Daylily
顔を覆って、嘆くように息を。
表情もうかがえぬ背中は確かに、涙して、みえて。
「こんな場所に生まれた未来の子供達はなにをおもうのだろう」
その人は、幼い両手を包んであやす。
「BD-13。検査おつかれさま」
僕は不思議そうに両手を動かしていたその子を、後ろから抱き上げた。
「コーシ先生」
顔を上げたその人に名を呼ばれ 笑顔で返す。
「お疲れさまです。孤怕さんは移植成功したんだって?おめでと」
「うん……けれどまだ実験段階だから。」
「神々の研究だろ?そう容易くは無いさ」
「時間がかかるのは承知だよ、でも もう私の時間が無い」
神々の研究。人類が存続するために、あらゆる生命とヒトの遺伝子を掛け合わせ、より強靭な人類を創る研究。
孤怕さんはその中でも、特に難解な挑戦を課せられているらしかった。
「昨日生まれた子は?」
「会いにくるかい?」
疲れたようにわらうその顔は、けれど嬉しそうでも誇らしそうでもあった。
僕は頷くと13番の手を引いて彼の後を続く。
ほの赤い照明がともるいくつかの研究室を通り過ぎ、一際大きな扉の前に辿り着いた。
掌紋、網膜認証。解錠。
扉の向こう側は、殆ど先の見えないような暗闇だった。が、その中へ孤怕さんは足取り軽く入っていく。
「那!」
ああ。
また名前をつけたのか。
「なんですか?」
でてきた少年を見て、僕は驚いた。既に完全なヒトの形をしていたのだ。
実験段階というから、まだそこまでではない……と思い込んでいた。
「那、こちらコーシ先生。お前に会いたいって言ってくれたから連れてきた」
「そうですか…そっちは?」
トモ……那くん、は 僕を警戒するように見遣ってふと、視線を13番にうつす。
被検体同士、何かシンパシーでも感じたのだろうか。
しかし、なんと言えば良いだろう、僕はこの……13番に名前をつけていない。
「ええとね、そっちはコーシ先生の息子」
「おおいちょっと!?孤怕さん!?」
「いいじゃん、間違ってはいないでしょう?」
「そうかも……しれないけど」
けれど。
僕は、繋いだ手の先から見上げる子を見下ろす。
僕の子、かもしれない。けれど。
割り切れない想いがゆらゆらとわき上がって。
自分がこの子をこの世界に産み落としたと考えたら 耐えられないと思った。
そろそろ、疲れてきてしまっていた。
被検体に名前をつけられる程、強い精神はぼくには無い。
それはあまりにも、重かったから。




