ケー木
「これはパンの木 こっちは肉の木 こっちはナッツ系」
「グロい……」
最初に僕が「温室」に訪れた感想はそれだった。
本来樹木には実らない物たちが生えている様に認知がバグり、元から木になるはずのナッツ類にまで思わず引いてしまった。元々植物というのは不気味なのかもしれない。
「温室」には大小様々な花壇が整備されていて、そのどれもが花を咲かせ実をつけている。明るく暖かい気候を再現された環境下、外の世界では成長に何年もかけるはずの植物がわずか一年で緑を茂らせたり、本来短期間で少ない実をつける植物が沢山の花を長い間咲かせていたりする。乾季や冬眠のために養分を温存する必要がないからだろう。常に成長を促進され、それでも枯れる心配がないことを、植物たちは学習しているのだ。
常に春だと植物がどうなるのか?という実験の一つの結果が、この場所で証明されている。
今日も温室の木々には多くの実りがあり、腐らせないうちに食料分を確保しておく。
それ以外に、研究用にいくつか収穫し、他はそのまま残す。
「あ!コウくんねえねえ見て見て!」
少し離れた花壇から主任の声が聞こえてきた。収穫した成果物から視線をあげ、周囲を見渡す。大きく伸びをして手を振っている青髪白衣のシルエットが、植物の合間から見えた。
あそこは……ちょうど先日から主任が何やら熱心に手を掛けていた区画だ。新しいものを作り出そうとしていたっぽいから、それが完成したんだろうか。
好奇心と警戒心を天秤にかけ、好奇心が勝った。
「どうしました」
近づくにつれて何やら主任の周囲がカラフルなステンドグラスのように反射していることに気づく。
「……?綺麗ですね」
よくわからないうちにとりあえず褒めておくことにした。よくわからないうちにしか褒められないこともある。
「でしょー!今度のはね〜、ケーキ!」
ケーキ。
……ん?
植物の合間を通り抜け、いよいよどの葉にも遮られることなく主任の姿とその目の前で生っているものが見えた。
どうやらまだ薄い皮に覆われている状態で実っているらしいそれは、けれども皮なんぞでは遮断しきれない異様な光を発していた。
発光、していた。
「……光ってますね」
赤く。
いや、光っているだけではない。耳をすませば聞こえる、なんかグツグツいっている。人が入ったら死ぬしかない未踏のマグマのごとくグツグツいっている。
もしこれがケーキなら僕の知っているケーキではない。
この組織に居たらそんなことばっかりではあるか……
パンっ!
「うわっ」
今、パンっていったぞ。爆ぜた?爆ぜた。土を見渡せば一個爆ぜて落ちている。
「これ熟れ過ぎたら爆ぜるタイプなんじゃ、見た目も相俟ってもはや武器では」
「パンっていったね〜ケーキなのにパン」
「うるさいですよ」
「熱々なんじゃないかな?ほらケーキって焼くっていうし」
「科学とか調理とかどうなってんですか……」
調理工程まで成長の段階としてプログラムされている樹木、ということなのか?それなら他の木々に出来上がる加工食品類の怪しい実りにも説明がつくのかもしれないが、だとしたら今回は失敗作だったんじゃなかろうか。ケーキが爆ぜてたまるか。
「せっかくならショートケーキがいいな。改良しよう。はい」
「はい?」
木の実※ケーキ を差し出してくる主任である。僕はとりあえず受け取らずに、その実と主任を交互に見た。
「何です?」
「まあ試食してみてよ」
「僕がですか?」
「そりゃそうだよ〜俺が食っても平気だから試験にならないし」
「ガチの<試>食!!」
実験動物扱い僕!
「えってか主任は平気なんですか」
「うん。試食しすぎて何食っても平気になっちゃった」
「自分の体でも実験してんですね……」
さすがだと思うが、真似できる気はしない。
しかし。
差し出された発光体を見る。主任のこの研究があるからこそ、この組織で僕らは食事に困らず生活できている。今やケーキなんていう嗜好品にまで手を出せるほど、ここでの食物はバリエーション豊かだ。
実験の過程で生まれる副産物のことを思えば、この研究にはらわれた犠牲は僕らの命なんかじゃ贖えないほど重いんだろうが……それでも、もし、この怪しい実験食物が安全に生産できるようになったら
食料問題を世界中で解決してしまえるかもしれない。
食べるものに困らなかったら それは どんなに安心で幸福な人生だろう。世界平和をも実現しうる研究をしていると、僕がこの組織に対してそう思ったのは、ひとえにこの主任の研究に間近で関わり、知ったからだった。
腹をくくってケーキ※マグマ を受け取り、かぶりつく。
声にならない悲鳴が勝手に体からほとばしった。暗転。




