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D級解体士、魔獣の力を喰らう~素材を残すか、力に変えるか~  作者: ふゆ夜熊
C級個人審査

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46/48

4人の食卓

試験結果が出た翌日、ユアンは昼前の市場で待ち合わせの相手を探していた。露店の布屋の前では色とりどりの布が風に揺れ、魚屋からは塩と川の匂いが漂ってくる。通りの奥で、金茶色の頭が人混みより少し高い位置を動いているのが見えた。

「ユアン! こっちだ」

ロイドが片手を上げた。今日は鎧を脱ぎ、動きやすい茶色の上着に短い革の外套を羽織っている。隣には淡い金髪を束ねたミレイと、いつも通りきちんとした装いのバシュがいた。

「俺が最後か?」

「時間ぴったりです」

ミレイが答える。

「ロイドが早すぎるんです」

「楽しみだったからな」

ロイドは笑い、ルゥへ目を向けた。

「お前も来たのか」

「食事の席で俺を外す理由がない」

「確かにな」

ユアンは何も言わず、ルゥの頭を軽く撫でた。本人は狼の誇りを大切にしているが、肉のある場所なら誰より熱心についてくる。

4人で食事をすることになったのは、個人審査が終わった時のロイドの一言だった。実地試験では同じ班で数日間行動する。顔と武器を知っているだけでは足りないから、飯でも食いながら話そうという。最初は単なる気晴らしだと思ったが、ユアンにも異存はなかった。

「市場なら俺が案内するよ」

ユアンが言うと、ロイドが大げさに頭を下げる。

「地元の案内人がいるのはありがたい」

「高い店は無理だぞ」

「そこは安心しろ。俺も金はない」

ミレイが控えめに笑った。

「それなら、好きなものを買って広場で食べませんか?」

「いいな」

バシュが頷く。

「食事を選ぶ時間も短くて済む」

「何でも効率で考えるなよ」

ロイドが言う。

「時間をかけたいなら、あとでゆっくり話せばいい」

真面目な返事に、ユアンは思わず笑った。バシュの計画好きは、話していると堅苦しいというより少し不器用なところがある。

最初にルゥが足を止めたのは、串焼き肉の屋台だった。主人が炭火の上で肉を返すたび、脂が弾けて香ばしい匂いが広がる。

「ここがいい」

「ほかも見よう」

「これ以上うまそうなものがあるのか」

「知らないから見るんだよ」

ルゥは納得しなかったが、ユアンの後をついてきた。

ミレイは香草と豆を薄いパンへ包む屋台を選び、バシュは山羊乳で煮込んだ根菜の鍋を見つけた。ロイドは結局、串肉を4本買う。ユアンは肉と焼き野菜を挟んだパンを手に取り、最後にルゥの分を別に注文した。

「飼い主は大変だな」

ロイドが言った瞬間、ルゥが顔を上げた。

「飼い主ではない。俺はユアンの相棒だ」

「そうだったな。悪い」

ユアンは少し笑った。

「こいつ、言葉遣いは偉そうだけど食費は俺持ちなんだ」

「友好関係における分担だ」

「ずいぶん片寄ってないか?」

広場の低い石垣へ腰を下ろすと、風が昼の熱を運んできた。市場の中央では旅芸人が弦楽器を爪弾き、荷運び人たちが休憩している。いつものパナリアなのに、試験のために集まった3人と並んでいると、少し別の街に見えた。

「ロイドはずっと槍なのか?」

ユアンが尋ねた。

「ああ。若い頃は剣も使ったけど、長い街道護衛じゃ槍が便利だった。荷車を挟んで敵を止められるからな」

「荷車の近くじゃ長すぎない?」

「そこは短く持つ。剣の方が便利な場所もあるけど、俺には槍の方が合ってた」

ユアンは模擬戦での柄の扱いを思い出した。あれは訓練だけで身につけた動きではない。実際に荷車の横で敵を止め、何度も危険を越えてきたから身体へ染みついたのだろう。

「去年の試験、どうして失敗したんだ?」

聞いてから、少し踏み込みすぎたかと思った。しかしロイドは嫌な顔をしなかった。

「俺が隊長だった区間で、C級の魔獣を追ったんだ。追えば倒せそうだったし、素材も高かった。でも道を外れて、後ろの荷車を危ない場所に置いた。倒せたとしても、仕事としては駄目だったな」

「結局倒したのか?」

「いや。仕留めきれず戻った。俺の判断で時間を無駄にしただけだった」

ロイドは串肉を噛み、苦笑した。

「今なら撤退するつもりだ。でも実際に目の前へ出たら、また欲が出るかもしれない」

ユアンは頷いた。自分にも似たところがある。少し前なら、珍しい魔獣を見ると能力を増やす可能性ばかり考えていた。高い素材へ目が向くこともある。今でも欲がなくなったわけではない。

