匪賊(episode315)
健全な精神は健全な肉体に宿る、というのは元は「健やかな身体に健やかな魂が願われるべきである」という「そうだったらいいのに」な話らしい。まあ昨今の高校野球の不祥事見てたら、ねえ。
凪沙の靠で倒れるチンピラその一。とりあえずバットを持ったヒョロガリだ。だからか凪沙の攻撃でも何とかなったんだろう。
「ぐっ、いてて、何しやがる!」
「それはこっちのセリフですよ。店員を殴った上にこんなちっちゃい子にまで手を挙げるなんて」
「御簾深さん? 私は店長で、あなたよりもかなり歳上なんですが」
この際マコト君……さんのつぶやきは無視だ。ヒョロガリと睨み合ってるところにグラサンのチンピラがジロジロと凪沙の身体を舐め回す様に見る。
「ふむ、ちと肉付きが良すぎるがまあデブ専とかもいるだろうしな。顔の方はまあまあ悪くないからやれるだろう」
「何の話ですか?」
「治療費の話だよ。こいつ今の攻撃で立てないほどの怪我を負っちまった」
「いや、普通にたちあがりそうですけど」
凪沙が冷静にツッコんだかと思うと、突然、そのグラサンがヒョロガリを蹴飛ばした。いや、蹴飛ばすではないな。吹っ飛んでないから。そのままストンピングで顔面をぐしゃぐしゃに踏みつける。あまりの事態に私たちは呆気にとられた。
「なっ? ボロボロだろう」
「いや、それわあんたがやったよね?」
「違うなあ。お前がやったんだよ、お嬢ちゃん。なあ、ノボル?」
「アニキの仰る通りで!」
グラサンの男は同意を後ろにいた金髪ヤンキーに求めたら金髪ヤンキーはそのまま全面同意した。まあそりゃそうなるわな。
「さて、こちとらヒデオが寂しくないようにお友達を連れて行ってやらなきゃなあ。そこの馬鹿で良いか」
とか言いながらグラサンは馬場(だと思う)に近付いて行く。うーん、ここまでだね。私が出て行って立ちはだかった。
「なんだ、金髪の姉ちゃん。邪魔する気かい?」
「そうだね。そこの人は私の元同僚なんでね」
「そうかい。ここのパチンコ屋は随分とデブが多いんだな」
グラサンが嘲笑う。いや、確かに私も凪沙も胸の部分のお肉は多いけど体重は標準だもの。いや、その、もしかしたらおっぱいの分、少し、ほんの少しだけ重くなってるかもしれないけど。
「どきな。女を蹴るのはプライベートでと決めてるんだ」
「女は蹴らない、とかじゃないのね」
「男だろうが女だろうが歯向かうやつは蹴り飛ばすしかねえだろうがよ」
私は筋肉が好きだ。そしてこいつもそこそこ鍛えているし、悪くない筋肉は持ってると思う。だが人間性が最悪だ。健全な精神は健全な肉体に宿るって誰か言ってなかったっけ?
「そう。じゃあ私も本気であなたを潰すことにするわね」
「はあ? デブは引っ込んでろよ」
「デブじゃないわよ。こういうのはグラマーって言うのよ」
「知るかよ。女は細いのが一番に決まってんだろ。入るドレスがねえじゃねえか」
あー、まあ、ドレスはだいたい特注品になりますね。和歌菜さんも苦笑いしてたし。
「御託は結構。蹴り飛ばすんでしょ。やってみたら?」
「このアマ!」
ノーモーションからの鋭い蹴り。腹でも蹴るのかと思ったらローキックで足を狙って来た。まずは足を潰して逃げられなくしてから存分にいたぶるつもりなのだろう。そうは問屋が卸さない。
「金門〈鋼質化〉」
私の足が鋼と化す。何しろポールウェポンでの一撃さえ止める魔法だ。いや、世の中にはそれでもぶった斬る様なバケモノとかもいるらしいんだけど。本当に金ってやつは。
「痛ェ!」
グラサンが足を抑えて痛がっていた。そりゃあまあそうだ。鉄の棒を蹴り抜いた様なものなんだから。
「てめぇ、足に何を仕込んでやがる!」
「別に何も。か弱い女性の足でございますのことよ」
その言葉にチンピラもキレたのか顔を真っ赤にした。
「もう容赦はしねえぞ! 顔面から鼻血ぶちまけてのたうち回れ!」
狙ってくるのは当然ながらというかかなりシャープなハイキック。あ、もちろんジョキャニーヤさんとかガンマ程のスピードとかはないよ。あの辺は別格だからね。
私は迷わず〈鋼質化〉で腕を鋼に変えて蹴りを受ける。おおう、ちょっと衝撃来たよ。びっくりだね。でもまあ筋肉は増強されないもんなあ、これ。
「ぐっ、まただ。てめぇ、なんか武術でもやってんのか?」
「うーん、武術とかは特には。一応戦闘訓練みたいなのはやったことあるけど」
「そうか。なら遠慮は要らねえなあ。おい、ノボル、チャカ寄越せ」
「アニキ? こんな所でぶっぱなしたらさすがに清秋谷が」
「上で話はついてんだろ。構わねえよ。寄越せ!」
「へい」
ノボルとかいう奴は懐から拳銃を取り出してグラサンに渡した。あれだ。コルトは黒くて光るパスポートってやつだ。頭にぶち込まれるのかな、弾丸?
「泣いて謝ってももう遅え。てめぇを殺さない程度にぶち抜いた後にそこの女を犯してやる。まあ趣味じゃあねえが抱けねえ程でもないしな」
言うに事欠いて犯すときましたか。まあチンピラの考えそうなことだ。まあ凪沙にそんなことをさせるつもりもないよ。
「まずは右足からだ!」
と言いつつ撃ったのは左足。狡いったらありゃしない。まあ言われたら避けるなりなんなりな行動するし、逆の足ならその際の軸足になってるから動かなくて狙いがつけやすいってのもわかる。
まあ私の場合は常に〈流水防御〉張ってるからそもそも効かないんだよね。これは一応暗殺対策。どこかのビルの上から十三年式のG型トラクターで呼び出せそうなスナイパーが狙ってるからだからね。
という訳でそんなスナイパーライフルすら弾く私の防壁がハンドガン如きに負けるはずがないんだよ。撃ち込まれたはずの弾丸は私の身体を貫くことなく地面に落ちた。
「外した? この俺が?」
「いや、外れてはないよ。当たっても居ないけど」
私の身体に届く前に弾き返したから当たってはないんだよね。コース的に外した訳でもないし。
「クソ、クソ、クソォ!」
二発、三発と撃ち込むけどマシンガンの弾幕さえ弾くのに拳銃でどうにかなるわけが無い。




