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5話.懐かしさと考察

目を開いた瞬間、天井を見てため息をついた。


「…またか」


驚きより先にそんな言葉が出た。


前回は混乱したし夢かもしれないと思った。


だが二回目だ。


もう否定できない。


俺はまた小学校四年生になっていた。


布団の中でしばらく天井を見上げる。


さっきまで河川敷で草野球をしていたはずだった。


三振。


デッドボール。


フォアボール。


そして――。


そこまで思い出したところで考えるのをやめた。


どうせ答えは出ない。


昨日までに何度も考えた。


それでも分からなかった。


俺は布団から起き上がった。


窓の外は快晴だった。


鳥の鳴き声が聞こえる。


遠くから車の音も聞こえた。


全部懐かしい。


ついでに月曜日だった。


二十年以上前の景色なのに、昨日までそこにいたみたいだった。


「起きてるー?」


一階から母親の声が聞こえる。


「起きてるー」


自分でも驚くくらい高い声だった。


洗面所へ向かう。


鏡を見る。


やっぱり小学生だった。


何回見ても慣れない。


朝食の席には父親がいた。


新聞を読んでいる。


味噌汁の湯気が立っている。


テレビでは朝の情報番組が流れていた。


何気ない朝だった。


昔なら何も感じなかっただろう。


でも今は違う。


この景色をもう一度見られるとは思っていなかった。


「ぼーっとしてどうした」


父親が聞く。


「別に」


「寝ぼけてるな」


そう言って笑う。


俺も笑った。


それ以上は何も言えなかった。


学校へ向かう。


ランドセルを背負う感覚も懐かしかった。


軽い。


身体も軽い。


走ればどこまでも行けそうだった。


教室へ入る。


友達が騒いでいる。


ゲームの話。アニメの話。昨日のテレビの話。


みんな楽しそうだった。


今ならタバコを咥えてスマホを見ている時間だろう。


でもこの頃は違う。


話すのが当たり前だった。


休み時間になれば外へ出る。


それも当たり前だった。



四時間目が終わる。



昼休みのチャイムが鳴った。


給食の時間だ。

メニューはパンにアルファベットのよくわからんのが入っているミネストローネとお決まりの牛乳。


…うまい。


再度チャイムが鳴る。


その瞬間、教室が騒がしくなる。


「サッカーやろうぜ!」


「行こう行こう!」


既に給食を食べ終えた男子たちが一斉に立ち上がった。


もちろん俺も既に食べ終わっていた。


「お前もやるだろ?」


食べ終えていた俺を見た同級生に声を掛けられる。


少し迷った。


当時の俺なら間違いなく先陣を切って走っていたやつらの中にいただろう。


でも今日は別のことが気になっていた。


「先行ってて」


「珍しいな」


友達は不思議そうな顔をしたが、そのまま走っていった。


教室にはほとんど誰もいなくなる。


窓際の席に座り、校庭を眺めた。


みんな楽しそうだった。


サッカーボールを追い掛けている。


大声で笑っている。


その光景を見ながら考える。


また戻った。


二回目だ。


偶然じゃない。


それだけは分かる。


問題は理由だった。


野球をしていたからか?


試合だったからか?


一塁へ出たからか?


フォアボールだったからか?


頭の中で並べてみる。


でも分からない。


二回とも野球だった。


二回とも試合だった。


二回ともフォアボールだった。


二回とも一塁へ歩いた。


共通点が多すぎる。


答えを絞れない。


そもそも考え方が間違っている可能性だってある。


俺はため息を吐いた。


結局、分からないものは分からない。


今は小学生だ。


それだけだった。




そして土曜日。


中学の部活と違って少年野球は土日しかない。

慣れない子供の身体にも一週間かけてようやく慣れてきた。


野球の練習へ向かう。


グラウンドへ着くと、いつもの仲間たちが集まっていた。


監督もいる。


前回も見た景色だった。


でも今は少しだけ気持ちに余裕がある。


状況を理解しているからだ。


練習が始まる。


ノック。


打球が飛ぶ。


身体が勝手に動く。


落下地点が分かる。


どこへ走ればいいか分かる。


中学三年間で覚えた感覚が残っていた。


「ナイス!」


監督の声が飛ぶ。


周りも驚いている。


俺自身も少し笑ってしまった。


野球IQだけ大人のままなのだから当たり前だった。


バッティング練習が始まる。


順番が回ってくる。


初球。


甘い球だった。


打てる。


そう思った瞬間に身体が突っ込んだ。


打球は高く上がる。


レフトフライ。


「あー……」


思わず苦笑する。


打てる球だった。


完全な打ち損じだった。


野球はそう簡単じゃない。


二球目。


今度は引っ掛けた。


セカンドゴロ。


ベンチから笑い声が聞こえる。


「今日はダメだなー!」


「うるせぇ」


笑いながら返した。


そして三球目。


少し高め。


身体が自然に反応する。


快音が響いた。


打球は右中間へ一直線に飛んでいく。


誰も追い付けない。


そのままフェンスまで転がった。


三塁打。


グラウンドがざわつく。


「飛びすぎだろ!」


「マジかよ!」


俺も少し驚いていた。


打ち損じもする。


凡打もする。


それでも結果は出る。


これが今の自分だった。


練習が終わる頃には空が赤く染まっていた。


グラウンドに長い影が伸びる。


みんなで帰り支度を始める。


友達が笑いながら言う。


「最近めっちゃ打つじゃん」


「たまたまだよ」


「絶対嘘だろ」


また笑い声が上がる。


帰り道を歩きながら空を見る。


不思議だった。


現代へ戻りたいかと聞かれたら分からない。


仕事もあるし生活もある。


でも今は。


今だけは。


この時間が終わってほしくなかった。


野球がある。


友達がいる。


家族がいる。


失ったと思っていた時間がここにはあった。


俺は夕焼けの空を見上げながら歩き続けた。


タイムリープの謎も。


未来のことも。


今は少しだけ忘れていた。


ただ野球が楽しかった。


それだけで十分だった。

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