第13話 続・師匠のパワーレベリング
奏と別れ、家に帰った後――
ノエルは自分の身体にみなぎる力を感じていた。
「数日前まで、歩く事すらできなかったのに……
お師匠様の助けがあったとはいえ、スタッグを倒せたんだ」
ノエルは手のひらを何度も開いては握るを繰り返す。
「お師匠様にもっと学びたい……
ずっと一緒にいたい……」
ノエルは生まれてからずっと諦めていた。
自分がシュレン達のように動けないこと。
そして、恐らく長く生きられないこと。
期待しないことで自分を傷つけないようにする――
それがノエルなりの心の守り方だった。
だからこの時、初めてノエルは“期待する”ことを知ったのだ。
自分が成長すること。
自分の希望を叶えること。
これまで親にすら見せられなかった年相応の甘えや信頼を、
奏に向け始めていることに――
ノエル自身もまだ気付いていなかった。
◇その夜
身体の変化は、他の部分にも表れた。
「おかわり!」
ノエルの両親が目を見開く。
その食べっぷりに驚いていた。
「今日はよく食べるわねぇ、もう4杯目よ?」
「うん、何だかとてもお腹がすいて……
ご飯が美味しく感じるんだ」
「ちょっと前まで茶碗の半分も食べられなかったのに……
良い事だ、どんどん食べなさい。
ほら、父さんのおかずも食べていいぞ!」
ノエルの両親は涙ぐみながら喜んで見守っていた。
魔活病が治り、奏との鍛錬でレベルが上がった。
病気が治って食べられるようになっただけではない。
鍛錬で消費した体力を、ノエルの身体が必死に取り戻そうとしていたのだ。
(あぁ……生きるってこんなに幸せだったんだ……!)
生まれて初めて、腹がはちきれそうになるほどの食事を味わったノエルは、
奏の剣を思い出しながら庭で素振りをする。
「お師匠様……早く明日にならないかな……」
奏との鍛錬が待ちきれなかった。
◇翌日
奏との待ち合わせ場所に向かうと、
ローブ姿の人影が見えた。
「あれ……その姿は……
お師匠様ですか?」
「あっ、しまった。昨日の恰好のままで来てもうた。
ちょっと、色々あってね」
奏のステータスを考えれば、
この付近のモンスターに装備など関係ない。
そもそもレベル差で寄ってこないため、
奏は気付くことがなかった。
「何だか、昨日より少し疲れていますか?
もしかして、僕の鍛錬が原因でしょうか?」
奏が慌てて手を振る。
「ううん!ちゃうんよ。
ちょっと色々考えてて……
ノエル君のせいやないんよ!
ごめんなぁ、心配させて」
七歳児に心配させたことに、
奏の胸に罪悪感が広がる。
「さて、それじゃ今日は……
どないしようかなぁ。
よし……!
“ひとりでスタッグやボアを倒せる”のを目標にしよか」
「はい、お師匠様!」
それから奏は、徐々にスタッグやボアへのデバフをやめ、
タゲ取りや補助を減らしていった。
「今のは避けられたんやない、外したんや
焦らずによく狙って!」
「はいっ……!」
「足を止めたらあかん!」
「わかりました……!」
最終的にノエルは――
**一人で一匹なら倒せる** ようになった。
ちなみに倒したスタッグは、
奏のアイテムバッグに吸い込まれていった。
ノエルの一撃がスタッグに止めを刺す。
「はぁっ……!」
奏が拍手し、息切れしているノエルの頭を撫でる。
「うん、上出来やね。
でも油断したらあかんからね。
囲まれたら逃げること」
「はい。まだ同時には相手できないからですね」
「そうそう。わかってるならええんよ。
あっ……せや」
奏は思い出したように、
ノエルへポーションを10個渡した。
「何かあった時の為に渡しておくから。
高いもんやないし、危ないと思ったら使ってな。
そんで使った後は――全力で逃げるんやで」
「そうなのですか?
村では薬草で済ませているので、ポーションなんて見たことがないのですが……」
奏はタオルを出してノエルの汗を拭いてあげた。
ノエルは恥ずかしながらも、その心地よさに抗えず、
奏の成すがままにされていた。
「命より高いもんはないんよ、わかった?」
「……そうですね。」
魔活病で死と隣り合わせだったノエルには
これ以上ない説得力だった。
「それじゃ、今日はこれくらいにしよか。
待ち合わせの場所まで送ってあげる」
ノエルと奏は手を繋ぎながら歩いていく。
ふと、ノエルはためらいながら奏に尋ねた。
「あの……お師匠様。
聞いてもよいでしょうか?」
「うん、なんやろ? うちでわかること?」
「はい……あの……
お師匠様は月の女神ではないのですよね?」
「あはは、そうやね。
そんな大層なもんやないよ」
「いえ……お師匠様は、僕にとって
月の女神より素晴らしい方です!」
ノエルの必死の叫びに、奏の顔が赤くなる。
「ふふっ……ありがとう。
そんで、聞きたいことってそれなん?」
ノエルは言いづらそうに視線を落とした。
「その……では、お師匠様はどちらの方なのでしょう?
王都のセントラルコリナでしょうか?」
その言葉に返事はなく、しばらく沈黙が続いた。
小さな声で――
「どこなんやろね……?」
と、寂しそうな呟きが聞こえた気がした。
「うーん、そうやねぇ……
ノエル君がもうちょっと大きくなったら教えてあげる」
見上げたお師匠様の瞳が、
どこか潤んでいるように見えた。
胸が締め付けられるような感覚が走る。
聞いてはいけないことだったのかもしれない。
「わかりました……
ごめんなさい、お師匠様」
「ふふっ、何で謝るん?
ノエル君は気を遣う子やねぇ」
その後は、シュレンやマリンの話をしているうちに
待ち合わせの場所に着き、僕は村へ帰った。
こうして、僕のお師匠様との二回目の鍛錬が終わった。
その夜――
僕は強くなった嬉しさよりも、
お師匠様の寂しそうな表情が頭から離れなかった。
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