8話.再会と混乱
眩しかった。
強い日差しが目に入る。
思わず顔をしかめる。
耳に聞こえる声。
風の音。
土を踏むスパイクの感触。
どこか聞き覚えがあった。
俺はゆっくり目を開く。
青空だった。
雲が流れている。
そして目の前には河川敷。
草野球場。
見慣れたグラウンド。
「……戻った?」
思わず声が漏れる。
頭が真っ白になる。
俺は立ったまま周囲を見回した。
大人だった。
身体も。
手も。
景色も。
全部。
小学生じゃない。
現代だった。
「おい、どうした?」
チームメイトの声で我に返る。
ユニフォーム姿の男が不思議そうに見ている。
「顔色悪いぞ」
「いや……」
言葉が出ない。
ついさっきまで。
本当についさっきまで。
俺は小学校四年生だった。
体育の授業だった。
ソフトボールだった。
フォアボールだった。
そして――
戻った。
今度は未来へ。
現代へ。
俺はベンチに腰を下ろす。
心臓がうるさい。
頭が整理できない。
結局何なんだ。
フォアボールで過去へ行く。
フォアボールで未来へ戻る。
意味が分からない。
考えても答えは出なかった。
この間、長く続いて欲しいとかいってこれかよ。
フラグ回収しまくりですか、そうですか。
「次、四番!」
呼ばれる。
顔を上げる。
四番。
俺だった。
仕方なく立ち上がる。
打席へ向かう。
するとマウンドから声が聞こえた。
「久しぶりだな」
聞き覚えのある声だった。
俺は振り向く。
そして固まる。
そこにいたのは。
小学校の頃のライバルだった。
転校生。
同じチームで一緒だった男。
小学校卒業以来かもしれない。
少なくとも十年以上会っていない。
「……久しぶり」
向こうが笑う。
「相変わらず四番なんだな」
違和感。
その言葉だった。
俺は首を傾げる。
「相変わらず?」
「あ?」
「お前の方が四番だったろ」
ライバルがぽかんとする。
数秒。
それから吹き出した。
「何言ってんだお前」
「は?」
「昔からお前が四番だったろ」
主人公の心臓が止まりそうになる。
違う。
そんなはずはない。
記憶では違う。
絶対に違う。
ライバルの方が打っていた。
ライバルの方が注目されていた。
だから四番だった。
そう記憶している。
だがライバルは続ける。
「選抜でもずっと四番だったじゃねえか」
「選抜……?」
「俺ら二人で無双してたろ」
笑いながら言う。
まるで当たり前の話みたいに。
「市選抜も」
「県大会も」
「お前ホームラン打ちまくってたし」
「監督めちゃくちゃ喜んでたじゃん」
意味が分からなかった。
そんな記憶はない。
ないはずだ。
でも。
チームメイトは普通に頷いている。
「あー懐かしいな」
「小学校の時は二人とも化け物だったよな」
「お前らのチーム強かったもんな」
みんな知っている。
知らないのは俺だけだった。
背筋が冷える。
ライバルは冗談を言っている顔じゃない。
本気だ。
本気でそう思っている。
つまり。
過去が変わっている。
俺がタイムリープしたことで。
俺の知らない歴史になっている。
そして。
その記憶を持っていないのは。
俺だけだった。




