第11話 奏、職業を考える
受付が訝しげに視線を向ける。
薬草はともかく、錬金術が引っ掛かったのだろう。
その理由は――
「錬金術……ですか?
錬金釜をお持ちなので?」
「はい、譲り受けたものを持っています」
錬金術には専用の錬金釜で素材を掛け合わせて錬成する必要がある。
王都でも一番安い錬金釜は売っているが、Bランクで三万リルする。
なおAランクで十万、Sランクで百万。
ランクによって錬成できるアイテムと成功率が変わる。
奏は当然、全てのランクを――何故か複数所持している。
「何か証明できるものはお持ちですか?
できないことをできると言って問題を起こす人が多いので、
場合によっては確認させていただいています」
(そんな奴がおるんやなぁ。
それで行ってもすぐバレて終わりやと思うんねんけど……
あれ……?)
「わかりました。
証明するのは薬屋と錬金術師の両方でよろしいでしょうか?」
「はい、それでよろしいですよ」
出来るのなら――という態度だった。
奏はノエルのレベリングでも使ったすり鉢とすりこぎを取り出し、
薬草と効果を強くする花を混ぜ合わせて強薬草を作る。
さらに小瓶を取り出し、強薬草を溶媒となる
魔力を通しやすい精製水に溶かし、
魔力を通して均一に混ぜ合わせる。
本来なら、魔力を通して均一に混ぜるだけでも数十分はかかるのだが
ジョブもステータスもカンストしている奏は
ゲーム画面でボタンを押すような感覚で、素材の状態を正確に揃えていった。
(剣の素振りで、予想はしてたけど
問題なく作れて、良かったわ)
「できました、ポーションです。
フレーバーを使っていないので苦いですけど、
効果は同じです」
ちなみにジョブボーナスで店売りポーションに比べて
効果が二倍になっているが、カンスト後の数値に見慣れすぎて
奏はそれが異常だという事に気付いていない。
「……お見事ですね。わかりました。
証明はもう結構です」
奏が首を傾げる。
「え、良いんですか?
まだ錬金術は証明していませんよ?」
「貴方の今の薬屋としての技術を見て、
錬金術が出来ると言う嘘をつく必要がないと判断しました」
(なるほど。
薬屋としてお金を稼げる技術があるのに、
錬金術が使えると嘘をついて信用を失うリスクを冒すメリットはないよね?
ってことなんかな?
はぇ〜賢いなぁ)
「はい、ですので仕事を始める際に
錬金術ギルドで披露してもらえれば結構です。」
「気になったのですが、これから薬屋になりたいっていう
見習い志望みたいな子の場合はどうなるのですか?」
「その場合、薬屋ギルドに行っていただいて、
弟子などを募集している薬屋がいるか確認してもらいます。
それで希望と条件が合えば可能ですね」
「わかりました。ありがとうございます。
それでは薬屋ギルドに向かえばよいでしょうか?」
「はい、それでお願いします。
それと最後に……」
受付が奏に目を向ける。
事務的だった態度がふっと変わり、
表情全体から柔らかい、素敵な笑顔が溢れた。
「カナデさんがこのセントラルコリナで
住民として職務を全うし、
平穏な暮らしを手に入れられることを
心からお祈りしております。
辛い事もあるでしょうが、どうか
挫けることなく前に歩みを進めてください」
労働者ギルドの受付であれば、
毎日のように希望を抱いて訪れ、
夢破れて、時には犯罪に手を染める人を見ている。
だから、どうしても事務的な応対になりがちだ。
だからこそ――
奏のように技術を持った若い女性には、
どうか不幸な結果になってほしくないという、
受付の心からの励ましと笑顔だった。
「ありがとうございます……!
えっと……受付の……」
「私はメアリです」
「はい、メアリさん。
ありがとうございます!」
奏は気付いていなかったが、
この世界で初めて――
自分から誰かの名前を聞いた瞬間だった。
労働者ギルドを出る前に、興味本位で大広間を覗いてみたが――
奏はすぐに後悔することになった。
そこには横になって寝ている者、
怪我を負って蹲っている者など、
大勢の者たちが絶望を体現していた。
(……真夏の空調が壊れた満員電車みたいな匂いがする)
奏の中の善性が、「何とかしてあげたい」と訴えかけてくる。
何故なら、助けようと思えば助けられる力も財力もある。
でも、ずっと助け続けるわけには行かない。
(現実の大富豪なんかも、こんな気分なんかなぁ?
でも……せめてこれくらいは……)
奏は大広間の外に出ると、扉越しに
治癒術師のスキル《エリアヒール》を使用して
続けて、《オールキュア》も使用した。
魔活病のように、イベント専用の治療フラグが設定された病気には効果がない。
一般的な病気や毒などのバッドステータスを治療できる。
これで部屋の中の目に見える怪我や病気は癒えたはずだ。
飢えだけは治癒魔法ではどうにもできない。
そこは炊き出しなどで何とかしてもらうしかない。
扉の中から驚嘆の声が響く。
「あれ……? 足が動くぞ?!」
「俺もだ、怪我が治ってる!」
「熱が下がったぞ……!これなら働ける!」
「もしかして、さっき部屋に入ってきたローブ姿の……?」
(やばっ! 勘の良い人がおった!)
奏は慌ててその場から離れ、労働者ギルドを後にすると
薬屋ギルドへ向かった。
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