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D級解体士、魔獣の力を喰らう~素材を残すか、力に変えるか~  作者: ふゆ夜熊
力の使い方

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21/48

サンダーバード

ガルドとの模擬戦から4日後、ユアンはパナリア東部の岩丘陵にいた。

街道から外れた荒れ地には黒い岩山が連なり、その上空を青白い光が何度も走っている。雷をまとった大型鳥類が旋回するたび、乾いた空気が焦げた匂いを運んできた。

「4羽」

ルゥが空を見上げる。

「見えてる」

ユアンも目を細めた。

相手はC級《サンダーバード》で、翼を広げれば3メートルを超え、嘴の根元にある発電器官から強い電気を放つ。通常は単独か番で縄張りを持つ魔獣だが、今回は少なくとも4羽が同じ岩丘陵周辺へ集まり、荷馬車を襲っている。

組合は街道封鎖を避けるため、複数班をまとめて討伐隊を組んだ。

その中心に立っていたのがフィア・レイゼンだった。明るい栗色の短髪が岩風に揺れ、小柄な身体には軽量の魔術外套をまとっている。琥珀色の目は上空を忙しく追い、右手には短い魔導杖を握っていた。以前顔を合わせた時と同じく、黙っていれば可憐に見えるが、口を開けば印象はすぐ変わる。

