0-57話 第一次降魔事変 その23 漆黒の悪夢
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プルートゥとヴィクトルの渾身の連携奥義をその身に受け、体中が灼け焦げ、まさに満身創痍の悪魔が、かろうじてフラフラと立ち上がったと思ったら、血反吐を吐きながらも、にっこりと満面の笑みを覗かせる。
その様子にぎょっとするプルートゥとヴィクトル。悪魔はプルートゥとヴィクトルのまさかの健闘を称えるように、ステップを踏みながらおもむろにパチパチと拍手をしだす。
青い顔で慄くプルートゥ。
「最大出力のギャラルホルンと零の太刀とアヴソリュート・エンヴォルグを喰らってまだ立ち上がるのか……!!」
挑発的な悪魔の態度に何とも言えない憤りを感じるヴィクトル。
「コケにしやがって……!!プルートゥ!!なんてことはない!!あの野郎は虫の息だ!!望み通りをあの化け物に止めをくれてやるぞ……!!」
すると、悪魔は両手を上げ笑みを浮かべながら意識を集中させる。プルートゥとヴィクトルの表情が強張る。
「ヴィクトル!!奴のこの動作!!見覚えがあるぞ!!」
「覚醒しつつある魔神……!!スピードもパワーも桁違いに上がっていた……。ならば……その無尽蔵な再生力もまた上昇すると……?」
「いかん!!!ダーメジが健在なうちに畳みかなければ!!!」
「一刻の猶予もない!!いくぞ!!プルートゥ!!!」
傷を再生しようとする悪魔に猛烈な勢いで熾烈な連撃を加えるプルートゥのドラウグ二ィ―ルとヴィクトルのダークナイトメア。
再生の妨げになってはいるが、悪魔の再生工程を完全に阻止できるほどの力は、最後の切り札を出し尽くしたプルートゥのドラウグ二ィ―ルとヴィクトルのダークナイトメアには残っていなかった。
プルートゥが嘆く。
「いかん!!奴にはコレがあった!!!手を休めるべきではなかったか!!!」
ヴィクトルがプルートゥを叱咤する。
「王の御前だ!!泣き言を言うな!!プルートゥ!!これは明確な勝機でもある!!一度、限界を超え魔神を制した俺達だ!!何度でも限界を越えればいいまでだ!!」
再び、奥義の構えをとるドラウグ二ィ―ルとダークナイトメア。
ギャォオオォォォォォォォォォアアアアアアアアアアアアア!!
しかし悪魔は両の腕をパワフルに振り回し、その剛腕でドラウグ二ィ―ルとダークナイトメアは弾き飛ばされてしまう。
プルートゥとヴィクトルが驚愕する。
「ドラウグ二ィ―ルの堅牢な装甲が瞬く間にもっていかれる!!満身創痍の手打ちの一撃でこのダメージ!!奴めどこまで進化するというのだ!!」
「ダークナイトメアの超スピードで芯は外しちゃいるが……!!急所に当たると即お陀仏ってわけか……!!最高速の俺とダークナイトメアに触れてくる奴がこの世にいるとは……!!全くふざけた化け物だぜ!!フランシーヌに装甲とスピードを両立したナイトメアの更なる強化プランを提示すべきか……!」
ギャワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
けたたまましい絶叫と共に、悪魔の深い傷が再生しようとした矢先。オルファンが呟く。
「来た……!!来たぞ……!!見事だったぞ……!!プルートゥ!!ヴィクトル!!お前たちが掴んだ確かな勝機だ!!イ・ゼルディアに住まう全ての精霊達の息吹をこの身体に感じる!!ヴェステアアアアアアアアアアアアアアアアアアアド!!!!!!」
虚空から精霊界のチャンネルが開き、そこから精霊界を司る幽玄の巫女ヴェステアードがその身を顕現させる。麗しい声で
「汝、精霊を束ねし清浄な証を待つ者に相違なし。生きとし生ける全て元素。その精霊達の御名を汝に託す。契約せよ。汝が精霊の王足りえるや?」
オルファンとソルレリアウスが光に包まれる。オルファンは決意に満ちた表情でヴェスティアードに返答しようとする。
