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RIA


 RIA(リア)。Rシリーズと呼ばれる被験体。波打つ豊かな長髪は紫の癖毛で、目の色は銀。明らかに「人間」の特徴とは異なる。彫りの深い顔立ちに、長身、細く薄く長い手足をもつモデル体型の美青年。小さな輪郭の中で大きな目はくっきりと二重に開き、けぶるようなまつ毛と太めの眉が印象的な目元を彩っている。


 常人でないことを窺わせる色彩に、度を越した美貌。


 それでも作り物っぽさはない。生まれつきこの造形だった一人の人間、といった印象の身体だ、肌も髪も綺麗だけど、見るからに「本物」だとわかる。

 ニコもそうだが、彼らはあくまでホメオスタシスをもつ「生物」なのだ。





「コウさん、もう起きて大丈夫なんですか?」

 穏やかに問いかけてくれるリアの表情には心配が滲んでいる。

 今ここは僕の自室なんだが、そこにリアが居る理由としては先日主任の実験に付き合って口にしたマグマ(ケー木の実)のせいで僕がぶっ倒れ、生死の境を彷徨っていた間、リアがその看病をしてくれたからだ。あまり頻繁に関わることはないが、以前侵入者の撃退で怪我をした時にも世話になっている。


 ベッドに腰掛けたままの僕を、眉を下げて気遣ってくれる表情は造形美との相乗効果で女神くらい慈悲に溢れている。

「大丈夫ですよ。リア、そろそろ君も休んでください」

「……俺は全然、平気です。貴方の傍に居るのが休憩のようなものですから」

 そう言って微笑む。麗しい。マジで感想として麗しいって思うことって現実にあるんだな。

「看病している間、戦わなくていいんですから。楽なものですよ」

「リアも普段は戦闘要員なんでしたね」

「ええ。元々ここは戦闘目的じゃなく研究目的の施設ですから、基本的に構成員は戦いません。そういう人たちの代わりに、僕らが居るんです」

「そうなんですか。僕は?僕は戦闘要員だったんですかね」

「コウさんは……白衣とスーツ、両方のイメージがあります。クロさんと同じように」

 クロさん。室長。

 僕もあの人はラボにいるイメージがある。失われた記憶の中で、あの人を知っていた名残だろうか。


 ……リアは僕のことをどのくらい知っていますか?

 僕は 初めからこの組織の一員でしたか?


 ……思わず少し黙り込んで、リアに訊こうか迷う。


 いや やめよう。今はまだ、だめだ

 もしここで僕が裏切り者で……記憶が戻るまでの間泳がされているだけだとしたら、この質問は危うすぎるし、無難にやり過ごせるとしたら真偽問わず「仲間ですよ」と当たり障りのない返事をされるだけで、真相はわからないだろう。

 結局自分が何者か、僕は自分自身の疑いを解消できないまま過ごすしかない。


「研究者って他にもたくさん居るんです?」

 僕がまた話しかけたので、リアは近づいてきてベッド横のバゲージラックに腰掛けた。

「……研究者は沢山とは言えませんが、命あるものは沢山います。僕が普段守っているのは研究者というより、同胞、です」

「同胞」

 被験体同士、って意味だろうか。

「勿論、甘楽さんにつくこともクロさんにつくこともありますよ。こうして弱っている体調不良の患者さんにつくことも、ね」

 微笑まれた。わざとらしいでも事務的でも無く、柔らかな物腰。


 この組織の中でリアが一番話しやすいかもしれない。落ち着いて会話できるし、単純に向き合っているだけで癒される美形だし、何より配慮がある気がする。

 リアは今も以前の僕のことを自然に教えてくれた。研究にも携わり、戦闘にも加わっていたと。それは嘘ではない気がするし、だとしたら、確実に一度は仲間だったことがあると思っていいはずだ。

 でも、自分が裏切っていないという確証がない。

 あの侵入者の言っていたこと、以外にも、理由はある。僕はーーーー


 ーーーー僕は彼らが彼ら同士の間で交わしているほどの情の、その交わりの外側にいると感じるからだ。

 

 彼らの「身内」に加わってはいない、と感じる。


 それはただの肌感と言ってしまえるような、何の物証にもならないものだ。だけど、ほとんどの事象を裏付けるのは感覚だろう?疎外されている感覚、見下されている感覚、蔑ろにされている感覚、

 愛されている感覚、信頼の感覚、

 結びつきの感覚。

 

 室長と主任、リアの三人は特に 家族のようなのだ。

 職場という一言で片付けられない。彼らの様子を気色悪い家族ごっこだと一蹴することもできるだろう、けど、「外(ほか)」との明確な線引きがあり、その中で共同体として生きているのは確かだ。


「あの、」

 この際リアに彼らのことを色々訊いてみようかと口を開きかけたところで、けたたましい音が鳴り響いた。


「「ーーーー!!?」」


 なんだ 急に!?

 音ーーーー声?


「マンドラゴラです!」

 マンドラゴラ!?

「外の庭で栽培している警報用の植物です、侵入者が内部にまで入ると土から飛び出して鳴くんですよ」

「そんなもんまでいるんですね……」

 多少焦りの表情を浮かべながらも説明してくれるリア。そうしてからハッとして立ち上がる。

「マズい」

「え?」

「庭は今、甘楽さんが一人です」


「えでも、侵入者なんて日常茶飯事でしょう。普段はどうしてるんです?」

「普段はニコか、クロさんが一緒にいると思います。けれど今日は僕がコウさんのそばに居たり、普段僕がついている相手が別の場所にいたりで……」

 人員の配置が普段と違うのか。


「主任には傍に誰もつかなかったんですね」

「あの人が出入りできる場所に付き添える人員で戦闘可能なのは俺とクロさんと……コウさん、だけですから」


 そういえば、「温室」に出入りしてのケー木の栽培は、ここ最近ずっと僕と一緒にしていたんだった。

 僕は自分で思ったよりもちゃんと、戦力として組み込まれていたのか。


 思ったよりは……信頼されている、のか?


「……行きましょう、リア」

「!」

 ベッドから立ち上がり、手早く上着だけ羽織る。リアがそばにいた手前、シャツとスラックスの格好のままでいたのは都合がよかった。


「コウさん、動けますか」

「足手纏いにはなりませんよ。主任がどこにいるか正確にはわかりませんが、マンドラゴラの声のした方へ行ってみれば侵入者には会えるでしょう。僕らが駆けつけるまでは持ち堪えてもらいましょう」

「はい」

 こくり、としっかり頷くリア。戦闘モードに切り替わったのか、太めの眉がキリッと吊り上がり、目と眉の距離がいっそう近くなる。美形が真剣な顔をすると凄みがあるな。

 リアがどんな戦闘スタイルなのか、僕はまだ知らない。

 主任の非常事態かもしれないのに僕はどこか高揚する気持ちも抱えながら、銃を持つとリアと共に部屋を飛び出した。


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