正義(episode318)
ちょこっと鱗胴研究所の事も仄めかしてみました(台無し)
スーツ男は迷わずこっちに走って来る。この思い、一直線! 振り抜くようなサッカーボールキック。ドライブシュートとか撃てそう。あ、威力的にはタイガーショット? ファイヤーショットの方が威力高いよね。どうでもいいけど、なんでドイツ人なのに「ファイヤー」なんだろうね。
「外したか」
「くっ、正義さん。何を」
「ふん、閃光弾の様だ。隠し持っていたのか?」
「あなたは平気なんですか?」
「咄嗟に防いだからな。だが、多少は影響が残っている。蹴ったのも当てずっぽうだ」
当てずっぽうであんなそばを蹴ったんですか? というか下手したら当たってましたけど。と、とにかく体勢を立て直さないと。
「出て来い! ここは囲んである。逃げ出る様な隙間はない。大人しく投降しろ!」
まるで警察が立てこもり犯に呼び掛けてるような物言いだ。あ、いや、こいつ清秋谷なんだっけ。
通り抜けようと思ったらそれなりに苦労はするだろうが、多分大丈夫と思う。少しでも詠唱して魔法を撃ちたいところだ。そうしたら広範囲で殲滅出来る。
「仕方ない。炙り出すか」
正義とかいうスーツ男が右手をあげると何人かがずらっと並んでそれぞれが武器を構えている。マシンガンという奴だ。
「構え、斉射」
ドガガガガガガ、と物凄い音がして私の隠れている茂みに無数の銃弾が撃ち込まれた。いやいやいやいや、私の流水防御がなかったら蜂の巣になっちゃうよ!
「お、おい、正義。そんなにしたら死んでしまうじゃないか」
「一太。お前は報告書を読んでないのか? 相手は銃弾を弾いたんだぞ? どのくらい弾けるのか戦力分析は必要だろう」
うわぁ、こいつ、私の事舐めてくれてない。舐めていいんだよ、むしろ舐めろ。冷静に計算高く私の戦力を分析しようとしてる。やりにくい相手だ。
「おそらくは血が流れてこないので防ぎ切ったのでしょう。どうやったのかは分かりませんが実に興味深い」
「その茂みから逃げてるということは?」
「横のトラップには反応がありませんでしたからね。多分そっちには動いてないんでしょう」
トラップ!? そんなのを仕掛けてたのか。もしかして爆発して手足が吹っ飛ぶ系? 勘弁して欲しいんだけど。
「さて、銃弾は凌いだみたいですが、こっちはどうですかね。制圧班、前へ!」
次に現れたのはプロテクターに身を包んでジュラルミンの盾を構えた人たち。いわゆる機動隊という奴だろう。武器は警棒だが、捕縛には鋭い武器なんか必要ないんだよね。盾による面制圧。突破手段がないとどうにもならない。
例えばジョキャニーヤさんやガンマなら軽々と飛び越えて切り抜けるだろう。美鶴さんなら力づくで盾を破壊するかもしれない。ミシェルや瑞麗さんなら盾の隙間から入り込んで同士討ちとか狙ってんだろう。私はそのどれでもない。つまり、詠唱による大規模殲滅だ。魔法はもう練り上がったよ。
「静謐なる天よ、清浄なる水の流れよ、凍土となり地を覆いて咲き誇れ。永遠の氷河、常世の闇、地を統べて白夜と化せ。水門〈氷結永久凍土!〉
水門最源流魔法。わざわざ詠唱を持ち出さなければ発動さえしない、広範囲殲滅用。地面に凍気が走る。気温が下がり、地面が薄く水で満たされる。
ジュラルミンの盾を水が覆い、その端から凍っていく。盾だけでなく、身体に氷がまとわりつく。この世の全てのものかが凍る絶対零度。摂氏マイナス二百七十三・一五度。私の魔法はそこまで行ってないと思うが、人体を凍らせるにはマイナス二百度もあれば十分。
今回は全身ではなく足元までにしておいた。さすがに全身は死んじゃうからね。えっ、美鶴さんには遠慮なくやってたろって? いや、あの鬼多分それくらいじゃ死なないよ。
氷は地面をつたってスーツ男とクソ眼鏡にも到達する。クソ眼鏡の方は慌てているようだが、スーツ男の方は冷静に見極めているみたいだ。どうやら全身を凍らせる訳ではないと気付いたかな?
「なるほど。命までは取る気はないということか。お優しいことだ」
そして再び右手を挙げる。そしてなにかのボタンを押した。空にバラバラバラバラという爆音が響く。あれは知ってる。ヘリコプターってやつだ。螺旋翼機だね。
次は懐からなんかの通信機器みたいなのを出した。そして命令を下す。「掃射」だと。
「あの、今掃射すると機動隊員にも当たりますが」
「構わん、やれ」
うっそだろ、おい! せっかく殺さない為に動きを止めた程度にしていたのに。私は簡単に人を殺すような殺戮者じゃねえぞ! いや、モンスターとか魔獣とかなら割とやりますし、自分に命の危機が迫ってるなら仕方ないと手は下しますけど。
ヘリコプターからバルカン砲というのだろうか。えっ、大きさ的にはミニガン? 何が違うのさ! 銃口がこちらを狙っている。私は走って飛び出した。多分間に合うと思う。ヘリコプターから弾丸が発射され、私は〈流水防御〉と唱え、その全てを弾き返した。
「なるほど。どういう原理かは分かりませんが飛び道具は通じない、と。異能の類でしょうか。そういえば超能力とやらを使う犯罪者もいるのだとか。全く面倒な事です」
スーツ男が私の方に歩み寄って来た。そして私に穏やかに語り掛ける。
「あなたがティア・古森沢ですね。私は清秋谷正義。こう見えても正義の味方というやつですよ」
正義の味方。聞こえはいいがその「正義」とやらの判定がどこにあるのか難しい。百人いれば百通りの正義がある。私の正義はみんなと平穏無事に暮らすことなのだが、それがこいつの正義と合致するとは思わない。
「セイギのミカタとやらがか弱い女の子に銃を撃つと?」
「テロリストのアジトに居たのです。テロリストとして処分することの何が悪いのですか?」
やっぱりだ。こいつは他人の正義なんかどうでもいい、自分の正義に酔ってるクソ野郎だ。本当にクソしかいないなあ。




