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3話ごーろごろ







アルライラ帝国


人間種こそが至上であると、覇権主義に陥った大陸最強国家である。

ただし、最強にして最優の王がオルファレスに君臨する以前の話ではあるのだが。



彼の国が最強の地位から転落した切欠。

それはオルファレス前王が、大陸における最後の亜人国家を打倒し、自らの版図に加えたことに端を発する。


基本脳筋である前王は、先にも語りはしたが、脳筋であるからこそ全てに平等。

故に人間種から差別される獣人たちが、人間種の国家で平等に、それどころか国家運営にすら携わり、貴族となった。

結果として、虐げられていた大陸中の亜人たちが羨望し、我も我もとオルファレスに集うことになる。




さて、大陸中。


こう言えば、たったひとつの単語で済まされる。

だが、それだけでは済まされないのが現実だ。

亜人という安価な労働力の殆ど多くを、大陸各国は一斉に失ってしまったのだ。

到底許せるものではない。


その災厄を最も顕著に受けたのが、亜人を奴隷階級として酷使していたアルライラ帝国。

都市部の下水清掃に、鉱山での重労働。最も多くが性のサービス。

単体で酷使される亜人も居れば、集落ごと酷使される亜人たちもいた。

故に、亜人が一斉にオルファレスに走るのも、自明の理だったろう。



オルファレス


最強にして最優の王である彼は脳筋だ。



外交問題など深く考えず、それら全てを引き受ける。

無論アルライラ帝国は黙ってなどいなかった。

奴隷は財産。その財産を奪われ黙るなど有り得ないのだ。

大陸最強国家としての威信もある。

故にアルライラ帝国皇帝は、反逆者討伐の勅を発し、直属5千の兵で自ら亜人の集落を攻め立てた。


見せしめの為である。


しかし流石はオルファレス最強にして最優の王か。

それより速く、獣王を供に蹂躙されそうになっていた亜人の集落に駆けつける。

そして戦場に降り立つなり、獣身に変化した獣王の背に跨った。

刀身が3mは超える長大なグレートソードを片手で軽々と扱ってみせた後、切っ先を皇帝に突きつける。



「オルファレスが領土を侵さんとする慮外者が。我が剣の錆となれっ!」



流石に言い掛かりにも程があるだろう!

確かに亜人を虐げ、奴隷の扱いだったのも認める。

しかしだ。この地はアルライラ。けしてオルファレスなどではない!!


皇帝は「脳筋ェ……」と激しく彼を罵り。

だが同時に愉悦する。


これは脳筋を討つ絶好の機会。

脳筋亡き後のオルファレスなど、プロテイン失くしたボディビルダーと同じ。

所詮ボディビルダーなど、実戦では役立たずの見せ筋で、それさえもプロテインがなければまとも筋肉でさえない。


オルファレスも同じだ。

所詮は中程度の国。

現在の強国ぶりはプロテインで作られた見せ筋にしかすぎないのだ。

そう、脳筋さえ居らねば、アルライラの敵に非ず。

なれば直ちに脳筋の首を刎ね、彼の国の領土を蹂躙する。

そして、大陸統一の為の足掛かりとしてやろう。

脳筋の死によって、アルライラは天を掴むのだ!


皇帝は愉悦を浮かべたまま戦鞭の先端を脳筋に突きつける。



「あやつを討てっ! 褒美は思いのままぞっ!」



応っ! と皇帝の言葉に歓声を上げようとする兵達は、しかし─────



「ぶげらっ!?!?」



異音と共に、皇帝の首が、まるで玩具の如くぽ~んと空へ。

血が飛沫き、不吉な色彩の虹を描いた。

そして、自分達の前方、集落の手前で轟然としていたはずの脳筋が、何故か遥か後方で、首のなくなった皇帝の身体を、



「疾く消え失せるのだ、外道っ!」



と、蹴り飛ばしていた。



瞬間移動?

つかどういうこと?