魔力を測定する最新の機器、エウレスマギエストでオルファンの魔力を計っていたガウディが驚愕の表情を浮かべる。
「魔力(IMG)の数値が……狂っておる!!999999999(エンドレスナイン)に……!!!オルファンの身に一体何が……。精霊王の力とはそれほどのものなのか!!」
プルートゥとヴィクトルは自身の武功が報われ、更にオルファンが精霊王の力に目覚めようとする様子を、ドラウグ二ィ―ルとダークナイトアにひざまずかせ、まるで新たな精霊王の誕生を祝福するように臣下の礼をとっていた。だが、しかし、魔神悪魔の覚醒は更に進む、恐るべき再生力で受けた傷の半分を瞬く間に再生させた。
そして大きな翼を広げる。すると背中からめきめきともう2枚の大きな翼が夥しい血液の噴出と共に生えてきたのである。
愕然とするオルファン、プルートゥ、ヴィクトル。
とてつもない闘気と魔力を爆発させながら、4枚の翼をはためかせ、大空高く舞い上がる悪魔。成層圏まで飛び上がって、大口を開ける。
黒い、漆黒の、ドス黒いエネルギー粒子が悪魔の大口に集中していく。ガウディは驚愕の事実をオルファンたちに伝える。
「な……なんてことじゃ……!!悪魔の口から発される物質は、イ・ゼルディアでは検出された事のない。ぺイルゼイン博士だけが提唱していた未知の物質。ダークマターの粒子記号と一致する。まさか……!!そんな……。あの悪魔は体内にブラックホールを飼っておるとでもいうのか!!そんなもの
撃ち放てば、この孤島はおろか、世界が、この惑星そのものが虚空の闇に飲み込まれてしまう……!!逃げろ……!!オルファン!!プルートゥ!!逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
オルファン声を荒上げる。
「ふ……ふざけんじゃねえぞ……!!ダークマターだと……?オブライエンから聞いた事がある。ブラックホールを形成する唯一無二の物質。魔導師にも、科学者にもダークマターを理解しブラックホールの生成に成功した者はいないと……。ぺイルゼイン博士を除いてな。さっきから因果律に干渉して、確定未来の予知を試みてるんだが、何も見えない……!!プルートゥとヴィクトルの改心の奮戦も見えなかった……!!これは一体どういうことだ……!?」
初代勇者アヴストゥ-ラことグレンがオルファンの心に語り掛ける。
「甘いぜ。オルファン。因果律計算なんざ。魔神、大天使クラスじゃ日常茶飯事なんだよ。お前は因果律を逆算して事象の予測を立ててるだけ、干渉なんて大層なシロモノじゃねえ。奴等は因果律を意識的に書き換えてくる。クソッタレな事象の改変なんてあの野郎どもの十八番だ。悪魔はお前が逆算した因果律を無意識に書き換えてる。奴もまだ頭は空っぽなんで反射的にお前に行動を読まれまいとしてるだけだがな。これを意識的に応用されるとただの英雄クラスの力量を持ってる奴等は本格的に太刀打ちできなくなる」
「どんな化け物なんだよ…!!古の魔神って!!ちょっと待て……!!なんだあのブラックホールのデカさは!!」
「この惑星ごと消し飛ばす気だ……!!覚醒段階は進んでも、頭は空っぽのまんまなんで加減が効かないらしい。全く性質が悪いのは変わっていないぜ……!!」
プルートゥとヴィクトルも悪魔の口元に大きなドス黒いエネルギー体が収束しているのに深い懸念の色を示す。
「これは……この世に終わりの光景なのか……!?」
「ちっ!!座してこのまま死ねるものかよ!!あんなもの俺とナイトメアの身を挺してでも止めてみせるぞ!!」
一方ヴァルハラの園では、おちゃらけた表情だったグレンが真剣な面持ちで立ち上がり、フィオナに指示を出す。
「結界の出力を最大にしてくれ。フィオナ」
「こ……心得ましたが、い……一体何をなさるおつもりですか?グレンさま」
「このままじゃイゼルディアそのものが滅ぶ。あのボケ魔神記憶失っても相変わらず無茶苦茶やりやがってまあ……。はあああああああ!!!」