「欲が出ないようにするのは難しいな」

「だろ? だからお前が止めてくれ」

「隊長がお前ならどうする」

「止めろって言っていい」

即答に、ユアンは笑った。その言葉を本当に守れるかは分からないが、言えるだけでも違うのだろう。

ミレイは食事を終えると、広場の樹木を見上げた。

「私は森での仕事が長いです。でもずっと森に住んでいたわけではありません」

「エルフって皆、森にいると思ってた」

ロイドが言う。

「よく言われます。親戚は別の都市で染物屋をしていて、私も子供の頃は街に住んでいました」

「じゃあ、何で斥候に?」

「小さい頃から遠くのものを見るのが得意だったんです。森を歩くのが好きだったのもありますけど、初めて危険な動物を見つけた時に、自分の声で皆が引き返したんです」

ミレイは少し照れたように笑った。

「誰かを倒したわけじゃないのに、役に立てたのが嬉しかったんでしょうね」

ユアンはその気持ちが分かる気がした。獲物を倒す人間だけが仲間を助けるわけではない。足跡を読む者や退路を探す者がいるから、戦う前に危険を避けられる。

「近づかれた時は苦手だって言ってたな」

「そうです。視界が広い場所なら先に気づけますけど、狭い通路へ追い込まれると弓を使う余地がなくなります」

「俺が近くにいたら援護するよ」

ユアンが言うと、ミレイは静かに頷いた。

「その時は、近づいてくる前に知らせます」

隣でバシュが椀を置いた。

「俺は見えない場所の敵が嫌だ。盾で守る位置が決められなくなる」

「じゃあミレイに先に見てもらえばいい」

ロイドが言う。

「そうだな。ただし、何分先まで安全かは別の問題だ」

バシュは真剣だった。ユアンは彼へ向き直る。

「バシュは元々、どんな仕事をしてた?」

「石工の下働きだ。その後、補修隊の護衛に入った。石橋や街道を直す間、作業員を守る必要があった」

「だから荷物と道の話に詳しいのか」

「橋は壊れれば直すのに何週間もかかる。人が死ねば、もっと長く残るものがある。だから準備を怠りたくない」

少し意外だった。バシュが確認に時間をかける理由は、単なる几帳面さではない。失敗した時に誰が困るかを知っているからだ。

「でも試験官からは、遅いって言われた」

バシュはぽつりと言った。

「確認している間に状況が変わることもある。頭では分かるが、納得する前に動くのが難しい」

「俺も似たところがあるよ」

ユアンが答える。

「何をするかは分かっても、仲間へ説明するのが遅い」

ロイドが笑った。

「つまり全員、どこか抜けてるわけだ」

「それは少し乱暴です」

ミレイが笑う。

「でも、違うところが得意なんですね」

ユアンはパンの最後のひと口を食べた。自分には解体の知識がある。ロイドには槍があり、ミレイには森を見る目があり、バシュには防衛と準備の経験がある。これだけ違う者同士でひとつの任務を遂行するなら、誰かが万能である必要はない。ただ、互いに何ができるかを知らなければ、その強みを使えない。

ユアンも自分の話をした。最初に魔獣を解体した時、皮を残すことばかり考えて内側の腺を傷つけ、使える部分まで駄目にしたことがある。素材商にひどく叱られたが、その商人は捨てた部位を並べ、どこを先に切るべきだったか教えてくれた。

「俺、当時は怒鳴られたことしか覚えてなかったんだ。でも後から考えると、あの人は正しいことを言ってた」

「今ならその皮も取れるのか?」

ロイドが聞く。

「たぶん。やり直せるならな」

「失敗を繰り返せない仕事って難しいですね」

ミレイが言った。

「森でも同じです。見逃した足跡は、雨が降ったら戻りません」

バシュが静かに頷いた。

「橋が崩れた後からでは、支柱を足しても遅い」

ユアンは3人を見た。失敗の種類は違うが、皆、自分の手では戻せないものを扱ってきたのだ。だからこそ次の失敗を減らそうとしている。その点では、自分たちは思っていたより似ているのかもしれない。


食後、4人は市場の道具屋へ寄った。バシュは荷締め紐の強度を確かめ、ミレイは弓弦へ塗る油を選ぶ。ロイドは槍の柄に巻く革紐を見せてきた。

「これ、滑りにくそうだと思わないか」

「俺は槍の柄には詳しくない」

「じゃあ剣の柄なら?」

「汗をかいた時に硬くなる革は避けたいな」

ロイドは納得し、違う革を手に取った。知らないことは知らないと言っても、嫌な顔をされない。ノアに言われた当たり前のことが、少しずつ身についている。

屋台の外へ出ると、ルゥが肉屋の前で立ち止まった。

「もう1本買っていこう」

「お前、さっき食っただろ」

「野外試験の前に栄養を蓄える必要がある」

「何日分蓄えるつもりだ」

「できるだけだ」

ロイドはまた笑った。ミレイも、バシュでさえ口元を緩めている。

別れ際、ロイドが握手を求めた。

「野外ではよろしく頼む」

「こちらこそ」

ユアンが握り返すと、ミレイとバシュも頷いた。

「互いにできることを言い合いましょう」

ミレイが言う。

「まずは装備と補給の分担を決めたい」

バシュが続けた。

「明日、組合で打ち合わせをしよう」

ユアンは3人を見送った。試験を受けるだけなら、こうして一緒に昼食を取る必要はなかったはずだ。それでも今は、次の野外任務が少し楽しみに思える。昨日までロイドの槍を思い出すと悔しかった。今日も悔しいが、今度はあの槍が味方の前へ出てくれることを頼もしく感じている。

「よい仲間か?」

ルゥが聞く。

「まだ分からない。でも、そうなれそうだ」

「肉を分ける男は信用できる」

「お前の判断は簡単だな」

「難しく考えすぎるな」

笑いながら歩き出すと、夕方の街には焼きたてのパンの匂いが戻っていた。ユアンは鞄の中の小さな手帳へ、今日聞いた3人の得意な仕事と苦手な場面を書き留めた。次に何を聞けばいいか、もう少し考えてみたかった。

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