軍歌(episode316)
ティアの弱点というか魔法は頭の中でこねくり回さないと出ません。ティアちゃんぴーんち!
二十発近い銃弾を撃ち尽くすとトリガーを弾く音だけが虚しく響く。いや、響かないな。なんせパチンコ屋だもん。台の音がうるさいから聞こえないに決まってる。でも確かに聞こえてきた気がしたんですよ。
「クソ、クソ、クソ!」
「お客様、おトイレはあちらにございますよ」
「なんなんだよ、お前は!?」
あら、心の余裕も無くなっていらっしゃる? それじゃあそろそろご退場願いましょうか。私は〈風鎚〉でご退店いただこうと思ってたら凪沙に止められた。どうした、凪沙、何故止める?
「魔法で追い出そうとしたでしょ? 自動ドアが壊れるからそれはやめて」
「ごめんなさい」
素直に謝って男たちをつまみ出す為に気絶させるのです。確かこう、首の後ろをバシッと
「あいてぇ!?」
「あれ? 気絶しない」
「何がしたいんだ、お前は!」
いや、かっこよくね、こう、ビシッと、ビシッと打撃で気絶させるやつをやりたくてですね。とかやってたら突然チンピラどもが「うっ」ってなって気絶した。これは一体?
「今頃になって効いたんじゃないの?」
「でもまだやってない金髪の方も」
「きっと気絶が伝染したんじゃない? それよりも店から叩き出そう」
「あ、うん。そうだね」
男たちを外に運ぶ。まあ運んだのは三と鹿なんだけど。こいつら馬がやられるのを隠れて見てやがった。まあ的確な判断力だとは思うが男としてはちょっとねえ。
それから店の中を片付けて来てたお客様にはお詫びにコーヒーを出しました。生豆で仕入れて焙煎から抽出まで全部お手製。完全に源三パパの趣味なんだけど、楽しそうだからいいよね。専門店のよりも美味しいと評判でパチンコ打ちにもじゃなくてコーヒー飲むためにパチンコやってる客もいるとかいないとか。
ちなみにアケミさんは砂糖もミルクもたっぷり入れて飲む人だ。コーヒーに砂糖をたくさん入れるとどうなるの? あまーいあまーいココアになるのよ。ってならないけど。カフェオレ、カフェラテ、コーヒー牛乳。あなたのお好みは?
まあその日はそのまま閉店まで何事もなく、というか追加が来ることもなく終わったわけです。
翌日。凪沙はお休み。三馬鹿は出勤してるけどマコト君はオーナーであるパパと出掛けた。今日の責任者は私だよ! いや、確かにパパの娘とはいえもう部外者なのに店任せるか? とは思うがまあいいや。とりあえず表のシャッター開けて開店準備を……
シャッターを開けるとそこには黒い車が何台も停まっていた。んー、どっかで見た事あるなあ、この光景。ただ、黒い車というのが「黒塗りの高級車」じゃなくて、車の横っ腹に「八洲平和統一戦線」って書いてある、屋根にスピーカー載っけた車なんだよね。
私がシャッターを開けた事に気付いたのかその車のうちの一台から大音量の声が出された。
「我々は! 八洲平和統一戦線である! この店は、国賊たる、毛唐の店員を飼っていると通報があった!」
ケトーってなんだろ? 国賊とか言われてもなあ。意味がわからない。パチンコに負けたから金返せみたいなバカは年に一回くらいは現れたりするんだけど。もちろん丁重にお帰りいただいている。
「我々は平和を愛する八洲の民である! よって平和的な手段によって解決を図りたい!」
あら、割と話のわかる人達なのかも。見た目に惑わされずに話し合いに応じることが大事なのかもね。よし、じゃあ改めてシャッターを開けて。
「おはようございます、本日店長代理を勤め……」
「居たぞ、夷狄だ! 撃て、撃てぇーーーーー!」
なんかみんながマシンガン構えてこっちに撃って来たよ! いや、私には効かないけど。でも後ろの店に当たっちゃうから風の幕で弾くよ。その間に流水防御張って……あーもう、忙しい! 二つの魔法をいっぺんに展開するの、なかなかキツいんだからね!
「効かないだと!?」
「おのれ、毛唐め、伴天連であったか!」
いや、イテキとかケトーとかバテレンとか言われてもなんのこっちゃ分からんて。私は八洲語のネイティブスピーカーじゃないんだよ。自動翻訳でも分からない言葉はわかんないんだよ!
「あの、平和的な手段じゃないんですか?」
「その通り! しかし、夷狄は討ち滅ぼさねばならんのだ」
「そのイテキってなんですか?」
「貴様らのような者のことだ」
あー、つまりよく分かんないけど私が気に入らないのね。なんか難癖つけられてる、くらいの理解で良いのか。
「まあそれでも平和的な手段を取るのが我々八洲の民だ」
「マシンガンは平和的じゃないでしょう」
「当たらなければどうということはない!」
「そっちの意味で使う人初めてですよ!」
普通は自分の回避を誇る言葉だと思うのだが、まさか攻撃側が使うとは。あら? みんな車に乗り込んだな。これは帰ってくれるのかな?
「八洲国軍軍歌斉唱!」
なんか一台から大音量が聞こえたかと思うと、それぞれの車のスピーカーからなんかのメロディがそれこそ大音量でサラウンドで流れる。これは音波攻撃!?
「我が皇国のぉ〜」
「萬里の道ぉ〜乗り越えてぇ〜」
「野を往かば草生す屍のぉ〜」
何言ってるか全然わからん上にうるさくてしかも輪唱してやがる。魔法に集中出来ないよ。うるさいうるさいうるさい! あっ、べっ、別にツンデレじゃないんだからね! ってくぎゅ声は出ないよ。
「おお、効いている!」
「やはり我らの軍歌は悪霊調伏の力があるのだ!」
「よし、一気に畳み掛けるぞ!」
なんか歌が一瞬弱まったから今のうちに魔法を、とか思ってたら次の歌が。いや本当に意味不明なんだけど。
河がどこか分からない? 水探知の魔法使えよ。焼かぬ干物? 半煮えのご飯? そんなの火魔法で何とかしろ! 背中の熱で雪が溶けて濡れた? 知るか! 予め防水しときなよ!
頭がクラクラしてきた。目が回る。いや、意識を失っちゃダメだ。失っちゃ……ぐぅ。ダメだ。