答えの出ない恐怖が兵達の精神の均衡を打ち壊す。

誰が最初か分からない。しかしそれは当然の様に起きる。

原初の感情のひとつ────恐怖に支配された兵士は、いつしか雪崩打って逃げ出す裏崩れ。

しかも、それだけでは済まされなかった。

脳筋の命を予め受けていたオルファレス軍が、颯爽とアルライラとの国境線を破り、一気呵成に帝国領土を侵し始めたのだ。


皇帝を失い、混乱するアルライラ帝国。

すでに亜人の集落が如何こう言ってる場合などではなかった。

当時の皇太子が復讐心を一旦収め、オルファレスとの和平交渉に臨んだ。

既に国土の3分の1を占領されていたアルライラではあったが、



「我に頭を下げ、亜人と、その全ての財産をオルファレスによこせ。なれば、奪った国土をある程度は返してやろう」



屈辱に歯軋りしながらも、頭を下げ実利を取った皇太子は、流石は大国の後継ぎか。

何故ならば、このまま事態が進めば、間違いなくアルライラ帝国は滅んでいたのだから……


こうして、アルライラ帝国の国土の大部分は、突発的に始まった戦争以前まで何とか回復。

しかし、この時受けた屈辱と、父を殺された憎しみを、皇太子……新たなアルライラ皇帝は忘れはしなかった。

これより20年後、30万の兵を持って、オルファレスに奇襲を仕掛けたのだ。

兵力差、及び国力差は10:1では済まされない。

誰もがアルライラ帝国の勝利を予想し、だが脳筋は圧倒的であった。



「オーダー イズ オンリー ワン ただ、滅ぼすのだ」



オルファレス王の命が下る。

人と亜人の連合は、凄まじい勢いで帝国軍を逆撃。

積年の恨みが積りに積もった亜人達の勢いは凄まじく。

脳筋に洗脳された筋肉のしもべ達もまた凄まじい。


国力や兵力で決まるのが戦争だ。

しかし、である。脳筋の前では、そんな常識なんざ無に等しかった。

最初の一戦で敵兵力の3分の1を削り。次の会戦で皇帝の首を刎ねた。

最早敵わぬと潰走する帝国軍を、



「絶望するのはこれからぞ?」



と、追撃し。

そのまま帝都へと殴り込んだ。


こうしてアルライラ帝国の国土は会戦当初の5分の1まで減少し、逆にオルファレスの領土は膨大な拡張をみせた。

国力も同じように逆転。

どころか、亜人達の圧倒的な支持あるオルファレス。

国土の差以上の発展と繁栄をみせ、大陸最強国家と呼ばれるに相応しい力を手にすることになる。



「恐るべしは筋肉かっ。もうどうにもならん。こんなの勝てる訳がねーぜよ」




アルライラ歴411年(オルファレス歴317年)


