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13/16

13話.レギュラー


土曜日だった。


朝からグラウンドは賑やかだった。


五年生だけでも人数が多い。


試合に出られるのは九人。


当たり前だが全員は出られない。


レギュラー。


補欠。


子供ながらに、その言葉には特別な意味があった。


練習前。


監督が試合のスターティングメンバー所謂スタメンを発表している。


名前を呼ばれたやつ。


呼ばれなかったやつ。


喜ぶやつ。


悔しそうなやつ。


いろんな顔があった。


昔の俺はこの時間が嫌いだった。


自分の名前が呼ばれるかどうか。


そればかり気になっていた。


もし外されたらどうしよう。


打てなかったらどうしよう。


エラーしたらどうしよう。


そんなことばかり考えていた。


でも今は少し違う。


もちろん試合には出たい。


出たくないわけじゃない。


だけど前ほどじゃなかった。


呼ばれなかったやつの気持ちも分かるからだ。


実際、俺は大人になってから知った。


どれだけ野球が好きでも。


どれだけ頑張っても。


全員が活躍できるわけじゃないことを。


「ショート」


監督が名前を呼ぶ。


ライバルだった。


当然だった。


本人も特に嬉しそうな顔はしない。


当たり前みたいに返事をする。


「はい」


それだけだった。


俺は少し笑う。


普通もっと嬉しそうにしろよ。


そう思う。


でもあいつは昔からそんな感じだった。


淡々としている。


試合に勝っても。


ヒットを打っても。


ホームランを打たれても。


大騒ぎしない。


良くも悪くも落ち着いている。


小学生らしくない。


試合が始まる。


俺はスタメンだった。


第一打席。


センターフライ。


第二打席。


レフト前ヒット。


悪くない。


でも完璧でもない。


ベンチへ戻る。


すると補欠のやつが言った。


「ナイスバッチ!」


「ありがと」


自然に言葉が出た。


昔の俺ならたぶん違った。


試合に出ていないやつと話す余裕なんてなかった。


自分のことで精一杯だったからだ。


試合は続く。


ライバルがショートゴロを処理する。


難しくはない。


でも確実だった。


一歩目が速い。


捕球も安定している。


送球も正確。


派手なプレーじゃない。


だけど安心感があった。


見ていて不思議になる。


なんでだろうな。


キャッチボールの時も思った。


こいつは誰とでもやる。


上手いやつとも。


普通のやつとも。


下手なやつとも。


自分より下手だから避ける。


そういう考えが全然ない。


前の俺とは真逆だった。


試合後。


みんなで道具を片付ける。


負けたわけじゃない。


勝ったわけでもない。


引き分けだった。


子供たちはすぐ次の話を始めている。


ゲーム。


アニメ。


お菓子。


野球よりそっちの方が大事そうなやつもいる。


それが普通だ。


小学生なんだから。


「なあ」


ライバルが声をかけてきた。


「ん?」


「明日も試合だな」


「ああ」


「楽しみだな」


本当に楽しそうに言う。


こいつは絶対主人公かなんかだろ。


俺は少し考えた。


昔の俺はどうだっただろう。


試合を楽しみにしていただろうか。


たぶん違う。


打てるかどうか。


失敗しないかどうか。


そんなことばかり考えていた気がする。


お前が主人公で俺がモブ。


「そうだな」


俺が答えると、


ライバルは笑った。


それだけだった。


帰り道。


自転車を押しながら考える。


不思議だった。


野球は同じはずなのに。


見える景色が違う。


前の人生では見ていなかったものが見える。


ベンチのやつ。


補欠のやつ。


仲間のプレー。


ライバルの考え方。


全部だ。


タイムリープしてから変わったのか。


それとも。


大人になってから戻ったからなのか。


分からない。


ただ一つだけ言えることがある。


今の野球は楽しい。


前よりずっと。


そして。


その中心には、いつもあいつがいた。

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