フィオナの結界がより広範囲、高密度、あらゆる物理や魔術障害の干渉を妨げる絶対的な聖域になった事を確認するや否や体中全身から闘気を迸らせるグレン。
「勇猛なる一矢」
そう呟くと、とてつもないほど大きな光の矢がグレンの掲げた手から出現した。
「こいつであのブラックホールとやら吹き飛ばす。概念距離がクソ程離れてるんで、今回はスピード重視だ。最速で地上に到達するようにオーラを練る。ブラックホールとやらが無散しなくとも、最悪軌道は逸らせるはずだ」
心配性のアルフォンスが提言する。
「初代様……!!!ちょっと待って下さい!!!その桁違いなオーラの光の矢をヴァルハラから現世に打ち放つんですか!!!」
「見りゃわかんだろ。このままじゃオルファンどころか、俺達がいずれ現界するイ・ゼルディアそのものが滅ぶ。悪魔と天使のラストアルマゲドンの再来を防ぐ俺達の計画がパーだ。元も子もねえ」」
「し……しかし……その桁違いのオーラを一気に放出するとなると、フィオナさんの結界じゃあ初代様の異常なまでの桁違いのオーラを相殺しきれません。御使い達に絶対に感知されます!!しかも、我々はもう死して魂のみの英霊の身です。死者の魂が現世の運命に干渉し、それを変えるなどと、ヴァルハラの規律違反を犯しています。大神に知れ渡った暁には御使い達から罰を受け、無限地獄の牢獄に入れられ、魂すら失われる羽目になると……!!」
「そ う は な ら な い」
「何故そんなにはっきり断言できるんですか!!???」
「俺 が 奴 等 を 皆 殺 し に す る か ら だ」
絶句するアルフォンス。全く動じずに何食わぬ顔であっけらかんとヴァルハラを統治する神や天使たちを皆殺すと言ってのけるグレンの表情が余りにも日常的すぎて、アルフォンスは恐怖すら覚えていた。
「(一体この人はどこまで本気なんだ……!!確かに我々は最強と呼ばれる勇者アヴストゥ-ラだ。僕だって生前は向かう所敵なんかいなかったんだ!!でもそれはあくまで人間界の話だ!!魔物や魔王相手だ!!この上位世界そのものを司る悪魔や天使、果ては神々とまともに戦えるわけはない!!僕は知っている。奴等の恐ろしさを!!わかっていないのは初代様の方だ!!)」
グレンは光の矢を構えながらある疑問点を思惑していた。
「(しかしブラックホールだと?妙だな……。ラストアルマゲドンで俺は実に多くの悪魔や天使をぶち殺してきたが、ブラックホールなんてものを使う奴はひとりたりともいなかったぞ……?そもそも何故奴の生存を今の今まで検知できなかった?調べる必要性がありそうだな)」
グギャアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
4枚の翼をはためかせながら、大口を開け、遂にブラックホールの黒球を遂に撃ち放つ悪魔。
ガウディは頭を抱えて絶叫する。
「ひえええええええええええ!!!なんというデカさじゃああああああ!!もうおしまいじゃああああああああああああああ!!!」
オルファンは思惑したのち、自身が使える究極ともいっていい。絶対防御の魔術の印を咄嗟に組み、守護精霊達を契約の途中なかば強引に呼び出す。
「いいぜ!!来るならきやがれええええええええ!!!!出でよ!!守護精霊!!!アルファスト!!ベータレイジ!!ガンマローア!!フォーメーション・デルタネイション!!守護精霊複合結界!!三種守護精霊絶対防壁!!!戦術核をも防ぐ俺の最大精霊魔術防壁だ!!!こいつを抜けられるもんなら抜 け て み や が れえええええええええ!!」
オルファンとソルレリアウスが召喚した3つの守護精霊が、特殊な陣形を組み、絶大な防御力を誇る巨大かつ堅牢な防壁を出現させ、ブラックホールの黒球の直撃を阻む。
