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11話.前を守る天才


転校生が入団してから二週間ほどが過ぎた。


結論から言うと。


こいつは想像以上だった。


上手いとは思っていた。


昔の記憶でもそうだった。


現代で再会した時もそうだった。


だが実際に毎週同じグラウンドでプレーすると分かる。


上手いという言葉では足りない。


そうとしか言いようがなかった。


土曜日。


守備練習。


俺はレフト。


転校生はショート。


監督のノックが続く。


三遊間への鋭いゴロ。


普通なら抜ける。


誰もがそう思う打球だった。


だが転校生は違った。


一歩目が異常に速い。


横へ飛び付く。


捕る。


そしてそのまま立ち上がる。


一塁送球。


アウト。


簡単そうにやっている。


だが簡単じゃない。


小学生であんな動きができるやつはほとんどいない。


「ナイス!」


監督が笑う。


チームメイトたちも歓声を上げる。


転校生は当たり前のような顔をしていた。


それがまた腹立たしい。


次の打球。


今度はショート正面。


少しだけイレギュラーした。


ボールが跳ねる。


普通なら慌てる場面だ。


だが転校生は身体を沈める。


グラブを下から出す。


綺麗なショートバウンド処理。


ボールは吸い付くように収まった。


送球。


アウト。


監督が思わず笑う。


「お前本当に小学生か?」


周囲も笑う。


俺は笑えなかった。


驚いていた。


ショートバウンドを捕る技術なんて、昔の俺は知らなかった。


中学に入ってから覚えた。


なのにこいつは当たり前のようにやる。


しかも成功率が高い。


俺はレフトから見ながら思った。


やっぱり違う。


こいつは最初から上手かったんだ。


練習は続く。


今度はバッティングだった。


ここでも改めて驚かされた。


転校生はホームランバッターではない。


俺みたいに無理やり飛ばすタイプでもない。


身体もそこまで大きくない。


パワーも普通だ。


だが。


打ち分ける。


右へ。


左へ。


センターへ。


自由自在だった。


監督が外へ投げる。


流し打ち。


綺麗にレフト前。


次は内角。


今度は引っ張る。


鋭い打球がライト前。


高め。


センター返し。


打球はコーチの横を抜ける。


本人は当然のような顔をしている。


周囲だけが驚いていた。


「すげぇ……」


「また打った」


「なんで全部違う方向なんだよ」


小学生らしい反応だった。


だが俺も同じ気持ちだった。


打とうと思った場所へ打つ。


言葉にすると簡単だ。


だが実際は難しい。


それをこいつは自然にやっている。


塁に出る。


走る。


守る。


全部できる。


まさにザ・ショートって感じだった。


チームの中心になる選手。


そんな印象だった。


そして。


俺が一番驚いたのは別のことだった。


練習後。


みんなが帰る準備をしている時だった。


転校生が近付いてくる。


「なあ」


嫌な予感がした。


「何だよ」


「キャッチボールしようぜ」


俺は少し固まった。


昔も聞いた言葉だった。


何度も。


何度も。


何度も。


こいつはよく誘ってきた。


試合前のアップ。練習前や練習後。何度か放課後ですら。


いつもだった。


だが俺は断っていた。


適当に理由を付けて。


疲れたとか。


帰るとか。


用事があるとか。


そんな理由で。


理由は簡単だった。


嫌だったのだ。


上手いやつと並ぶのが。


比較されるのが。


自分の下手さが目立つのが。


当時の俺はそう思っていた。


だから避けていた。


だが今は違う。


中学まで野球をやった。


社会人になるまで生きた。


そしてタイムリープした。


昔よりはマシだ。


少なくとも逃げる理由はない。


「いいぞ」


そう答えると。


二人でグラウンドの端へ移動する。


距離を取る。


そして投げる。


パシン。


ミットが鳴る。


転校生の球は綺麗だった。


速さじゃない。


回転だった。


伸びる。


捕りやすい。


いい球だった。


俺も投げ返す。


パシン。


また返ってくる。


何球か続ける。


そのうち気付いた。


楽しい。


ただそれだけだった。


昔は嫌だった。


緊張した。


比べられると思った。


だが実際は違う。


転校生は何も言わない。


フォームを馬鹿にもしない。


下手だとも言わない。


ただ普通に投げている。


それだけだった。


ふと疑問が浮かぶ。


なぜだ。なぜこいつは俺を誘うんだ。


昔の俺は上手くなかった。


少なくともこいつよりはずっと。なんなら下から数えた方がはやい。


なのに何度も誘っていた。


どうしてだろう。


パシン。


また球が来る。


転校生が言う。


「やっぱお前肩強いな」


俺は少し驚いた。


「そうか?」


「強いだろ」


当然のように言う。


「遠投も飛ぶし」


「そんなもんか」


転校生は首を傾げた。


「気付いてないのか?」


そして笑う。


「もったいねーな」


俺は言葉に詰まった。


昔の俺も。


こう言われていたのだろうか。


もしかしたら。


俺が勝手に壁を作っていただけなのかもしれない。


下手だから。


才能がないから。


比べられるから。


そう決め付けていたのは。


自分だけだったのかもしれない。


夕日がグラウンドを赤く染める。


キャッチボールは続く。


パシン。


パシン。


心地良い音が響く。


俺は少しだけ思った。


もし昔の俺が。


この時間を避けなかったら。


何か変わっていたのだろうか。


そして。


現代でライバルが言った言葉を思い出す。


『俺ら二人で無双してたじゃん』


その未来があったのだろうか。

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