第三百十七話 越洋
ヤッピとの再会!
アンダーゲートに戻って宿屋に行く。相変わらず二人ともすっかり溶け込んでるなあ。
「二人とも、そろそろ村に帰るよ」
「えー」
「もうちょいいいだろ」
「帰っちゃうの?」
二人は不満そうにしていたし、ウルリカちゃんは寂しそうにしている。
「パンドーロちゃんについてはここで働いても構わないよ。その時は雇い主が私からエイリークさんになるだけだけど。もっとも、雇ってくれるかどうかはまた別の話だけど」
「え?」
元々パンドーロちゃんたちは働く場所を求めて私のところに来たのだ。無理に私のところで雇用しなければいけない理由なんかない。街中で働きたいならそれはそれで構わない。
だけどエイリークさんはどうだろう? この宿屋だって家族経営で回しているが、他の人を雇って住み込みで働かせて給金をやるなんて余裕があるのかどうか。いや、それなりにはあるんだろうけど、他の従業員が全員家族だからね。多分疎外感とか味わっちゃうんだと思う。
「アディ君はどうしてもって言うなら働いてもいいし、残ってもいい。あなたの保護者は私じゃないからね。一度村には帰らないといけない。その上で村長さんを説得してね」
アディ君の方は村に残るかどうかを決めるのは私では無いのだ。今回は今後のためにという事で私について来たのだが、村を離れて働くというのであればきちんと保護者に許可を貰わねばならない。
どっちにしてもエイリークさんに最終的な判断は委ねられる。そして、ウルリカちゃん。出会いがあって嬉しかったんだろうけど、別れもいつかは来るのだよ。同じ年頃で、自分がお姉さん風を吹かせられる存在というのは新鮮で貴重だったと思うけど、それも一時の感情だ。
「ウルリカちゃん、また二人を連れて来るから」
「うん、わかった、待ってる」
ウルリカちゃんは聡明な子だから二人が残らないことはわかっているんだろう。最後ということで少し豪華なご飯を食べて二人と共に村に帰った。
村長のアドバールさんのとこに行き、遅くなったことを詫びる。アディ君を預かったままだったからね。
「構いませんよ。アディも村の外の世界を知らねばならなかった時期ですからな。まあ少し早かったやもしれませんが」
「楽しそうにはしていましたよ」
「そうですか。そりゃあ良かった」
「じいちゃん、おれ、頑張って働くよ。なんか手伝う事ある?」
そんなアディ君の様子にアドバールさんと二人で微笑ましく思うのでした。それから自宅に帰る。ラヴィアが私の方をジト目で見てる。いや、別に書類をほっぽりたくて行ってた訳じゃ。あ、給与三倍になったよ、って言ったら本気でびっくりしていた。なんでもあの書類は「この様な書類にまで見ずにハンコを押してしまうのです」の見本みたいな感じで送ったんだって。公爵様、それで簡単に承認出しちゃったんですか?
グリッシーニちゃんは、かろうじて生きていた。うん、まあフラフラだったのは間違いないよ。で、代わりにパンドーロちゃんがピンチヒッターで入ることに。私? 私も書類の整理だよ!
膨大な量の書類に押し流されそうになりながらも書類を整理していたら大鷲便が来た。今回はあまり顔を知らない人だ。書簡がついていた。なになに? あ、あの双子が王都に着いたのか。一週間の休暇の後にアンダーゲートに向かわせる予定、ねえ。なるほど。まあそっちはもう任せよう。何でもかんでも介入するのも良くないし。
さて、この国内で調達出来そうな果物類はミルドレッド公爵に任せよう。私は海を越えて別の大陸の果物を求めて行くよ。とりあえずは西大陸かなあ。
まずは転移で直接行けるか試してみた。うん、ダメだね。マリナーズフォートに跳ぼうとしたらなんかに邪魔された。仕方ないのでアンダーゲートに行ってアルテミシアさんに船を手配してもらった。幸いにして定期的に行き来してる船が数日で出航するらしいのでそこに便乗させてもらう。
船旅を経て特に何事もなくマリナーズフォートへ。まず行くのは領主の館だ。ヤッピは元気かなあ。
「あの、領主様にお会いしたいんですけど」
「面会か? 面会ならそこの名簿に名前を書いて順番を待つように」
なるほど。順番待ちの名簿ね。レストランの順番待ちの時に書くやつだ。私らは元々名字とかなかったんで、活動する時に使う偽名は「林」だったなあ。鱗胴→林道→林の道で、「林」らしい。なんつー安直な。いやまあ下手に凝った名字にしても怪しまれるだけだしね。
名簿に名前を書き終わると衛兵さんが近付いてきた。そしてなんか手を出している。握手かな? 手を握ろうとしたら払われた。
「なんだ? 付け届けもなしか?」
「付け届け?」
「そうだ。袖の下の額に応じて順番を繰り上げてやるぞ? なんなら身体で払うか?」
私みたいな薄い体型の人はあまり魅力がないんだけどそれでも一定数の需要はあるらしい。度し難い。
「残念ながらお渡しするものはありません」
「ちっ、貧乏人が。まあいい。それなら最低一ヶ月、いや、半年ぐらいはかかるかもなあ」
いやらしい笑いを浮かべられた。ちょっとヤッピ。こんなの飼ってんの? とりあえず宿屋を確保して荷物を置いて領主の館の中に転移する。まあそれなりに勝手知ったるってやつだからね。
領主の部屋の前でノックをする。返事はない。中には居ないんだろうか。とりあえず透視で中を見る。何もない。もしかしてここにはいないのかな?
仕方ないので領主の館のさを後にしてリッピ商会へ。予想が当たってるならここに居るはず。店の前で丁稚を捕まえて店主を呼ぶように言ったらリッピさんが出てきた。
「おお、キュー殿。お久しぶりですですなあ。どうぞこちらへ」
そう言って中に通された。応接室に行くのかと思ったらそこを通り越してなんか隠し部屋みたいな所に通された。は? いや、客連れてくるところなの? とは思ったけど何も言わなかった。
「ヤッピ、キュー殿だよ」
扉の前でリッピさんが声をかけるとバン、とドアが開いて少し痩せたヤッピがそこに居た。