物理、魔術攻撃を絶対的に防ぐオルファンの守護精霊防壁は見事という他はなかった。だが、ブラックホールは全てを飲み込む異形の闇が織りなす次元の歪みの波動である。
物理、魔術攻撃とは根本から概念が違う。一瞬ブラックホールの進行が防壁により、とどまるが、その防壁そのものがブラックホールの底知れぬ闇に虫食いのように徐々に、徐々に、削りとられ、飲み込まれていく。
絶望の表情を浮かべ、目の前の想定を覆す事象にただただ恐怖するオルファン。
「こ……こんな……バカなことが……あってたまるか!!!」
守護精霊防壁は防壁の役割を徐々に果たさなくなっている。ブラックホールの黒球が防壁を飲み込みながら進行していく度に激しい重力波がオルファンのソルレリアウス、プルートゥのドラウグ二ィ―ル。ヴィクトルのダークナイトメアの機体そのものを激しく押し潰していく。プルートゥが絶叫する。
「重力波で……身動きが……まるでとれん!!!!!!為すすべなしかあああああああああ!!」
ヴィクトルがそれでも前に出ようとする。
「バカ野郎おおおおおおおおおおお!!最後まで諦めるなああああああ!!まだ何か手をはあるはずだあああああああ!!!」
ヴァルハラでは、グレンが闘気を更に増幅させた光の矢を今まさに投げ放つところであった。
絶叫し制止しようとするアルフォンス。
「初代様のオーラが強すぎて、フィオナさんの結界に亀裂が!!!!初代様!!それを放つと御使い達と全面戦争になります!!それだけは避けなければ!!お……お考えを改め下さい!!!」
一方オルファンは額に大粒の汗を拭き出させながら、
「さっきな……。走馬灯が見えたぜ……!!はははは……。俺は今まで結構な修羅場潜ってきたんだがよお。あんなにはっきり見えたのは今回が初めてかもな……。こいつは……悪魔はヤバ過ぎる……!!今更ながら気づいたぜ……!!今の俺の手に負える奴じゃない……!!策が思いついた……。だがこの策は……。ぐう……!!迷ってる暇なんてない!!!このままじゃ世界が滅ぶ!!!俺の全魔力を使って、このブラックホールごと転移させる!!!どこでもいい!!!できるだけ遠くへ!!!魔対象型空間相転移!!!!」
オルファンの今残っている全魔力を使って、ブラックホールごと、宇宙空間に転移させ事なきを得た。得たには得たが、超時空が織りなす正体不明な次元の歪みの闇そのものを長距離転移させる為ににはオルファンの全魔力が必要となってしまった。
勝機を完全に失ったオルファンは力なく笑う。
「ははははは……!!とんでもねえ事やってのけやがる……!!バカ野郎が……!!ご破算だぜ……!!折角の精霊王の覚醒に使うはずの魔力も全部散ってしまった……!!リチャージに回す残しておいた予備MPもスッカラかんだ……!!これじゃあ肝心のヴェスティアードとの契約が出来ない」
精霊王覚醒の為に召喚された精霊界を司る幽玄の巫女ヴェスティアードは潤んだ悲しそうな瞳をオルファンに向け、契約未完了で静かに虚空に果てに消えていく。
残されたものは、ブラックホールの重力波で、大破寸前のオルファンのソルレリアウスとプルートゥのドラウグニィ―ル、そしてヴィクトルのダークナイトメア。
ブラックホールブレスは阻まれたものの、オルファンたちに絶大なダメージを与えた事は理解できるのか。満面の笑みを浮かべ、勝利を確信した雄叫びを上げる悪魔。
ギャアアアアアアアアアアァァァァァァァアアアアァァァアアアアアアアアァァァァァァス!!!!
オルファンは悟った。これで幕引きだと。もう認めざるを得なかった。悪魔は現世に復活した古の魔神の力は自身の想定を遥かに超えていたのだと。
いかにオルファンたちが英雄足りうる超常の力を秘めていたとしても、手を出すべきではない。異常な存在というものがこの世界に確かにいるということを痛いほど思い知っていた。
死を覚悟し、空を仰ぐオルファン。
「終った……」
つづく
読んで下さってありがとうございました!なおディアボロスは不定期更新です!