父の死により登極した幼きアルライラ帝国皇帝(12)は、オルファレス王国の威武(筋肉)に屈服。

奪われた領土を取り返す術もなく、現状を受け入れ和睦を願う。

降伏でなく和睦かと嘲笑するオルファレスであったが、どうしてかその和睦を受け入れ、代わりに多額の賠償金を請求。

屈辱の汚泥の中、幼き皇帝はそれを全面的に受諾────



          帝国は、凋落した。



そして時はアルライラ歴421年(オルファレス歴327年)初頭








10年前の和睦により、ようよう命脈を繋いだアルライラ帝国。

しかし、汚泥の中の命脈など、一体どれだけの価値があろうものか。

大国としての誇りは埃と化し、周辺諸国からの畏怖は侮蔑へと変じた。

絢爛豪華であるべきの皇宮は、多額の賠償金を払うためにうら寂れ。

いっそ滅んでおけば良かったのだと、若き皇帝は自らの境遇に嘆き、憂さ晴らしにと足元に侍る少女の腹を蹴り飛ばす。

少女は苦しげな呻き全てを飲み込み、蹴りの勢いのまま無言で床を転がった。

ここで僅かでも声を漏らせば折檻が倍になる。

少女は永劫の経験から理解していたのだ。


少女の名は────


アルツゥイーラ・メメンテ・グラ=ファブリアーノ



皇帝家により隠された、帝国最後の亜人奴隷である。


少女は痛む腹を押さえながら立ち上がると、荒れる皇帝から距離をとり、冷たい壁に寄り掛かった。

癇癪を起し喚き散らす皇帝の姿をぼ~っと眺める彼女は、まるで蝋人形。

なのに、太陽の欠片の如き美しさだった。


身長は160弱。

腰の位置が高く、ほっそりとした足がとても長い。

床を滑るまで永く伸びた黄金の髪に、透き通った蒼空の瞳。

肌はどこぞのTS少女よりも美しい白磁色。でも胸の膨らみは同じくらいに切ないか。

しかし何より一番最初に目に付くのは、奴隷の証の禍々しい首輪。けして外せぬ呪いの呪具。


その、アルツゥイーラ。

癖なのか、長い耳をピクピクさせる。

すでに心を死なせたアルツゥイーラにとって、最後の感情の発露なのかもしれない。



「なんだとっ!? 真かっ!!」


「はっ! オルファレスの前王。魔の森にて隠棲。護衛もなく、供もひとりとか……」


「……クッ! クハッ!! クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」



皇帝が、歓喜に狂笑した。

いつ見ても、この一族の嗤い方は、きもい。



「いいぞいいぞいいぞっ!! あの脳筋さえ死ねば、オルファレスなど恐るるに足らんっ!」



20年前ならいざ知らず。

今のオルファレスは王が死のうとも決して崩れぬ強さがある。

この程度も分からないのかな? とひそり首を傾げた。



「刺客だっ! 刺客を放てっ! 一人ではないぞ。最低でも3人……いや、4人だっ!! あの脳筋を、必ずや討つのだっ!!」



刺客とは、人を相手にするモノ。

強力な魔獣蔓延る魔の森で活動させたら、死んじゃうよ?

それならまだ、王宮に居た頃の方が成功の可能性は高いんじゃないかな。


アルツゥイーラは、何度も妊娠し、その度に殴る蹴るの暴行の末の堕胎を繰り返して、もう子を孕むことすら出来なくされた腹をゆっくり撫で回す。

そして、静かに目を瞑った。



「はやく、はやく……ほろんでしまえ……ほろんでしまえ……」



小鳥が囀るよりも小さく放たれた不吉な言葉は、誰の耳に届く事無く、喧騒の中に消え去った。



こうして、帝国が終焉する切欠が始まり。


終わりから紡がれる物語の準備もまた、始まった。





アルツゥイーラ・メメンテ・グラ=ファブリアーノ



300年前に滅んだ精霊王国


滅びしハイエルフ最後の王女



祈りも救いもない、そんな、絶望だけの日々を終わらせる


大切な 大切な 全てを捧げるあの人との出会いが────近づいていた






\(^o^)/ ←こいつ?

























