まっても
所持金が足りんくなることはないけど……
住所不定無職ってのも微妙やんね……
でも目立ちたくないしなぁ。
とりあえず明日はノエル君の様子でも見にいこかな?」
一旦、押しつぶされそうな不安から目を背けて、
ノエル君の様子を見にいくことを目標に、
奏は眠りについた。
目の端からは、自分でも気づかぬうちに
涙が零れていた。
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