第27話 同行者たちの思惑
コリーは王都で、裕福な平民の娘として育った。
幼い頃から好奇心が強く、
16歳になる頃にはハウスメイドとして働きながら、
その傍らで薬屋の調合を意欲的に学び、
薬屋ギルドへポーションを納品したりもしていた。
だが、自分にはどうも薬屋としての才能はなかったらしく、
ポーション作成もグレードBまでしか作れなかった。
「さて、これからどう生きていきましょうかね」
20歳になった頃、コリーは人生の岐路に立っていた。
メイドとして生計を立てるか、
親の言う通りに結婚するか――
二択を迫られていた。
ただ、メイドはやりがいはあるが、
“一生の仕事”として考えるとしっくりこない。
かといって、仕方なく結婚という道も選びたくなかった。
楽しかったのは調合だったが、
コリーが一か月に作れる量と質を考えると、
それだけで生計を立てるのは厳しかった。
「私にもっと薬屋としての才能があればなぁ……」
そんな折。
薬屋ギルドに数本のポーションを納品した日のこと。
「アグネアさん、これが最後の納品かもしれません。
今までお世話になりました」
「えぇ、どうして薬屋を辞めちゃうの?」
「そうですね……わたくしの才能では、薬屋で
生活していくだけのお金を稼げそうにないので……
どこかの雇われメイドになるか、
結婚して……」
その先の言葉は、どうしても口にしたくなかった。
すると、アグネアがコリーの手をそっと握った。
「それなら、薬屋ギルドで“職人”じゃなくて
“職員”として働かない?
コリーさんみたいに人あたりがよくて、
薬屋の知識もあって、
そんな人を探していたの!」
それが――
コリーが薬屋ギルドで働くきっかけだった。
そんなコリーからすると、グレードSを調合できる奏は
まさに“神様みたいな存在”で、憧れの人だった。
しかも……コリーは、実は昔から
美しい女性や可愛い子を見ると胸が高鳴るタイプだった。
それは恋というより、芸術品を見た時のような
「好き」「尊い」という感覚に近い。
正直なところ、アグネアの勧誘を受けた理由の一つも、
彼女の整った容姿と、手を握られた時の嬉しさが
心に残っていたからだった。
「ポーションのグレードSを調合できる人って
どんな方なんでしょう。
メイスン様から“お若い”とは聞いているけれど……」
そう思っていたコリーの目の前に現れたのは――
(漆黒に艶やかに輝く髪。
くりっとした瞳。
形のよい鼻筋に、瑞々しい唇。
成人しているのに、どこか幼げな表情を見せる女性)
だから、一日目の夜。
衝立の奥で湯桶にたっぷりとお湯を温めながら、
コリーは迷いなく口を開いた。
「カナデ様、お背中をお拭きいたします。
御髪も整えますので、お任せください」
それはコリーにとって“当然のこと”だった。
◇
その頃、荷物と一緒に狭い幌馬車の後部に座る
大工のドノヴァンと、冒険者のデリク・ゴンズ・メンダ達は
今回の依頼について話し合っていた。
デリクがドノヴァンに問いかける。
「なぁ旦那、薬屋が薬草の採取で山小屋を建てるとか、よくあるのかね?」
「そうだな。全くないわけではないが、あんまり聞く話ではないな。
わざわざ遠く離れた村に行くよりは、冒険者ギルドから護衛を雇って
王都近くの森や山に入るのが多い。
その辺はお前さんの方が詳しいだろ?」
「まあな。旦那の言う通りだ。
といっても薬草採取の護衛なんて依頼は新人がやることで、
この数年、俺はやった記憶がないがな。
それにしても……」
デリクがゴンズとメンダの方へ向き直る。
「おめーら、本当にあの子をナンパしようとしたのか。
怒らねーから本当のこと言ってみな?」
ゴンズが戸惑いながら口を開く。
「いや、そりゃ可愛い子だなって思ったんで……
正直に言えば下心が全くなかったわけじゃないですけど。
ただ、それもその辺の店で休ませて、話を聞いて……ってつもりでしたよ。
嫌がるならそれで終わりにするつもりでした」
メンダが続ける。
「俺には妹がいるんで、何となく放っとけなかっただけです。
ただ、自分たちの見た目とか話し方とか……
今考えれば、そう思われても仕方なかったですけどね」
「そうか。まぁそんなこったろうと思ったがな。
ただ、けじめは必要だったんでな。
まだ痛むか?」
ゴンズが苦笑いする。
「まだ痛いです。でも、おかげで助かりました。
ありがとうございました」
「そうか、まだ痛むか……
なら……まだ鍛え方が足りねーな」
メンダが手を振りながら叫ぶ。
「何ですかそれ! ひどいなぁもう!」
「あははははは」
(しかし、まぁ……あのお嬢ちゃんをナンパか……)
デリクは中級以上の冒険者だ。
人を見た時に、何となく“闘った場合、自分が勝てるかどうか”が
直感で分かるくらいには、戦士として熟練していた。
そんな彼からすると、今回の旅で感じた戦闘力の印象は――
メイスン:10秒
コリー:10秒
ゴンズ:3分
メンダ:5分
ドノヴァン:30分
奏:勝てるイメージが沸かない
だった。
だから、彼らがメアリによってナンパを中断されたと聞いた時、
デリクの口から出た感想はただ一つ。
「命拾いしたのかもな……」
その呟きを、ゴンズもメンダも知らないまま――
馬車はサウスコリナへ向かって進み続けた。
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