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第13話 囚われのタオファ、怪物狩りの武人と相まみえる

(ッ……いや、もうダメ……私は、もう……耐えられないかも、しれない……)


 いまだ縛られたままの桃花タオファが、その可憐な面貌を苦渋に歪めている。襲い来る嵐が、ただ過ぎ去るのを待つように……桃花に今、恐るべき責め苦が行われていた――!


「――でだな、わしが太子となった暁には、今の暗愚な王をとっとと退位させてじゃな。わしの息のかかった家臣のみを重職にけて、この国を良いように操ってくれようと――」


(だから、なんでっ……私に喋るの!? さみしいの!? 別に聞きたくもないし、拷問でしかないわ、こんなの……!)


「そうそう、実はわし、国外とも繋がっておってな。この高貴なるわしが直接、この国を切り売りするなり取引してやるつもりなのじゃ。まあ北狄ほくてき(※中華から見た北の異民族)なんかはこの国を狙っておるという噂じゃが、所詮は蛮族の浅知恵よ、わしが王となればどうとでもできるわ。くーっくっく!」


(しかも結構とんでもないこと言ってるし……ああ、ほんとイヤ、こんな情報、知りたくない……巻き込まれたくないよう……)


「あとぶっちゃけわしだけでなく、他にも国内に協力者は多くての。不正を働き閑所に飛ばされた役人や元・貴族なんかは、常に反乱の機会を窺って……ちなみに具体的な名前は――」


(いーやー! ほんとやめて、聞きたくなーいー! 助けてパイー!)


 嫌がっても桃花は口を塞がれて喋れないし、公子のお喋りは間抜けにも思えるが、言っていることは立派に国賊である。

 ……いや、あるいはあえて秘密を明かし、強制的に共犯とすることで、桃花を巻き込んでしまう腹積もりかもしれない。汚い、やはり公子、汚い――!


 ちなみにそんな公子が、何やら満足したのかツヤツヤとした面持ちで、()()()のような長い髭を弄りながら口の端を歪めた。


「……くくく、気丈にも何かを耐え忍び、待っておるようだが、無駄なことよ。おまえが例の家で、一人で暮らしていたわけではないと、わしが知らぬと思うてか?」


(……えっ? どういう、こと?)


「調査によれば……長身の偉丈夫と、そして白い毛並みの大きな虎を飼っておる、とか? くくく、護衛のつもりやもしれぬが……その男がいかな武勇を持っているか知らんが、わしの持つ軍の前では無意味! 気がかりは妖か何かと噂されるほどの大虎だが、それすらも、既に対応策は練っておるわ!」


 公子の言葉に、桃花は訳が分からず目を丸めている。すると、不意に扉が開き、大きな足音を立てる何者かが踏み入ってきた。


「――失礼するぞ、公子殿。まだ、この場に留まるのか?」


「! おお、武人殿、まだそれほど時間も経っておらぬと思うが、いやお待たせしてしまっておるかな? くくく!」


(!? な……なに、この人……普通じゃ、ない?)


 現れたのは、人化したパイや太子・燕景えんけいの長身すら凌駕する巨漢。惜しげもなく隆々な筋骨を晒す、武人と呼ばれた彼へと、公子は機嫌を取るべく接している。


「いやはや何度見ても、壮健なる御姿……噂もかねがね聞いておりますぞ。武芸百般をきわめ尽くし、戦場では無敗。もはや武勇は人の領域ならず、人を喰らう伝説の怪物、かの四凶しきょう窮奇きゅうきを討伐したとか……!?」


(!? 四凶、窮奇……私も書で読んだことがある、中華に伝わる有名な怪物。普通は信じられない、けれど白虎神獣のパイを知っている、今となっては……まさか、本当に実在する怪物なの?)


 青ざめる桃花だが、武人は首を横に振って否定する。


いや、あれはそういう異常な成長を遂げただけの獣で、別に伝説の怪物でも何でもなかった。まあ、おれ以外に誰も敵わなかった、というのは確かだが……しかし此度の護衛の任は、相手が妖魔の類という大虎と聞いた。眉唾ではない、と期待したいものだ……虎など、素手でもくびれるゆえな。さて、どうなることやら」


「くっくく、いやはや何とも頼もしい……武人殿がおられれば、相手が妖魔であろうと怪物であろうと、安心ですな! くっくっく!」


「ふっ……褒めすぎだ。あと変な笑い方だな。ム、そこにおるのが、()()()()()()()()という例の女人か? 何やら心神を喪失し、妖術の薬をぶっかけてくるので、仕方なく縛っておると聞くが……は、はうあっ!?」


(? な、なに、私を見て、目を見開いて……いえ、睨んでいる?)


 今までで一番かというほどの巨漢に見据えられ、桃花は思わず身を竦める。

 すると武人は突然に――ご自慢の筋骨を殊更に隆起させ、様々な姿勢を見せつけ始めた。


「安心なされい……人食いの怪物や妖虎ようこの一匹や二匹!(筋肉ムキッ!) このおれにかかれば、物の数ではない――見事、屠ってくれよう!(筋骨メキッ!)」


(……むさくるしい……)


「ゆえに、心配など無用! 可憐なる女人を、必ずや妖魔の支配から解放し――その涙、止めてやるゆえな!(筋骨隆々(ムッキムキ)!)」


(しくしく……もふもふが、もふもふが恋しいよう……)


 泣いている理由は勘違いされているようだが、少なくとも只者ではない武人に、桃花は危機感を煽られる。


(けど……この人が、そんなにも強いのなら。パイが、もし助けに来てくれても……危険かも、しれない? そんな、パイが危険な目に遭うなんて――)


「――ほ、報告です! こんな中継地でモタモタしている間に、太子・燕景が少数とはいえ兵を率いて追ってきているとのこと! いえ、そ、それ以前に……白髪の、謎の男が現れ、兵と交戦していると……くっ、こんな所でモタモタしていなければ、今ごろ北の駐屯軍と合流できていたやもしれぬのですが……!」


「なにっ、おのれ燕景め、予想より早いではないか!? ところで伝令、暗にわしのこと責めておる?」


「いいえまさかそんなことございません本当です! と、とにかく燕景は拙速せっそくゆえ軍の規模はそれほどでもない模様、ゆえにわれらで迎撃いたします! 戦になりますゆえ、モタモタ公子さまもお心構えを!」


「ウ、ウム、わかっ……今なにか聞こえたような? オイ伝令?」


 しかし伝令は、それ以上は語らず早々に出ていく。

 一方、武人は木の幹のような豪腕で腕組みし、つまらなそうに呟いた。


「フン、白髪の男といえば、確か妖魔を操る妖術師と聞いたほうか……たとえ妖術を操ろうと、今さら人間の相手など、つまらぬ。おれが出るまでもないな……」


 武人の意図がどうであれ、今しがた伝令の報告に挙がった者の正体は、桃花だけが理解している。


(パイ……ごめんなさい、私が心の中でとはいえ、呼んでしまったから……あなたは、来てしまったのよね。こんな、危険な場所に……ッ)


 だからこそ、大切な家族を想い、桃花は再び()()()()を思ってしまう。


(あなたが傷つくくらいなら、私なんて、どうなってもいい……こうして助けに来てくれただけで、私はもう、充分なの。だから、お願い。本当に聞こえているのなら……逃げて、パイ――!)


 その悲痛な叫びは、自己犠牲により発せられている――が、それは本当に、桃花の〝願い〟だと言えるだろうか?


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