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第三百十五話 王食

書いててお腹空いてきた。

 近衛騎士の皆さんが国王陛下の指示のもと、デブ豚野郎を拘束し、王城に連れて行くことにしたらしい。なお、これは「逮捕」ではなく、「護衛付きの王城召集」らしい。いや、連行されてんじゃん!


「さて、じゃあ国王陛下帰りますよ」

「いやいや、せっかく来たのにもうおしまいか?」

「だって領主を連れて来いって言うから陛下を呼んだだけですもん」

「そりゃあないだろう。なんか美味いもん食わせろ」

「仕方ないですね。じゃあアンナの実家に行きましょう」

「宿屋を経営しているのだったな」


 そんな事を話しながらアンナの実家である海鳥の羽ばたき亭へ到着。近衛騎士の皆様にはご遠慮いただいた。いや、本人たちは納得しなかったんだけど、


「庶民の店に騎士たちが大挙して押しかけたら迷惑になるのが分からんか!」


 と国王陛下が一喝して周りのお店に分散して入ることに。あ、デブ豚野郎は放置です。逃げてもいいけどその時は「召集に背いた」という罪でその場で斬首されるらしい。いや、比喩でもなんでもなく。


「いらっしゃいませ! 海鳥の羽ばたき亭へようこそ! ってキュー様!」


 出迎えてくれたのは可愛いメイドドレスに身を包んだパンドーロちゃん。いやいや、良くお似合いで。


「似合わないですよ。こういうのが似合うのはコロンバとかパニーニさんとかネロ君とかですよ」


 いや、確かにネロ君は可愛いし、パニーニちゃんと姉弟だから似合うっちゃあ似合うけど。なんか似合ったら負けって気がするのは何故だろう。それとも剣が強くて女装もいけるアス〇ルフォ枠でも狙ってんのかな?


「うん、ただいま。お客さん連れて来たけど、入れる?」

「えーと、空いてますから入れますよ」

「良かった。ではこちらへ」


 そう言って王様を案内する。オリビエさんがにこやかに出迎えてくれた。


「おかえりなさい、キューさん。こちらの方は?」

「キューの友人でな。あなたのようなお美しい方に案内してもらえるのは嬉しい限りだよ」

「まあ、お上手ですね。こちらへどうぞ」


 そう言ってにこやかに接客スマイルを浮かべる。通されたのは特別席みたいなところ。なんだよ、ここ。私専用の席? あー、まあ家族扱いってんならそれでもいいや。


「オ、オリビエ、誰だい、そいつは!」


 エイリークさんが血相を変えて厨房から飛び出してきた。いや、仕事しなさいよ。


「キューさんのご友人の方ですって。素敵な方よね」

「浮気かい!? もしかして浮気するつもりなのかい?」

「あら、あなたと違って私は浮気なんかしませんよ」

「私だって浮気なんかするものか!」


 なんか口喧嘩がいつの間にか愛の告白みたいになっててそのままイチャイチャしだしたぞ。まあ国王陛下は面白そうに見ているからいいか。


「それでキュー様、ご注文は」

「適当に見繕って……って、アディ君?」

「い、いや、だって、パンドーロが着ろっていうから」


 ちなみにメイドドレスではない。その方が面白かったのにな。まあネロ君程のインパクトはないけど。アディ君が着ているのはコックコートだ。男性用の服があまりないらしい。そりゃあまあ女ばかり三姉妹の家だもの。男物の服の方がある方がおかしい。コックコートなら女の子でも男の子でもいけるだろうしね。


「わかったよ、イレーヌ、適当にだって」

「はぁ? そういうのが一番困るのよ。しっかりオーダーとってってキューさんか。ならいいや。適当に作るね」


 ひょっこりとイレーヌちゃんが顔を出して私の姿を確認するとそのまま厨房に引っ込んだ。彼女は私が何を出されても美味しい美味しいと食べてくれるとわかってるからね。そりゃあまあ、研究所のペーストご飯を経験したら何食べても新鮮で美味しく感じるよね。いや、ペーストも健康上の面では完全食なんだけどね。


 運ばれてきたのは鳥の丸焼き、海鮮煮込み、パスタ、チーズグラタンみたいなやつだけど下に敷かれてるのが魚介類なやつ、オニオンスープ、そしてワイン。


「ふむ、悪くない。外国産のワインだな」

「そういうのわかるの?」

「私が飲んだことがないからな。国内のワインはだいたい献上されて、毒味を経て消費される」


 あー、国王陛下だから毒味とかあるんだ。今は平気で食べてますけど。いやまあ毒殺とか考えたこともないよ。この国気に入らなきゃ別の国に行くだけだし。今なら別大陸かな。でもエレノアさんとかと離れたくはないなあ。


「食わんのか?」

「いや、食べます食べます」


 それからは無言でご飯を食べた。おしゃべりもいいけど私と国王陛下じゃ話すネタもそこまでないし、何より、国王陛下が温かいご飯を堪能してるみたいだからね?


「いやあ、食った食った。こんな美味いメシは久しぶりだ」

「お口に合ったみたいで何よりです」


 そんな風にくつろいでるとアンナが仕事から帰ってきた。


「ただいまあ、母さん、なんか温かいもの欲しい。イレーヌ、作ってぇ……って陛下!? なんでうちに!?」

「あら、アンナの知り合い?」

「知り合いというか上司というか」


 国王陛下は愉快そうに笑う。せっかく仕事モードから解放されたと思ったら自宅に面倒事が待っていた、みたいな顔しないでよ。そのまま連れて帰りますんで。


「さて、アンナとも対面しましたし、そろそろ王城帰りましょうか」

「もうちょいゆっくりさせろよ」

「ダメですよ。私が近衛の皆さんに叱られるじゃないですか」


 そう、食事が終わったら近衛騎士と共に王城に帰るように言われていたのである。この約束があったからこそ店での護衛をやめてくれた訳だが。


「仕方ねえ。帰るか。アンナ、あとはよろしく頼むぞ」

「はい、陛下。今度は先触れをしていただけると助かります」

「そりゃあキューに言ってくれや」


 アンナには睨まれました。解せぬ。いや、分かりますけど。私としては連れて来て対面させてそのまま持って帰るつもりだったんだよ。ゆっくりする気なかったんだって。


 そんなこんなで近衛騎士の皆さんも連れて転移した先ににこやかな顔をした宰相閣下が待っておられました。

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