「そこ、ぼーっとしない!」

ユアンが顔を向ける。

フィアはユアンを見つけて眉を上げた。

「あ、変な動きするD級」

「その覚え方やめろ」

「じゃあ名前」

「ユアン」

「知ってる」

「知ってるなら最初から呼べ」

フィアは笑い、すぐ空へ視線を戻した。

少し離れた位置ではガルドが地上班と合流している。大型弓を持つ傭兵と、岩場へ降りた個体を仕留める役目らしい。ユアンとルゥは街道側の抜け道を塞ぐ補助に回された。

「俺たちは逃げたやつを止める」

ユアンがルゥへ言う。

「最初から空へ行けば早い」

「飛べるのか」

ルゥが黙る。

「なら地上で待て」

「そのうち飛ぶ」

「勝手に能力増やすな」

討伐開始の合図が上がった。

フィアが杖を振る。

青白い雷光が1本、空へ伸びた。

サンダーバードが急旋回して避ける。

だが雷はそこで終わらなかった。フィアが手首を返すと、光の筋が途中で枝分かれし、別方向から2羽目へ迫る。

ユアンは思わず目を追った。

魔獣スキルとは違う。

射程も形も、その場で変わる。

1羽が高度を下げれば地面近くへ雷を這わせて上昇を強制し、2羽が重なれば出力を絞った雷を間へ通して進路を分ける。倒すだけではなく、空そのものを狭くしていた。

「器用だな」

「人間の魔法だ」

ルゥが言う。

「知ってるのか?」

「見れば分かる」

「どこまで分かる」

「それ以上は聞くな」

少し離れた岩棚で爆音が響いた。ガルドの班が1羽を地上へ追い込み、複数人で囲んでいる。

残る3羽のうち1羽が大きく鳴いた。

直後、フィアの雷が右翼へ直撃する。

羽毛が弾け、焦げた破片が散った。

サンダーバードは高度を落としたが、墜落まではしない。そのまま街道側の低い谷へ逃げようとする。

「そっち行った!」

フィアの声が飛ぶ。

次の雷撃が胸部へかすめる。

今度こそ姿勢が崩れた。

サンダーバードは岩壁へ肩をぶつけ、地面を滑るように不時着する。

「落としたけど、まだ生きてる!」

フィアはすぐ別の2羽へ向き直った。そちらを放置すれば討伐隊全体が危ない。

ユアンはルゥと走る。

岩陰を回ると、サンダーバードが片翼を引きずりながら立ち上がるところだった。右翼の羽毛は焼け、胸にも黒い火傷がある。

それでも黄色い目は死んでいない。

嘴の根元に青白い光が集まる。

「手負いだな」

ルゥが言う。

「手負いでもC級だ」

ユアンは指輪の状態を確認した。すぐ使えるのは《瞬駆》《気配希薄》《硬化》の3つだ。

「ルゥ、右から。速さは使うな」

「なぜだ」

「俺が必要になる」

「俺も必要かもしれん」

「なら先に言え」

「面倒だな」

文句を言いながらも、ルゥは普通の脚で右へ回った。

サンダーバードから青白い光が弾けた。

ユアンは横へ飛ぶ。

放電が地面へ走り、足元の石が破裂した。

次が来る。

ルゥが右から吠える。

サンダーバードの視線がほんの瞬間だけそちらへ向いた。

ユアンは岩の陰へ入り、《気配希薄》を使う。完全に消えるわけではない。それでも、1度視線を切った相手を探すには時間がかかる。

サンダーバードが首を振る。

その間に左へ回る。

フィアの雷で傷ついた翼側だ。

「そこだ」

ルゥが正面へ飛び込んだ。

サンダーバードが嘴を振る。

ルゥはぎりぎりで退く。

青白い電気が再び集まった。

今度はルゥが近すぎる。

「下がれ!」

ユアンは《瞬駆》で懐へ入った。

サンダーバードが反応し、放電の向きを変える。

避け切れない。

左前腕だけ《硬化》する。

青白い光が腕から肩へ抜けた。

「っ!」

硬くした皮膚も筋肉も、電気そのものは止めなかった。

指先が勝手に曲がり、剣を落としかける。

足の反応もほんの瞬間だけ遅れた。

サンダーバードが迫る。

ルゥが横から体当たりし、軌道をずらした。

「何をしている!」

「助かった!」

ユアンは痺れた左腕を下げ、右手で剣を握り直した。

硬さだけでは防げないのなら、次は受けない。

サンダーバードは飛べなく火傷で弱っているとはいえ、正面から押し切れる相手ではない。

ユアンは翼の付け根を見る。

フィアの雷撃で羽毛が焼け、皮膚が露出していた。

そこから胸郭の位置を考える。

解体台なら何度も刃を入れた角度だ。

「ルゥ、正面」

「また囮か」

「嫌なら俺がやる」

「俺がやる!」

ルゥが低く走る。

サンダーバードが嘴を振り下ろす。

ルゥは直前で横へ外れた。

嘴が地面へ突き刺さる。

ユアンは待っていた。

《瞬駆》で傷ついた翼側へ入る。

剣を翼の付け根の下へ差し込む。

抵抗が強い。

角度を少し上げる。

サンダーバードが暴れた。

嘴の根元が再び光る。

近すぎる。

逃げれば剣が抜ける。

ユアンは歯を食いしばり、刃をさらに押し込んだ。

放電が肩から背へ抜けた。

筋肉が勝手に震える。

それでも右手だけは離さない。

手応えが変わった。

胸の奥へ刃が届く。

サンダーバードが大きく身体を反らし、そのまま力を失った。

ユアンはすぐ剣を抜かず、呼吸と瞳の反応を確認する。

数秒後、討伐証票が淡く光った。

そこで初めて剣を抜く。

膝が少し揺れた。

「平気か」

ルゥが近づく。

「痺れてる」

「弱いな」

「お前は雷受けてないだろ」

遠くの雷鳴が止んだ。

しばらくしてフィアが岩場を駆けてきた。

倒れたサンダーバードを見て、次にユアンの焦げた袖を見る。

「あ、それ私が落としたやつ」

「かなり弱らせてもらってた」

「でしょうね。あれ、私の雷まともに受けてたし」

「それでも危なかった」

フィアは少しだけ表情を緩めた。

「ならまだ正常な感覚ね」

彼女はサンダーバードへしゃがみ、翼と胸の傷を確認した。

「私のは致命傷じゃない。最後はその剣?」

「ああ」

「胸まで入ってる。よく手負いのC級に近づいたわね」

「飛べないうちにやるしかなかった」

フィアは剣傷へ指先を近づけ、焼けた羽毛との位置関係をもう1度見た。

「これ、私が落とさなかったらどうしてた?」

「逃げてたと思う」

「即答なのね」

「飛べるC級を俺とルゥだけで追い回すのは無理だ。地上に落ちて、片翼が死んで、それでもこれだけ危なかった」

フィアは少しだけ満足そうに頷いた。

「ならいい。手負いを倒したことと、万全のC級を普通に倒せることは別だから」

「分かってる」

ユアンも自分の焦げた袖を見る。勝てた理由を間違えれば、次は同じ相手に殺される。フィアが空から落とし、飛行能力を奪った。その条件があって初めて、解体知識と《瞬駆》を届かせることができた。

「自分が電気食らってたら意味ないけど」

「それは反省してる」

「本当に?」

「たぶん」

「してない顔」

討伐隊が残りの個体を処理する間、ユアンは契約票を確認した。この個体は討伐証票上ユアンの討伐として記録されており、フィアは隊全体の固定報酬契約だ。

それでも確認しておく方がいい。

「フィア。この個体、俺の処分でいいんだよな」

「討伐判定はあなた。私は固定報酬だからいいけど」

「分かった」

ユアンがサンダーバードへ手を置く。

フィアが首を傾げた。

「……何するの?」

「核にする」

「これを?」

声が少し高くなった。

「ああ」

「待って。雷羽も残ってるよね?」

「残ってる」

「魔核も?」

「たぶん無事」

フィアはサンダーバードとユアンを交互に見る。

「それ全部消すの?」

「ああ」

「あなたの《スキル核作成》って、死体を核にすると全部なくなるんでしょ?」

「よく知ってるな」

「同行者の登録情報くらい見るわよ。それに作った核も長く残らないって書いてあった」

「そうだな」

「じゃあ、何で?」

ユアンは少しだけ間を置いた。

「試したいことがある」

「何を?」

「まだ言えない」

フィアの目が細くなる。

「……怪しい」

「否定はしない」

「そこは否定しなさいよ」

ユアンは《スキル核作成》を使った。

大きな身体が淡い粒子へ変わり、焼けた羽も、鋭い嘴も、魔核も、血もすべて消えていく。最後に透明な核だけが地面へ残った。

フィアはしばらく無言だった。

「私なら絶対売る」

「俺も少し惜しい」

「少しなのが余計に怪しい」

ユアンは核を革袋へしまった。

フィアの視線が袋へついてくる。

「それ、本当にただ消えるだけの石?」

ユアンは答えなかった。

フィアもそれ以上は聞かなかったが、納得していないことだけは顔を見れば分かった。

その日の帰還後、ユアンは人目のない部屋でルゥに見張らせ、核を指輪へ吸収させた。

細い刺激が指先から腕へ走る。

頭の奥に新しい名が浮かび、それが《電流》だと分かった。

ユアンが指先へ意識を集めると、ほんの小さな青白い火花が弾けた。

ルゥが鼻を近づける。

「弱い」

「最初から大雷撃が出ると思うな」

「フィアの方が強かった」

「比べる相手が悪い」

ユアンはもう1度だけ火花を出した。

小さい。

だが、指先へ走った感覚はサンダーバードから受けたものとよく似ていた。

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