第25話 奏、猫を被る(中)
早朝から建築ギルドの前へ向かう奏の足取りは重く、
気分は憂鬱だった。
「あ〜、めんどくさいなぁ。
ゲームやとエンカウント無しなら10分で着くのに、
現実やとサウスコリナとセントラルコリナって
馬車で三日もかかるんやなぁ……」
ちなみに奏が本気で走り続ければ、
今なら4時間程で到着する。
だが試したことがないので気付いてはいなかった。
「冒険者ギルド、建築ギルド、薬屋ギルドの
よう知らん人たちと三日も馬車で旅せんとあかん。
こんなことなら黙って建てればよかったかなぁ」
そうは言っても後の祭り。賽は投げられた。
今さら「やっぱり無し」とは言えない。
ぶつくさ言いながら建築ギルドの前に着くと、
ギルドの扉を開けて出てきたのは
見知った顔が一人、見知らぬ顔が二人だった。
「おはようございます、カナデさん」
「おはようございます、メイスンさん。
えっと、そちらのお二人は……?」
「はい、ご紹介いたします。
今回の旅に同行する、薬屋ギルドのコリー君と
建設ギルドのドノヴァン君です」
コリーと呼ばれた女性が奏の前に立ち、
45度のお辞儀をした。
「初めまして、カナデ様!
今回、カナデ様のお世話をさせていただきますコリーと申します。
こう見えてメイドの経験もございますので、
何なりとお申し付けください!
カナデ様の腕前には感服しております!」
「少し堅い所がありますが、彼女は優秀です。
三日の旅ともなれば、同性が居ないと辛いでしょう。
村長への挨拶も基本的には彼女が済ませますので、
カナデ様は道中をくつろいでお過ごしください」
「メイスンさん、ご配慮ありがとうございます。
コリーさんも、どうぞよろしくお願いいたします」
コリーとの挨拶が終わると、
筋肉質で髭を蓄えた男が声を出した。
「おう、田舎村の山奥に小屋を建てたいっていう
変わったお嬢ちゃんはあんたか。よろしく頼むぜ」
荒っぽいが気は良さそうなおじさんという感じだった。
ただ奏としては、あまり得意なタイプではない。
「はい、よろしくお願いします」
「さて、後は冒険者ギルドの護衛ですが……遅いですね。
依頼者を待たせるとは……」
メイスンの瞳の奥が鋭く光り、眉間に皺が寄る。
そして五分ほど後、三人の男たちが通りの向こうから
近づいてくるのが視界に映った。
「やれやれ、来たようですね……」
「すまねぇ、メイスンさん。待たせたようだな」
「デリク君……今回の依頼は薬屋ギルドの最重要人物だと
伝えていたでしょう?」
「そう聞いていたから、準備を念入りにしていたんだよ。
なぁ?しょうがねえだろ?
ほら、お前ら挨拶しろ」
そう言って、デリクの後ろに隠れていた二人が前に出てきた。
奏は身体の向きを変え、二人の顔を見た。
その瞬間――驚きの声をあげる。
「あなたたちは……」
「君は、労働者ギルドの受付の妹さん……」
そこに立っていたのは、
先日奏をナンパしようとした若い冒険者ギルドの男性二人だった。
奏は思わず、メイスンに小声で話しかけた。
「メイスンさん。すみません。
私、この二人が護衛なの……嫌です」
「何か……ありましたか……?」
流石に理由もなしに一方的に契約を打ち切れば、
依頼者とはいえ薬屋ギルドと冒険者ギルドの間に問題が起きる。
メイスンからの確認に、奏は躊躇いながら理由を話した。
「先日、街で声をかけられて……
強引に連れて行かれそうになって……
怖くて……」
本当は“怖い”ではなく、
ただ“うざくて不快だった”のだが、
その部分は隠して伝えた。
「なるほど……わかりました。
カナデさんはここで待っていてください」
そう言うとメイスンはデリクに近づき、
奏に聞こえない声で話し始めた。
「……という事が……あって……」
「何……? それは……」
メイスンとデリクの会話が終わると、
デリクが男二人の鳩尾に膝蹴りを入れた。
二人は悶絶し、その場に倒れ込む。
「ぐふっ……」
「あがっ……」
「てめーら! 冒険者ギルドの看板背負って
舐めた真似やってんじゃねーぞ!
倒れてないで、お嬢様に謝らねーか!」
男二人は青い顔で痛みを堪えながら近づいてくる。
「すみませんでした……
前の事は深くお詫び申し上げます。
今回の道中で決して不快にさせるような事は致しませんので、
どうか、お許しください」
「同じく……不快にさせてすまなかった。
それと、信じてもらえないかもしれないけど……
あの時は本当に、心配で喫茶店にでも連れて行こうと
思っただけなんだ」
奏は二人の謝罪に眉をひそめた。
あの時、奏はかなり心が荒れていた。
だから、彼らの言動を必要以上に悪く受け取った可能性も
否定しきれなかった。
「てめーら、先に名前を名乗れ!
ふざけてんのか!」
デリクの怒号で二人が慌てて自己紹介をする。
「俺はゴンズです」
「俺はメンダだ」
「……カナデです。
わかりました。謝罪を受け入れます」
冷静に考えれば、ただ不快だっただけで、
彼らの言葉が偽りだったとしても、
最初から奏に何かできるはずもない。
それに――
彼らのおかげでメアリと仲良くなれたと言えなくもない事実があった。
……もしここで奏が許さなかったら、
彼らの冒険者ギルドとしての立場がどうなるのかも気になった。
もし権利を剥奪されて失業するなんてことになったら、
後味が悪くなりそうだった。
「ありがとうございます。お嬢様」
「ありがとう。お嬢さん」
謝罪の受け入れが終わると、
デリクたちとドノヴァンが二台ある馬車のうち一台へ乗り込んだ。
奏とコリーがもう一台に乗り込もうとすると、
メイスンが近づいてきた。
「カナデさん、よろしかったのですか?
どうしても嫌なら……」
奏は首を振った。
「大丈夫です。
お騒がせしてすみませんでした」
「わかりました。ありがとうございます。
正直、こちらとしても助かりました。
コリー君、道中はカナデさんのお世話を頼みましたよ。
そして、もし何かあれば――
あなたの命に代えても守りなさい」
「勿論です。お任せください!」
こうして、メイスンに見送られながら、
セントラルコリナからサウスコリナへ向かう馬車が出立した。
奏は初めての馬車での旅に、
胸のざわつきを感じていた。
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次の話を執筆する活力になります。
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