\(^o^)/ 状態をしばらく。

寝惚けてた頭も完全に覚醒し、姿見に映った”一目惚れ”した自分に、「はぁ……」と痛々しい息を漏らす。

一目惚れした少女が自分だという事実もそうだが、胸が痛くて痛くてたまらない。

それは自分が自分でなくなったのだと、森の中を彷徨っていた時よりも強く強く理屈でなく感じ取ったからだ。



微笑んでみる。

姿見の中の『わたし』が微笑んだ。


微笑む顔を撫でてみる。

姿見の中の『わたし』が顔を撫でた。



ああ、確かに『わたし』だ。



こうして鏡を通して自分を見ると、ある種の諦めがつくから不思議。

同時に、どこか夢でも見てるような感覚もあるけれど。

例えばそう。MMORPGとか現実にあったら、きっとこんな感じだろう。


自分でない自分。


いわばロールプレイの自分キャラ。


それが今のわたし。今の、オレ。



トリップ直後で文字通りトリップしてテンション高かった森の中で彷徨っていた時と違い。

いっぱい泣いて、眠って、初恋(笑)して、失恋(笑)して、涙目賢者状態だからこそ、少し落ち着いた。

思い出したくないことも、思い出す。

最初に脳裏にパッと浮かんだのは、『喰い殺される瞬間』



「ひっ!?」



恐怖に息を吸いこみ、掠れた悲鳴を小さく漏らす。息が吐けなくなった。

苦しげに体を”く”の字に屈ませ、胸の谷間を右手で掻き毟った。

白い肌に、爪で作った赤い裂傷。

ヒリヒリする痛みが、僅かに恐怖から思考を逸らす。

自傷行為ではある。が、こうでもしないと恐怖で気が狂ってしまいそうだ。


平均的な日本人は、猛獣に食い殺されそうになるなんて耐えられはしない。

恐怖でひゅーひゅーと息を小刻みに吸いこむ。

吐き出せないのに吸いこんで、だから余計に苦しくなった。

でも、この苦しさの止め方が解らない。

目に浮かんだ涙がボロボロと零れ、頬を伝う感触。



ああ、今日は泣くのは2回目だ。



どこか冷静な部分でそう思い。

そういえば、さっき泣いたのは恐怖からだけじゃなく、安堵もあった。

脳裏から消えない猛獣の牙や爪が、すぅっと消える。

溜まりに溜まった息が、自然とハァと吐き出され、耳に残った言葉が再生された。




────ウチのバカが悪さした。すまんかったのぉ



ドクンと心臓が勢い跳ねる。



ってちょっと待て!


初恋が自分で、セカンドラブがマッスル爺とか、そりゃないだろ。第一自分は男で、爺に恋するとかないし。そりゃ、あのマッスルバディは惚れ惚れするけど。それでもトキメクとしたら吊り橋効果みたいなもので。だとしたら、この幼女ボディが生命の危機から救ってくれた筋肉爺を、種の保存的な意味で緊急に求めようとしてるだけで、決して、決して恋したとかないから。ないからっ!


ブンと首を振って有り得ない思考を吹き飛ばす。

だいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶ。

正確に3回そう唱え、落ちつけようと目をきょろきょろ。

きょろきょろしてる事態が落ち着いてない証拠。

なんて気づくこともなく。

姿見に映った自分の姿が再び目についた。


ナルシーな初恋なんてやらかした、白磁の肌の可愛い美少女だ。

その白磁の肌が、全身余すとこなく赤く染まってた。

まるで恋する乙女である。



って! やばい、ふざけんな、なんだそりゃ!?



銀糸の髪を乱暴にガリガリ掻いて、「うがぁー!」と喚く



「おれはおとこだからおれおとこだからおれおとこだからこいするにしてもじじいはないしおれのしゅみはロリでいいからじじいはないってほんとまじゆるしてくださいおねがいします。でも、一喝でトラさんを退けたのは格好よかったよね、あのおじいさ……いや、ちょっとまていまなにいいそうになったはやまるなふみとどまれっ!!」



止まらない思考の迷路。

なんとか食い止めようと、そうじゃないんだと、誰かに言い訳しながら固いベッドの上をゴロゴロ転がった。

と、その時。唐突にガチャリと固い音が部屋に響く。


へ? と思いながら音のした方を見れば、



「起きたかの?」



そこに居たのは上半身がまっぱな蛮族……もとい筋肉なお爺さん。

お爺さんはごろごろ転がってた裸の『わたし』を見て、「ふむ」と頷く。

視線が足の爪先から頭の天辺までゆっくり流れ。



「元気なようで良かったわい」



わたしの顔が赤くなった。

もちろん、さっきとは違う意味で。



\(^o^)/



















注!


この物語に  百合  はありません。

この物語に 逆ハー はありません。

あくまで 筋肉爺×TS少女 の よくある 極 々 普 通 の物語です。


あと、次回からは序盤の面倒臭い世界設定とかないから。

世界観と周辺情報は一応出そろった。


あと、はいえろふはひんぬーが正義(キリッ!





次の更新は……リィアちゃんになりそう

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